第10話休養と幼なじみ
病室についた。
病室には、すこしやつれた母がいた。
祖母は母に事情を説明した。
母はお弁当箱に入ったリストバンドを、まじまじと見ている。
小人になったような、なんか変な気分。
祖母は酸素マスクを少しずらし、
リストバンドを入れる。
その瞬間―――
ヒュンっと
身体が吸い込まれる。
あっ戻った。
私は目を開く。
母が泣きそうな顔をして、
こちらを見る。
なにか言わなきゃ、
こんな時は―――
知らない……
やめておこう。
しかし、私が声を出そうとすると。
あれ声がでない。
えっ……。
せっかく、こっちに戻ってこれたのに、
これじゃあ。声優の仕事もできない。
涙がボロボロこぼれてくる。
なによ。これじゃあ。
異世界のほうが、よかったじゃない。
祖母はまじまじと私の顔を見る。
「あーそうか。マブイを落したんだね」
「この子が事故にあったのは、どこだい?」
と祖母は母に訊ねる。
「わかった。じゃあ行ってくるよ」
そう……
祖母は言い残し、どこかに行ってしまった。
―――――――――――――
【事故現場】
1時間後、崎守祥子は事故現場に到着した。
「あーここが事故現場だね。
あっ……。
うじゃうじゃ、いるね。
ゴメンよ。
今日はあんたらに、ようじゃない。
私の孫のマブイを探しにきた。
あっ。
そう。
ここに……。
うんうん。
ありがとう」
彼女は紙袋から、
日本酒のワンカップ
洗米
荒塩
と取り出し。
日本酒を道路に撒き、
半紙に上に洗米と荒塩を小さく二つの山にした。
そしてお弁当箱のリストバンドを取り出し、それをこすりながら、
なにか呪文のようなものを唱える。
「マブヤー。マブヤー。
戻ってきてください。
我が孫の魂……
戻ってきてください」
…
「あ~。戻ってきたようだね。これでだいじょうぶ」
「あ~。そうだね。ちょっと待っておくれ」
彼女は、別の半紙の上に洗米と荒塩を小さく二つの山にした。
手をあわせ、
「ノウボー ボホリー キャリタリ タターギャターヤー」
と唱え、ピタリとも動かなくなった。
5分後。
「あ~。そうかい。お腹いっぱいになったかい。わかった。わかった。世話になったね」
そういい、そこにあった洗米と荒塩を回収し、その場から去っていった。
――――――
それから1時間後
「ごめんね。ごめんね。お待たせしてしまって」
と祖母が病室に戻ってきた。
そして
祖母は酸素マスクを少しずらし、
リストバンドを入れる。
その瞬間―――
ヒュンっと
身体になにかが入ってきた。
あっ戻った?
私はおそるおそる、
声をだす。
「テスト、テスト、テスト」
あっでる。
母と祖母が目を見合わせる。
「京の生鱈(きょうのなまだら)、奈良生まな鰹(ならなままながつお)、生米生麦生卵(なまごめなまむぎなまたまご)」
あっでる。
母が泣きそうな顔をして、
こちらを見る。
「なにをテスト、テストからの、早口言葉って……。
ただいま……とか、なんかあるでしょ」
と涙ぐむ母。
「ただいま」
と私。
祖母と母と3人で抱き合った。
…
「おばあちゃん。
うっすらとしたイメージなんだけど、私の魂の片割れを拾いにいったとき、
なにかしてなかった?」
「あー。
あれはな。
おすそ分けじゃよ。
あそこには、いろんな人のマブイや魂がおる。
腹をすかせた霊をおるからな」
―――――
目覚めてからも、1週間は経過を見るために入院が決まった。
私の事故からの顛末を聞いて驚いた。
事故にあってから目覚めるまで1週間。
輸血が必要な状況だったけど、
血液がちょうど足りておらず、
見舞いに来た、
幼なじみが輸血に協力してくれた。
自衛官だけあって、
「限界までお願いします」
と言ってくれたらしい。
相変わらず、私の事となると無茶をするんだから。
ふと――
騎士団長のことを思い出した。
幼なじみの勤務先は少し離れているが、
ちょうど近くまで、来ていたらしく、
助かった。
声優の仕事に関しては、
事務所と、スタジオ側が話をして、
収録を伸ばしてくれていた。
私はすぐに連絡をして、
退院して3日後の収録が決まった。
不安だけど、前の私とは違う。
―――――――
すこし体力を回復させるために、
散歩しようと病室からでた。
ふと足元を見ると、目の前から硬貨のようなものが転がってくる。
なにこれ
私は硬貨を拾い上げる。
あっ500円玉
「すみません。ありがとうございます。それ俺の……。
あっ立てるようになったのか?」
幼なじみの自衛官だ。
「えっ。なんでここにいるの?仕事は?」
「今日は休みだ」
「あっそうか……。
あの……。
ありがとう」
なんか―――
騎士団長と声が似てる…。
というか、
イメージまで被ってみえる。
「いいよ。気にするな」
「でも。わざわざ東京まで来てくれたんでしょ。
なんで……。
そんな」
「そんな。
心配だからに決まってるだろ」
ドキンーーーー。
なにこの感覚。
急に動いたからかな。
「あっ。ここじゃ、なんだから。外のベンチでもいかない?」
「そうだな。じゃあ、ちょっとまって飲み物買ってくる。
スポーツドリンクでいいよな」
「うん。ありがとう」
私の好きな飲み物、覚えてくれてるんだ。
病院の外には、小さな公園とベンチがあった。
ベンチに腰をかけ、話をした。
彼と話すのは、どれくらいぶりだろう。
懐かしい話に花が咲く。
「お前は夢を追え 俺は影からその夢をサポートする。
俺は騎士とかにはなれねえけど、できる限りのことはしてやる。
それに、
なにかあったら俺がお前のこと…
引き取ってやるよ…
ほら俺もてねーからよ…
お前くらいしか、ロクに話せる女いねえんだわ」
と彼は言った。
「もしかして私のこと好きなの?」
と私。
「あっ、わるいかよ……」
なに…
すごく可愛いんだけど。
「うぅうん…悪くないよ。うれしいよ。
でも……
なにもなかったら、引き取ってくれないの?」
「えっ!いいのか?お前夢があるんじゃ」
「あなたのそばでは、夢は叶えられない?」
「そうだな。
じゃあ俺がお前の夢…側で応援しててもいいか?」
と真剣な表情。
なんか、かっこよく見える。
「うん…お願い。側で支えてて」
あれ…
私、そんな事言っていいの?
「あっごめん…。
それって付き合うとか、ラブ的な方向でイイんだよね」
これには、思わず、笑った。
「そうだよ~」
私は、彼の肩にそっと寄りかかった。
たしかに私は戻ってきたんだ――
現実は、あたたかい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます