第7話 協力

ヨルの世界で、ロア王国を破滅寸前まで陥れた人型兵器、レイダー。


2年前のネームレスを主戦力とする、アレクサンドリア戦争にてその生みの親である、前国王ユピテルはこの世を去り、活動源であった魔力の塊を破壊し残党も全て排除した。



はずだったレイダーが、2年越しにヴィータの前に立ちはだかった。



ヴィータが警戒のために分隊を離れている間に、第1分隊も壊滅、隊長がかろうじて動けるレベルの被害。


そんな状態にしたレイダーの汎用タイプ、α型は近距離は銃剣で、遠距離はそのライフルで戦う器用タイプだ。



出現した当時は、ネームレスがほとんど殲滅していた。


そう仕組まれていたということもあるが、殊更に生きる為に必死に鍛錬を積んでいた彼らしか歯が立たなかった。



戦争が終結してから、解放部隊と防衛部隊を結成し闘士の訓練も当時とは比べ物にならないほど力を入れていた。


だが、訓練と実践は違う。


練習と本番が違うのと同じように、圧倒的力を見せつけられた人間は、もちろん恐怖を覚える。


恐怖により、思考が止まり、体が動かず、自分の力をフル活用できない。


その結果が、今の第1と第2分隊である。



油断してたわけではない、ただ予想を遥かに超えた敵の力に圧倒されたのだ。



「くそがっ、亡霊かよてめえは!セット、伸長ロングラン!」


双棍を倍に伸ばし、α型の攻撃を弾くと共に風を切って振り抜く。


しかし、


軽やかに動けるα型は攻撃範囲から一歩で離れ、ヴィータの攻撃は空を切る。


「ちっ、ちょこまかと!」

「……。」


間髪入れず、α型は姿勢を低くし拳を放つ。


避けきれないと判断したヴィータは正面から受け止めるが、


「うぐっ、重てえ。」


土煙を上げながら10mほど後ずさる。


(ちっ、一撃受け止めただけで体に痺れが走る。けど、避けるのをミスったら確実に死ぬ、どうする、何か手はーー。)


思考を続けながら前を向くと、ライフルがこちらを向いていた。


「ちっ!」


トリガーが引かれ、10発の弾丸がヴィータに迫る。


双棍で弾こうとするが、3発程体を掠める。


手足から血が滴り、動きが少し鈍くなる。


「くそっ、こんな軽傷で俺を殺せると思うなよ!亡霊が!」


ヴィータは怯まずに双棍で攻勢に出るが、α型は容易く弾き余裕すら見られる。


「余裕かましてるんじゃねえよ!セット、セイバー!」


ヴィータの言葉と共に、双棍の先がドリルのように尖りα型を突き刺す。


肩の部品がはがれ落ち、危険を感じたのか距離を取る。



ヴィータの力、それは言霊イメージ


魔力を常に武器に流し、自分が想像したものを口にすることで武器の形状を変形させることができる。


もちろん、何にでも変えることができるわけではないが、近距離から遠距離まで戦える万能な力だった。


「おら!もっとこいよ、俺を楽しませろ!」

「……。」


α型は手で耳を覆い、何か聞いてるような仕草をする。


それを隙と捉えたヴィータは、


「もらった!」


ドリルの形状を保った双棍を突き刺す。



だが、


α型は予測していたかのように、その場にしゃがみ込み避けたと同時に回し蹴りをヴィータの腹に打ち込む。


「ぐはっ。」


胃液が口からこぼれ、その場に倒れるヴィータ。


その姿を見て、α型に慈悲などない。

さらにかかと落としが降り注ぐ。


(くそっ、こんなところで死ねるかよ!)


反射で横に転がり、立ち上がるとさらに拳が迫っていた。


双棍で受け止めるが、勢いを殺せず木に叩きつけられる。


「なんだよ、こいつ、本当に、ネームレスが倒した、機械なのか。化け物、すぎんだろ。」


一瞬視界がぼやけ、ヴィータはふらつく。


そこにα型はライフルの弾丸を放つ。



5発の弾丸が風を切り、ヴィータまで1m。


(い、いやだ、死にたくーー。)


ヴィータの目には死の文字が浮かんで見えた気がした。




そこへ、


「いくよ、紫鍼シシン。」


弾丸を斬り裂く紫色の斬撃が横切る。


「……?」

「て、てめえ、なんで。」

「ん、君はそこで寝てて、動かれると邪魔だから。」

「なっ!?ふざけやがってーー。」


ヴィータが反論する前に、突如現れたフィーは目で追えないスピードでα型に接近し、踊るように大鎌を振り回す。


α型も防御に徹するが、彼女の早さに追いつけず右足と左腕が損壊する。


再度距離を取り、フィーと対峙するα型。


(何だ、何であいつはレイダーとまともにやり合える?訓練じゃ、俺よりも下の成績なのに!)


ヴィータは意地で立ち上がり、双棍を構える。


「ん、動かないでって言ったよね、そんな体で何するつもり。」

「ふざけんな、こいつは俺の獲物だ、お前に譲るつもりはねえ!」

「獲物とか言ってる場合?死にたいなら止めないけど、死にたくないんじゃないの?」

「こんな奴に、俺が負けてやるわけねえだろ!協力しろ、鎌使い!」

「……はぁ、何でそうなるのかな。言っておくけど、カバーはしないよ、自分の命は自分で守って。」


ダメージを負ったα型はライフルを構えて、2人を見つめる。


負傷しているヴィータと、救援に来たフィーは相性がいいとはお世辞にも言えない。




そんな2人の、初めての共同戦線が始まろうとしていた。

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