第14話 花びらと恋文(クロード視点)
翌日朝、執務室に入った直後、空気がわずかに震えた。
「……またか」
昨日と同じ、魔法の前触れ。クロードが眉を寄せる間もなく、目の前の空間にふわりと花が咲いたような光の弾ける音が響く。
ポンッ!!
今度は、淡い香りとともに、手紙が現れる。 それに続いて舞い降りたのは、ひとひら、またひとひらと舞い落ちる花びら。白と淡いピンクの可憐な色彩。しかも数輪、小ぶりな花そのものまで一緒に落ちてきた。
「……これは、」
机の上に手紙が落ちるのを目で追ったそのとき、扉の前に控えていた近侍と目が合った。
「……失礼、閣下。今のは……」
「……構うな。見なくていい」
「は……はいっ」
慌てて姿勢を正した近侍が、視線を逸らす。
部屋の空気が一瞬、なんとも言えない温度に変わった。
クロードは小さく溜息をつき、机に届いた手紙を開いた。
ーー今朝、お庭を歩いていたらとても可愛い花を見つけました。 クロード様にもお見せしたいです。 そうすれば、仕事の合間の小さな癒しになるのに。
やわらかい印象の文字が並ぶ。
語尾に迷いが見える、けれど一生懸命な筆致。
クロードは、花の一輪を指先でつまみながら、ふと昨日の手紙を思い出す。
「……ずいぶん、積極的じゃないか」
何が彼女の背中を押しているのかはわからない。 けれど、以前の彼女では考えられなかった行動だ。
「……指南書じゃないな、これは」
昨日も今日も“本人らしさ”が滲んでいた。
そして、それは悪くない――どころか、少しずつ己の心の深い場所をくすぐってくる。
花びらの一枚が、机から床に落ちて消える。 彼はそれを見下ろしながら、小さく呟いた。
「……癒しになるどころか、気が散るな」
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