第10話 逃走

 少しの沈黙が走り、優馬が口を開いた。

「城守くん、本当にすまない……せめて、せめて苦しまないように、一発で終わらせるから」

「………、それは本当にあなたがやりたいことなのですか?」

「ッ…」

 優馬が顰めた顔をする。

「親父〜〜良いから早く撃てよ」

「光輝!お前は黙ってろ、何が言いたい?」

 俺は椅子に座り、机の上で手を組む。

「水を貰っても良いですか?」

「光輝、持って来てやれ」

「最後の願いかw良いよー」

ドンッ バシャ

 雑に水の入ったピッチャーとコップを置き、衝撃で水が溢れる。

「ありがとう」

 コップに水を注ぎ、一口飲む。

「撃つなら早くして下さい、やった所でどうせ無かった事にするんでしょ?」

「………」

「九条家は黒い噂が多いですよね、でも政治の腕は一流だ、しかし、その陰では色んな陰謀が囁かれている、自分の政策に反対する者が何故か事故で亡くなる、ソレに裏金問題など、」

「……、何が言いたい」

「でも、あなただけは違った。黒い噂が一切流れないあなたは九条家唯一の良心だと謳われてる、そんなあなたが息子と同じ年の子供を殺せるのか?俺はそうは思いません」

「私には……私には覚悟が足りない、家の為、一族の為、お前を殺す、その覚悟が必要だ」

「今朝、弟さんが何者かに殺されましたよね、ニュースになってますよ、何か裏があるみたいだ」

「ッ、」

「どうしたんですか?確信を突かれたみたいに動揺して(もっとゆさぶれ、そして隙を作るんだ)」

「いい加減にしろ!」

カチャ コロンッキーン

 スライドを引き、弾を一発排莢する。

「私は本気で言ってるんだぞ!」

 拳銃を握るその手はプルプルと震えてる。

「撃つなら、撃てよ、そんな震えた手では、俺に当てる事も出来ないだろうがな(そろそろか、一か八かこの奇策に賭ける)」

 コップを手に取り、入ってる水を飲み干す。

「どうしたんですか?撃てば、楽になるだろ?違うか?あぁ!そうか、撃て無いのか、怖くて撃て無いんだな!」

 優馬が細い目を大きく開けた。

「舐めるなよクソガキがぁ!」

 それとほぼ同時、ピッチャーに手を掛け、中に入っている水を全て持っている拳銃にぶちまけた。

チキーン カチカチ

「そんなバカな、撃てないだと」

「神頼みだったが、意外と上手くいったな(原理としては、持っていた拳銃の内部メカに水が入り、水が凍結することで、撃針(ファイヤリングピン)や引き金(トリガー)が動かなくなる)」

 机を掴み、立ち上がる。

「ほら、お釣りだ」

バァーン

 机をひっくり返し、椅子を光輝に投げつける。

「おい!待て!」

「トンズラさせてもらうよ、バーカ!」

 応接室から飛び出し、走って学校の外に逃走した。途中色んな先生方と目があったが、もう顔すら覚えていない。この日を境に、僕の日常はガラッと変わってしまった。



 








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