20話.重心と回転と、また別の再会と
20話.重心と回転と、また別の再会と
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ピッケルを黙々と振るう。そんな中でやっと『当たり』が落ちた。少し大きめの塊は、色合いは普通の石と変わらない。ただ大きさが違うだけだ。
地下迷宮の発掘はちょっと特殊で、普段の石より一回り大きめの、岩のような塊がゴロンと落ちる時があるのだ。それを持ち帰り査定して貰う事で、中にどんな鉱石やらが含まれているのか分かる。
中は全くのランダムで、見た目からは分からない。上手いことレアな物が入ってれば、一個でお高いお肉が買えるぐらいの稼ぎになる。
ゲームのガチャみたいだが、地下迷宮自体がゲームみたいな空間だしな。今更よ。
さて、そんなモノよりも嬉しい情報が。身体器用のスキルレベルが上がったのである。新躰強化、進退強化に続き、これでレベル5になったぜ!
「身体の動かし方がこれでもっと上手くなる。これも俺の生命線だ」
俺には足りない物が多い。体力もそうだ。筋力もそうだ。そしてなにより!
「強度が足りない!!」
速さももちろん足りないのだが、致命的に足りないのが身体の強さだ。
身長は170よりちょい無いぐらい。だけど骨も細く、筋肉も無いので見た目はガリガリ。あるいはヒョロヒョロ。
体幹は長年やってきたストレッチのおかげで多少はあると思うが、満足に身体を支えられているかと言うと全然だろう。外側の筋肉とのバランスも大事なのだ。
だが、そんな弱い今だからこそ得られる物があると思う。それが『筋力に依存しない身体の動かし方』だ。
ピッケルを使ったこの発掘作業も、きっと良い訓練になってくれているに違いない。
「ポイントは重心移動と回転の効率化」
この二つは格闘においても大事な要素で、上手く使いこなせれば、筋力で負ける相手にでも勝機を見出せるようになる。
よく見かけるワードで『丹田』と言うのがある。お臍の下辺りと言われているが、これは人間における重心のある場所を指していると思う。仙骨の高さぐらいだろうか。
丹田の位置を意識する事で、掴みにくい重心の位置を俺たちは感じ取ることができ、それによってスムーズな重心移動も出来る……のだと思っている。
またピッケルの振り下ろし、弧を描くこの動きは回転運動だ。
回転には遠心力が掛かる。中心から外へ飛び出そうとするエネルギーをピッケルに伝えることで、強い衝撃を生み出すことが出来る。
重心の移動で体重を、回転運動で遠心力を。この二つを上手く重ねられれば、筋力をあまり使わずに、疲労を抑えて作業が続けられるのだ。
「理論的には……その筈なんだけどな」
素人の付け焼き刃で、そんな上手いこと行くわけがなかった。
そもそも重心の移動が難しい。ゴブリンの戦闘では出来ていたと思っていたが、ピッケルという道具を持ってやると感覚が全然違う。
加えてピッケルの振り下ろしも連動してやらなければいけない。そのイメージが全く掴めないため、身体器用スキルも効果を上手く発揮出来ずにいた。
地下迷宮においてのピッケルによる発掘は、剣などの武器を扱うための訓練なのではないかと思っている。
発掘作業でお金を稼ぎながら、道具を使っての攻撃に慣れ、そしてギルドによる有料の講習を受けさせて武器の扱いに慣れる。こう言った手順を自然と踏ませることで、ゲスト《訪問者》から
「いや待てよ?剣に近いって事は、踏み込みか?」
剣を振る時に、前足で強く踏み込むと聞いたことがある。それって前方に重心を移して、それを剣に伝えるためなんじゃ?
試しにとやってみたが、なんか違った。力を入れて踏み込んでいるのに、腕からは力が抜けていくように感じてしまうのだ。俺が求めてるものにはならないような。そんな『気』がしている。
「力を入れるの、正直しんどい……」
他に無いだろうか。ピッケルの振り方に似た動き……。上から下に、上から下に……。
「あ、畑だ!そうだよ、まさに同じ動きじゃないか!!」
家の敷地でやってる家庭菜園で、土の耕し方を教わっていたときに。鍬の使い方も一緒に習ったじゃないか。なんで今まで結び付かなかったのか!
「身体の重心を下手に意識し過ぎるからバラバラな動きになってたんだ。鍬を振り下ろす時のように。ピッケルの重さだけを意識して……」
カンッ、まだ動きが硬い。もっと素直に。
カンッ、ピッケルと壁の間に弧を描くように。力を抜いて。
カァンッ!この感じ!!この手応えを忘れないようにして……。
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そんな風に、夢中になって続けていると。当然襲ってくるのが痛みと苦しみ。
「ピッケルと身体が、一体になったような感覚が楽しくて、つい、夢中に……!」
肚を押さえながら反対側の壁まで歩いていき、背中を預けて座り込む。新躰強化スキルで内臓が強くなってきた今だからこそ、つい気を抜いて無理をしてしまう。まさに『初心忘るべからず』である。
どんな時にも初心が訪れる。初心とは『初めて遭遇する変化や状況』の事だ。
新しい環境や感覚、人間関係や与えられた役割に触れた時、人はそれに対応しきれずに失敗することもある。
また物事に慣れてきたり、つい調子に乗ってしまう事で、思いがけない油断や失敗をしてしまう事もある。慣れもまた『初心』なのだ。
そんないくつもの初心が先々にある事を私たちは忘れてはいけない。能の
息を整えようと息スキルを。気持ちを落ち着かせるように気スキルを、交互に発動させていく。
『息』と『気』、二つの
感覚で言うとショートスキルはマニュアル運転、ロングスキルはオートマ運転だ。どの組み合わせなら同時発動がし易いのか。そこら辺も確かめていく必要がある。
「やる事多いな。あー忙しい忙しい」
身体の改造、スキルの検証、重心移動に攻撃のタイミング、さらにはピッケルのような道具の使い方。あとは家庭菜園に……そうそう、仕事も見つけないと。仕事の優先順位の低さよ……。
やる事、考える事は山積みだ。でもその殆どが『やりたい事』ばかりだった。
やらねばいけない事ばかりで、やりたい事を諦めていた時には無かった忙しさ。
「こんな『初心』もあるんだな」
楽しいな、やりたい事が多いって。やりたい事をやれるって。こんなに楽しい事なんだ。
自分の世界が広がっていく。外の世界を押し返すように、ゆっくりと、力強く、俺の世界が広がっていく。
◆
「あら?貴方はこの前の……。
脇道に籠った土埃を嫌い、気分を変えるようにと大きな通路に顔を出した時に、声をかけられた。
その声には聞き覚えが有った。つい最近、耳にした声だったからだろう。
その人はまるで、アニメかなんかのような装備を身に付けていた。
膝下まである濃緑色のドレスの上に、黒い蔦が這うかのような鎧が、胸から腹部にかけてを囲んでいる。ドレスアーマーと言えば良いのだろうか?そんな感じだ。
ドレスの下には同じく黒の脚装備で、マッドな光沢は華美過ぎず、質の良さを窺えるような造りに見えた。
そしてやはり、宙に浮かび上がるような白い顔と、ウェーブの掛かった薄い赤毛。頭には銀色のサークレットを付けていて、耳が長ければまるで、エルフの姫騎士かと錯覚してしまういでたちだった。
「貴方は確か……菅田さん、だったかな?」
「え?なんで……」
なんで俺の名前を知っているんだ?
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◆シンタイキヨウカ
・新躰強化 Lv.5
・身体器用 Lv.5
・進退強化 Lv.5
・息 Lv.2
・気 Lv.2
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◆ディープフォレスト Lv.25
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