歪みの百合姫 - 泥中の紫水晶
灼熱の涙が堤を決めた洪水のように、西園寺の瞳から迸り、高価だが冷たい手織りの絨毯に叩きつけられた。深い色の、無言の痕跡を滲ませながら。
涙はいっそう激しく滾った!もはや恐怖の涙ではない。沸騰するような衝動の、ほとんど狂おしいほどの涙だ!
彼女はその広すぎる上着を、失った宝物を再び手に入れたように抱きしめ、顔を布地に深く埋めた。彼の匂いを貪るように吸い込む。
一つの考えが、闇の中で密かに蔓延る蔓のように、甘く危険な毒を帯びて、彼女の心の尖端に絡みついた。
王子様…
幼い頃から無数の童話や少女の幻想に登場した、完璧と救済の象徴であるそのイメージが、今、彼女の中で徹底的に覆され、再構築された!
かつて彼女が見た王子様は、白馬に乗り、銀の鎧を纏い、温かな笑顔と優雅な振る舞いで少女たちの心を射止める存在だった。バラに埋もれた庭園で出会い、月光の下で優雅なワルツを踊り、優しい言葉と輝く宝石で少女の心を奪う。
しかし今、彼女は悟った。それらはすべて虚構で、青白く、脆弱な幻影だと。
真の王子様は、彼のようであるべきだ!
白馬も銀の鎧も持たない!彼の軍馬は穢れた迷宮を駆ける不屈の足であり、彼の鎧は傷痕に覆われた血肉の躯だ。
温かな笑顔などない!彼が持つのは闇に灯る、寒星のように鋭く静かな瞳——ただ彼女を救うために燃え上がるその眼差しだ。
優雅なワルツなどない!あるのは絶望を雷のように切り裂き、怪物を塵に帰する原始的な力だけ。
甘い言葉などない!あるのは沈黙ながらも確固たる守護の背中と、体温を帯びた上着——それが冷たい屈辱から彼女を包み込んだ。
輝く宝石などない!なぜなら彼自身が最も眩しく、最も貴重で、唯一無二の宝石だからだ!泥と血炎に埋もれながら、ただ彼女のためだけに輝く!
彼には王子の特徴は何一つない。だが彼は、彼女の騎士!彼女の守護神!彼女が運命づけられた王子様!
この認識は最強の炎のように、魂の奥底に潜む全ての抑圧された欲望と偏執を瞬時に燃え上がらせた!
厳しい躾で押し殺されてきた「完璧な王子」への幻想が、ついに最も生々しい形を見つけたのだ。
彼女は猛然と顔を上げた!涙はなおも流れ落ちるが、瞳の曇りは消え、代わりに狂気じみた熱情、独占欲、そしてかすかな歪みが混ざった炎のような光が宿っている。
よろめきながら巨大な姿見の前に駆け寄った。
鏡に映ったのは、涙に濡れながらも圧倒的な美しさを放つ顔。栗色の髪は肩に乱れ、幾筋かが蒼白の頬に涙で貼りついている。その瞳は、妖しくも人の心を貫くような輝きを放っていた!
体を覆う広すぎる紺色の上着は、彼女の細い体をゆるく包み、巨大な繭のようだった。
彼女は鏡の中の自分をうっとりと見つめ、指が無意識に上着の粗い生地を撫でる——それは恋人の肌を撫でるかのようだった。
言い表せない感情——憐憫、崇拝、そして…満足感が全身を襲った!
彼の戦う姿さえ鮮明に想像できた。金髪が乱れ、瞳は冷たい刃のように研ぎ澄まされ、拳は破壊的な力で敵の骨を砕く!
その光景は恐怖ではなく、むしろ興奮で彼女を震わせた!その力!その凶暴性!彼女のために血に染まることを厭わない決意!なんて完璧なのだ!なんて…魅惑的なのだ!
「王子様…」
鏡に向かって呟く声は、奇妙な甘さと震えを帯びていた。それは信徒が神を呼ぶような、最も虔敬な調子だった。
ゆっくりと手を上げ、冷たい鏡面に指先を触れた。まるでガラス越しに、”王子の上着”を纏う自分自身を撫でるように——あるいは遠く闇の中にいる、傷だらけの金髪の少年を撫でるように。
「あなたは…私のもの」
声はか細いが、呪いのような執念が込もっている。
「闇の中で初めて私の手を握った時から…あなたは私のものだったのよ…」
強烈な、ほとんど偏執的な独占欲が蔓のように暴走し、瞬く間に心臓全体を締め上げた!
彼は彼女の騎士!彼女の王子!彼に近づく者、傷つける者、彼を奪おうとする者…すべて敵だ!排除すべき…虫けらだ!
北原翔の欲望で歪んだ顔が脳裏に再び閃き、強い吐き気と…冷徹な殺意を呼び起こす。
「虫けら…」
鏡に向かって、紫の瞳の炎はいっそう激しく燃え上がり、唇の端は一層甘く、毒を塗した蜜のように歪んだ。
「汚らわしい虫けら…王子様に懲らしめられたのね…」
再び顔を広い上着に埋め、彼の匂いを深く、貪欲に吸い込んだ。
長い袖の下で、指が無意識に布地を強く握りしめ、関節が白くなるほどだった。この匂いも、温もりも、”彼”を象徴する全てを、骨の髄まで揉み込んで吸収しようとするかのように。
「王子様…」
彼の匂いに包まれた闇の中で、夢を見るように呟く。
「…今度は見つけるから…もう離さない…永遠に…ずっと一緒よ…」
鏡の中に、大きすぎる男子制服を着て、病的な紫炎を瞳に燃やす美少女が映る——それは泥沼の奥で密かに咲いた、致命的な誘惑を放つ紫蘭のようだった。
誰にも知られない黄金の檻の中で、歪んだ変容を遂げた。
「愛」という名で呼び覚まされた種子が、絶望と感謝の沃土の中で、妖しく危険な花を咲かせた。
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