第8話奪われない才能

スピーチが終わってから1か月。

王女の声も少しずつでるようになった。

商会のお仕事も、読み聞かせのお仕事も復帰した。


今朝は、前の世界のことを思い出していた。

みんな元気でいるだろうか。


ふと腕の紐を見る。


腕の紐は、祖母が私にくれたもの。

これだけが、前の世界と今の世界をつないでいてくれる。

そんな気がした。


祖母、崎守祥子は岬にある小さな神社『崎守神社』の巫女。


神様の声が聞こえる巫女様だと、地元では尊敬されていた。


私が専門学校に行くと決まった時に

祖母は

「これにはバアチャンの髪の毛が編み込んである。

お前は―――

いずれ異界にのみこまれるやもしれん。

その時……

これが道しるべになろう。

いいか……

だれが譲れといっても、絶対に譲るな。

たとえ命を取られそうでも。

絶対に譲るな」


そう言っていた。


道しるべ……

になっているのだろか。


――――――――――

【騎士団長の見回り】


俺は城内の見回りをしていた。

先月、王女が悪魔アネモイ=ヘジテイトに声を奪われた。


厳重な警備をしているはずの王宮になぜ?


次に狙われるとしたら……

もしかするとマリー殿が危ういかもしれない。


2度もアネモイ=ヘジテイトの邪魔をしたわけだから……。


よしマリー殿に忠告をしにいこう。


「キャーーー」


これはマリー殿の声?

俺はマリー殿の部屋に向かった。


「マリー殿、だいじょうぶですか?マリー殿」


「助けて」


「開けます」


俺はドアを勢いよくガーっと開けた。


そこには、タキシード姿に青白い顔、目は白目。真っ黒な髪をオールバックになでつけた男がいた。


俺は剣を抜き、中段に構える。


「お前は誰だ」


「ハハハハハ。これはこれは。無能で有名な騎士団長殿ですか」


「お前は誰だ」


「私は、ほら先ほど、あなたが考えておられた……悪魔」


なに?心が読めるのか?


「悪魔アネモイ=ヘジテイトか?」


「左様にございます」


「お前はなぜ白目なのだ」


あっもしかして。余計なことを聞いたかもしれない。


「ハハハハハ。これはこれは。変なことに興味を持たれましたな。

これはあなたの内面の世界を見ていたのですよ」


「内面の世界?どういうことだ」


やっぱり心が読めるのか?


「ハハハハハ。たとえば、あなたが好きな人はマ……」


「あーーーーー。わかった、わかった。それより、なぜココに」


超焦った。


「それもあなたが思っている通りですよ。2度も邪魔されてしまいましたからね」


「マリー殿の声は奪わせない」


俺はマリー殿の方を見てこう言った。

「マリー殿、ここは私が引き受けます。お逃げください。」


……ずっと言ってみたかったんだ、この台詞。


「ハハハハハ。せっかちな方だ。だいじょうぶ。奪いはしませんよ」


「どういうことだ」


「どういう事だって?そのままの意味ですよ。

まぁ正確には奪えないのですよ」


「なに。どういう意味だ」


「しつこい人ですね。

私も忙しいのです。

まぁいいでしょう。

色欲熱血無能騎士団長に少し話してあげましょう。

私は才能のあるものに、いろいろな試練を与えて、発信する力を奪う悪魔です。


しかしこの女はムリだ。

ほんの少しの才能はあるが、ほとんど努力でやってきた。

この女にとって、試練なんてものは、日常茶飯事すぎて、まるで効き目がない。

王女と女優は、3年かかったが、心を折り、発信する力を奪えた。

ただ、この女はムリだ。

頑強すぎる」



「ちょっとまって……

それ褒めてるの?けなしてるの?

どっちなのよ」

とマリーは眉間にシワをよせる。


「そうだ。どっちなのだ」


マリー殿…

超怖い…


「私は褒めもけなしもしておりません。ただ事実を言ったまで……」

と胸に手をあて、軽くお辞儀をする。


「他者評価に過敏になっているものに、私は忍び寄る。

しかしこいつは……

他者評価も多少は気にしてはいるが、

それ以上に自らの情熱の炎を燃やし続けている。

その情熱の炎が強い者の味はまずい。


女優にしても、王女にしても、情熱よりも、他者評価のほうが上回った。

だから食ってやった」


「なにを偉そうに

女優に、王女に声を返せ」


俺は剣の持ち方を少し変えた。


「なにを言っている。

他者評価に振り回され、

世界のおもちゃになっているようなものに、

価値などあるというのか?


私は、むしろ……

世界に貢献しているのだよ」


アネモイ=ヘジテイトは、自らの身体を抱きしめながら、そう語る。


「だまれ。

女優も王女もがんばっていた。

がんばる理由が“他人の目”だったとしても……。

彼女たちは、彼女たちの人生を生きてた。

それを笑うな。見下すな。魂がこもっていた。それがすべてだ」


「バカになどしておらん。

他者に振り回され、評価に溺れ、賞賛に酔い、批判に凍える。

……そんな奴の“声”など、所詮借り物。奪って何が悪い?」


「返せ」


「そんなこと言わなくても、あと1か月もすれば、戻るよ。

まったく厄介で困る。

この女は、王女と女優の心の火をつけた」


「そうだ。彼女は強く気高い。俺も勇気をもらった。

もう諦めて……

こんなことはやめろ」


「ハハハ、悪魔があきらめるものか。

その女にも、

いずれ心にスキマができよう。

その時を狙ってな……」


「では私は

彼女を支え続けよう。

お前があきらめるか、

私の命がつきるまで……」


騎士団長がそういうと、

アネモイ=ヘジテイトは、不気味な笑みを浮かべながら、すーっと壁の中に消えていった

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