俺の最大の悩みはリィナ

 ──リュカ──



「はぁ……」


 リィナが食べ終わった自分と俺の食器を下げにいったのを見届けると俺は小さくため息をついた。


 何というか……朝からどっと疲れた気分だ……。


「リュカ先輩、大変でしたね。心中お察し申し上げます」


 そんな俺の気持ちを汲んでかマリカが同情にも似た言葉をかけてくる。


「なんだマリカ?俺の気苦労を察してくれるのか?」


「それは毎日同じような光景を見せられれば誰でも分かりますよ。分からないのはそこの食欲魔人ヴァルナ先輩くらいですよ」


 俺はマリカに言われてヴァルナ先輩のほうを見ると、いつの間に持って来たのかプレートには山盛りの料理が乗っており、それを両手に持ったフォークでモリモリと食べていた。


 ……凄いなあの量は

 男の俺でもあんなには食べれないぞ……。


「ん……?どうしたんだ、二人とも。あたしの顔になにか付いてるか?」


「いえ、ヴァルナ先輩は相変わらず美味しそうに食べてるなと思っただけです」


「ああ!この学園のメシはうまいからな!」


 僕とマリカの視線に気が付いたのか、ヴァルナ先輩は手を止めて不思議そうな顔をしていたが、マリカの適当な言葉に先輩は再び口いっぱいに料理を食べ始める。


「リュカ先輩、あのヴァルナ先輩はあれだけ食べても太らないんですよ?きっと栄養が全部胸に行ってるんですよ……。ブタになってしまえばいいのに……!」


 俺はマリカの言葉に思わずヴァルナ先輩の胸元へと目をやると、確かに豊満な胸が揺れ動いていた。


 それとは対照的にマリカの胸はささやかなものだった。


 気持ちは分からないこともないが……ブタになればいいのにと言うのはどうかと思う……。


「んあ?マリカ、ブタがなんだって?」


「いえ、今朝のメニューに豚肉が無かったなと思いまして」


「確かにそうだな……リュカ、今日の昼メシはトンカツとメンチカツ……どっちがいいと思う?」


 ヴァルナ先輩はブタに反応したかと思えば、豚肉を使った料理へと飛躍してしまった。


 本当に食べることが大好きなんだな……。


 と言うか、俺にそんなの聞かれても困る。


「そ……そうですね……、両方……とかはどうですか……?」


「なるほど……両方か……、確かにそれは考えていなかったな……。トンカツ定食とメンチカツ定食を両方食えばいいのか……。流石リュカだな!発想力が違う!マリカもそう思うだろ?」


「そうですね」


「あは……あははは……」


 俺達のやり取りを見て呆れたような口調で言うマリカに俺は苦笑するしか無かった。


「それより、リュカ先輩……。リュカ先輩はリイナ先輩の事、好きなんですよね?」


「んな……っ!?」


 突然図星を突かれ、俺は思わずドキッとしてしまう。


 な……何で分かったんだ……っ!?


「何で分かったんだって顔をしていますがバレバレです。分かってないのは超鈍感娘のリィナ先輩とそこの食欲魔人くらいです」


「そ……そうか……」


 そ……そんなにバレバレだったか……?

 ……バレバレだったのかもしれない。


「そうですよ。ですが問題はそのリィナ先輩です。リィナ先輩も多分ですがリュカ先輩の事を特別な存在だとは思っているはずです。そうでなければあれほど過度なスキンシップはしてこないはずです」


「そ……そうなのか……?」


「リュカ先輩、リィナ先輩が他の男子に抱きたいたり手を握ったりした所見たことありますか?」


「いや……無いな……」


 確かに思い起こせばリィナは、他の男たちには一定の距離を取っていた。


 ゼロ距離を仕掛けてくるのも俺だけ……。


 と言うことはリィナも俺の事が好きって事か……?


「ですが、リュカ先輩に対してはだけはリィナ先輩はほぼ無自覚で接してきます。問題はその無自覚さです。あの超鈍感なリィナ先輩に恋というものを分からせるということは、例えるなら100メートル程離れた針の穴にピンポイントで糸を通すようなものです」


 いや……、100メートル先の針穴って……。


 まあ……的を得ているような例えではあるけど……。


「しかし、俺はどうすればその針穴にピンポイントで狙えるんだ?」


「それはリュカ先輩が自分で考えることです。私の事ではありませんし」


「えぇぇぇぇ~……」


「ですが、何かあれば相談くらいには乗りますよ」


 ふむ……、まあマリカはリィナと同じ寮の部屋に住んでいるから何気ないアドバイスくらいは貰えるか……?


「ねえ、二人してなんの話してるの?」


 と、不意に後ろから声をかけられたので俺は少し驚きながら振り向くとそこにはいつの間に戻ってきたのかリィナの姿があった。


「い……いや……別に……」


「リュカ先輩の相談に乗っていたんですよ」


 俺はリィナの問いに誤魔化そうとするも、マリカが俺の相談に……などと言うものだから思わずドキッとしてしまう。


「えぇ~、リュカ何か悩み事があるなら私がいつでも相談に乗るのに……」


 いや、リィナ……。

 そんな事を言うが俺の悩みはお前なことなんだよーーーっ!!


 と、声にならない声をあげる。


「うし……!んじゃそろそろ教室に行くか……!」


「リュカ行こ!」


「え……?ちょ……!」


 山盛りにあった料理を完食したヴァルナ先輩が席から立ち上がると同時にリィナは俺へと抱きつくとそのまま教室へと向かった。


 ていうか……リィナの胸が……胸が腕に当たってるって……っ!

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