二十五話 ステイするとは、盤面に出ているカードの向きを縦から横にすることである
頭が真っ白だった。
「わ、私のターン……」
破壊が出来ない。
パワーが13、タフネスが13のクリーチャーなんてどうすればいいの。
しかも貫通まである、攻撃をされたら。
「ライフ・メインをドロー」
ッ。
<ザ・エントリー>と<手を取り合う勇気>……これじゃ駄目だ!
相手は破壊出来ないゼブル、こちらの盤面に呼ぶなんてことは出来ない。
ブレイバーたちの攻撃力じゃあ強化しても倒せない!
なんとか。
なんとかしないと……!
「<ザ・エントリー>をセットし、私は手札から<ブレイバー・想記>を召喚!!」
呼び出したのは、手に巻物を携えた軍師のような戦士。
「<ブレイバー・想記>は全てのブレイバーに2コスト支払い、生贄にすることによってカードを得る効果を持つ! 私は想記を生贄に捧げて、1ドロー!」
お願い!
お願い、なにか切り札になるものを――……来た!!
「私は手札から<
手を伸ばす。
輝く黄昏の空、それにも負けずに門が開かれる。
何度でも立ち上がり、私の危機を切り開いてくれたカード――父さんの形見のカード。
「私の勇気を証明する!!」
それが今。
「却下です。4オドで、瞬間魔法<全面却下>を発動、打ち消します」
打ち砕かれた。
「え……」
バラバラと落ちていく。
ブレイブGOの残骸が落下し、溶けるように光となって墓地へと落ちた。
「|勇者王・轟、盤面から墓地へと落ちた時、デッキから【勇気】と名のつくカードを手札に加える。ブレイバーデッキのまさに切り札」
「な、なんで」
「貴方の多用するブレイバーたちの数に比例してその性能と召喚コストを軽減。サーチも合わせて展開の核に、まさに子どもの夢見た巨大ロボットといったところでしょうか」
「なんで……!」
「――調査済みです」
「だから当然対処をしましたが、なにかありますか?」
何も出来ない。
手札は何も出来ない一枚だけ。
「私のターン! ドロー!」
サレンさんのターンが始まった。
「破壊不能でも対処はある! 瞬間魔法<
「墓地より
「なっ!?」
「……墓地から打ち消し?!」
なにそれ。ありえない。
強すぎる!
「当然備えています。私の危機管理は完璧です」
「バトル! ヴァイスファングで攻撃する!!」
「サレンさん!?」
「ユウキ! パワーをヴァイスに!」
「ッ、<ザ・エントリー>をステイして墓地に送る! ヴァイスファングのパワーを+3する」
これでパワーが10!
ゼブルとの差は3。
サレンさんには前のターン引いたカードの分手札が残ってる。
なにかする! ゼブルを倒すなにかを。
「ブロックはしません、ライフで受けます」
「「なに!?」」
10点のダメージ。
ヴァイスファングの牙に食いちぎられて、少女のライフデッキが飛び散る。
大きなダメージ。
間違いなく大きな痛手のはず、次も同じダメージを受ければ耐えられないはずなのに。
「……ヴァイスファングのパワーは10,戦闘をすれば当然破壊されるだけ」
よろめきながらも、引き裂けたスーツで、その小さな身体をボードで支えながら。
「マイナス付与ではタフネス13のゼブルを全損させるのは到底不可能」
淡々と。
感情をこめないような声音で。
「除外ならば先に撃つべき、であれば」
少女は、
前を、私たちを見ていた。
「コンバットトリックのカード」
「ッ……瞬間魔法<金の騎勇/銀の勇気>! これは分割カード、私は銀の勇気を選択! 攻撃クリーチャー、ヴァイスファングをレディ状態にする!」
「当然、次はブロックします」
「ターンエンド……!」
サレンさんが……届かなかった!?
◆
金の騎勇。
ブロックしたクリーチャーを除外、さらに攻撃クリーチャーに貫通を与えるカード。
クリーチャーをアンタップさせる効果を持つ<銀の勇気>共々、魂葬を持つヴァイスファングのサポートカード。
危ないところでした。
さすがは最強の傭兵ファイター、精霊狩り。
「それでは私のターンです」
いえ……”握るもの”というべきか。
「レディ、アップキープ、ドロー」
だがこれで終わりです――……
「?」
手元に降りたカードを見て、私は少しだけ、私は本当に少しだけ処理に時間がかかりました。
予定していたプラン。
天に座すゼブルを出し、その対処に最後の妨害札、あるいは破壊ではないコストの重い除去、時間稼ぎにしかならない
そこから条件を満たす特殊勝利を通す。
二人まとめて葬り去るプランでしたが、何故来ない?
「問題ありません」
この手札も十分妥協点です。
少し墓地のクリーチャーは減りましたが。
「5オドを支払い、手札より《b》<
「二体目!?」
「ゼブルが1枚だけとは公言していませんが」
そう告げて、呼び出す。
空より降臨する二体目のゼブル。
その反動に、足が軋む。
骨格とボードの杭で身体を固定すればファイトは続行可能です。
だから問題はない。
ファイト……特に生命力を多用するイグニッションファイトは、生物的な牝個体が適している。
生命を生み出す機能が、牝個体にあるのだから。
それも年若いほうがより多く、生命を消耗する余地がある。
私はそうデザインされた。
私はそう性能を見込まれて造り出された。
かつての
「ゼブルが場に降臨した効果として、デッキから墓地へ10枚落とします」
バベルデッキから10枚墓地へと落ちる。
墓地起動の打ち消しを備えておきたいところですが。
「……なに?」
墓地に落ちたカードに、打ち消しのカードがない。
それどころか墓地で起動するカードがない。
どれも数合わせの礎となっている弱カードだ。
私の共鳴率が落ちている? いや、そんなわけがない。
「ふぅ――二体目のゼブルの能力を起動! 墓地から10枚カードを除外して、レディ状態に移行する!」
「だが、クリーチャーは召喚されたターン攻撃することは出来ない! ゼブルでも例外はない!」
精霊狩りの指摘。
正しい。
二体並べたところで、攻撃が出来るのは最初のゼブルのみ。
これだけでは壁クリーチャーを使い切っている柱候補の少女はもちろん、残りライフが乏しい精霊狩りでも片方しか倒せない。
「だからこうするのです。墓地に眠る<燃え盛る突進>を3オドで発動! 二体目のゼブルのパワーを+3し、速攻を得る!」
「墓地からさらに!?」
最初のゼブルは見せ札。
特殊勝利での始末のため使わずにいましたが、このサブプランで問題はない。
「バトル。一体目のゼブルで、精霊狩りへ攻撃です」
ヴァイスファングでブロックしますか?
だが、残ったライフでは耐えられない。
墓地に沈んだカードに、使えるカードはないのは確認済み。オドも足りない。
だとすればあちらの少女がなにか使うか。
「私は、ライフで受ける!」
「サレンさん!?」
「! 観念したようですね、死になさい」
ゼブラの閃光。
地に伏す礎たちを焼き払う威光が、精霊狩りに直撃し――ライフデッキが、散らない?!
「今のダメージで
「セーフティをかけていましたか」
だが、おそらくいれていても一枚だけだろう。
自傷ダメージによるオド加速を多用することも考えれば、上手く発動すれば御の字程度。
1点ずつ削られた場合には何の役にも立たないカード。
そしてなによりも。
「どちらにしろ貴方は死ぬ。二体目のゼブル、パワー16で攻撃」
「ヴァイスファングでブロック!」
「無駄です、押し通します」
強化された二体目のゼブルの閃光。
それにヴァイスファングが主人を庇うように飛び出して受け止める。
同じく
カードの
幾ら願いをこめようが、思いをこめようが、変わることはない。
「サレンさぁああああああああん!!」
礎候補の少女が泣き叫んでいる。
見苦しいと思う。
無駄な酸素、いや、これから死ぬからこその逃避行動だろうか。
人間の弱さ、ハグルマになる前のものたちはどうしてこうも非合理的で。
「ユウキ――」
精霊狩りがなにか伝えたのが見えた。
だが、それも一瞬。
「お終いです」
ヴァイスファングが砕け散る。
貫いた閃光が、精霊狩りの体に直撃し――吹き飛ばした。
「ぁ、ぁあああああああああああ!!」
「ライフ イズ ゼロ。精霊狩り、お前は除籍です」
ライフデッキは消し飛んだ。
精霊狩りも塔の端まで吹き飛んで……原型を留めている?
「まだ息がありますか。なるほど、”命衣流”……人工のものでしょうが、備えはしていましたが」
特徴的なフードが避けて、露わになった生身の姿を見て判断する。
リアルダメージを防ぐための防具は当然していましたか。
「っ」
「だが、貴方のライフはゼロ。脱落です――戦闘終了、墓地から20枚のカードを除外し、ゼブル2体をレディ状態に」
攻撃を終えたゼブル二体が、ステイ状態からレディ状態に。
万が一の奇跡も起こらないように。
私は手を抜かない。
次のターンが、この無駄な時間のりー猿。
「ターンエン「まった!!」」
なに?
「そのエンドフェイズに、私は<手を取り合う勇気>を発動する!!」
少女が立ち上がっていた。
泣き叫んでいたはずの、目元を腫らした子供が、こちらを見て。
「私は、このターン破壊されたクリーチャーを私のコントロール下で召喚する! <孤高の天狼・ヴァイスファング>を召喚!!」
叫んだ。
◆
目が熱い。
喉が痛い。
全身が震えてたまらない。
「私のターン!!」
それでも。
「私のターンが回ってきたため、ヴァイスファングの召喚酔いは解除される!」
それでも!
――ユウキ、貴方なら勝てる。
それでも!
私を信じてくれたサレンのために!
私の手札も知らないのに、勝てるって信じてくれたあの人のために!
「アップキープ、レディ!」
デッキに手を添える。
何を、何を出せば勝てる?! 何を引けば――
――奇跡を起こせばいい
声が聞こえた。
――都合のいいカードを
ドクドクと心臓が高鳴る。
どこから聞こえる?
――勝てるカードを■めば
私の……中から?
頭の中になにかが映る。
<結末>6コスト
魔法
全ての■リ■ャ■――”
オープン(1)あなたがこのカードが、このターンの一番最初に引いたカードだった場合
オープンコストを支払うことでプレイしてもよい。
なにこれ。
強い。強すぎる。
都合が良すぎるぐらいに強い!
そうだ、こんなカードがあれば勝てる!
これを引けば――
――そう、産み出せば
これを創れば――
――どんな世界だって
私の
――切り開ける
≪ユウキ!!≫
声がした。
私の精霊の、声が。
≪私を使って!≫
デッキが光っている。
ぼんやりと一番上のカードが、温かい光が、弱々しい光だけど馴染んだ光が。
≪私は、あたしは弱いけど、勝てるとはいえないけど!≫
アリーシャの声が。
≪一生懸命、頑張るから!≫
泣きそうな、凛々しい天使なのに、お菓子を食べたりするのが好きで。
カードだから着替えとか出来なくて、おしゃれとかが出来ない。
≪力を合わせればきっと!≫
私を護ってくれる守護者が。
≪勝てるよ!≫
私の、大事な友だちの声がした。
――無視していいよ。そいつは弱いから。
私は。
「ドロォおおおおおおおおおおおおお!!!」
私の中の声を無視して、デッキのカードを引いた。
――馬鹿な! それは
馴染んでいる紙触り。
これは私のカード。
デッキに入っていたカード。
「随分な共鳴でしたが、なにかいいものは引けましたか?」
まだ開かない。
まだ見ない。
「うん」
≪ユウキ!≫
「私は可能性を開く!」
胸に下げた父さんの形見。
小さな、小さな玩具のような【鍵】を左手で握りしめる。
「私たちの、勇気を証明する!」
熱が溢れた。
下腹部から、腰に、背中に、胸に、電撃のような熱が駆け抜けた。
全身から感じたことのない光が、手足が、細胞が生まれ変わるような感覚。
形見の鍵が光っていた。
そして、私の指に掴んだカード……アリーシャのカードが、金色に光って。
――ひっくり返す。
そこにあったのは――
「私は5オドを支払い、<勇気を示す乙女アリーシャ>を召喚!」
新しいアリーシャ!
◆
そのカードが出た時、俺は眉をひそめた。
「あれはたしかまだ出ていないはずのエキスパンションの」
報告のためだろう、弄りまわっていたら繋がった社長室直結の映像通話。
緊急移送プロトコルの作動で、生命維持装置以外を止めた水槽から人間を引っ張り出しながら俺はその画面を見ていた。
◆
新しいアリーシャは真っ白な衣装に、生やしていたはずの翼がなかった。
それはただの人間みたいで。
銀色の刃の生えた錫杖を携えていた。
≪ユウキ! やったね!≫
「アリーシャ、その姿は?!」
≪なんか昔の姿になっちゃった! ユウキこそその姿≫
「え?」
姿を言われて、自分の体を見下ろす。
それは家から飛び出してきた時の私服じゃなくて……なんか、え。
「えええええええええええ!? なにこれ!」
えっち!
エッチな衣装になってる!
なんかスパッツだし、上着もなんかピチピチしてるし、なのにジャラジャラ金属の知らないアクセとかあちこちついてるし、おヘソがスースーするし。
お父さんの形見の鍵についてる鎖が豪華になってるし。
≪かっこいいよ!≫
「エッチじゃない!?」
≪えー? 若いんだからいいのいいの≫
そういうもんじゃないんだけど!
うぅ、男の人がいなくてよかった! お父さんにだってこんな姿見せたことないと思うのに!
「【
そう思っていたら子供社長が、見たことのない焦った声を出していた。
「めいそう?」
「カード……レガシーカードとデッキとファイターの一体化。共に響き合う生命力そのものを纏った太古における
極限の姿?
「ありえない! 現代では精々簡易型の、人工的に再現したメイルのみ! それを聖座の遺物もなしでやるなど、”握るもの”か、私のような”塞ぐもの”か……」
そこまで告げて、彼女の顔がはっきりと歪んだ。
何を見ているんだろうか。
私の……鍵? 鍵を見ている。
「まさか――”開くもの”!?」
そう叫ぶ彼女は、本当に驚いてるようだった。
けど。
「何を言っているのかわからない。けど、今は貴女を倒す!! 勇気を示す乙女アリーシャの効果!」
手を伸ばす。
右手を前に。
≪あたしの能力発動! あたしが場に出た時、墓地からクリーチャーを1体場に出す! 指定するのは≫
手が伸びる。
アリーシャの左手が重なる。
「開け、命界の門! ――<
門が開く。
墓地から一度は屈した、打ち砕かれたはずの私の、私たちの勇者王が蘇る。
≪あたしが蘇生したクリーチャーは次のターンまで速攻と
立ち上がった勇者王の目に光が宿る。
「絆カウンターは乗せられている間、そのクリーチャーがダメージを与えた際、同時にそのダメージ分のライフをコントローラーに与える!」
「それで延命でも計るつもりですか!」
「いいや、このターンで決着をつける! 貴方の戦いは――この塔と共に終わる! パワー8のブレイブGOで攻撃!」
「なにを……ゼブルでブロック!」
走り出した勇者王が、ゼブルと激突し。
「私たちの道を切り開け!」
――砕け散った。
ゼブルに返り討ちにされて、敗れ去った。
≪ダメージ7点分、ユウキのライフが回復する!≫
「だから?! 次のゼブルで、いえ、次の特殊勝利で終わらせます」
「このターンで終わらせると言ったよ! 迎撃されて、破壊されたブレイブGOの効果発動!」
手を伸ばす。
私のデッキが光り、望むカードを……入れておいたカードを浮かび上がらせる。
「私は、デッキから<金の騎勇/銀の勇気>を手札に加える!」
勇気とは必ず勝つことじゃない。
ううん、勝つことも大事だけどそれ以上に諦めないこと。
祈るように続けることを、立ち上がること。
だから。
これを思い出した。
「なっっ!!?」
あのエレベーターで、サイドボードにあったかっこいいカード。
弱めのブレイバーの攻撃でも除去が出来るからといってデッキにいれたカード。
「バトル続行! <孤高の天狼・ヴァイスファング>で攻撃!」
「二体目のゼブルがブロック!!」
「そのブロックしたゼブルに対して、<金の騎勇>の効果を発動! ブロックしたクリーチャーを除外し、ヴァイスファングに貫通効果を与える!」
ブロックするクリーチャーが戦いの中で掻き消えたらダメージはどうなる?
本来ならそのままそこで消えてしまう。
だけど、貫通さえあれば、そのダメージは相手コントローラーへと届く!
そして、相手のライフは残り――7点だ!
「切り裂け、白狼絶刀牙!!!」
託された白い閃光が、真っ直ぐに――少女のライフデッキを吹き飛ばした。
「私たちの勝ちだ!!」
私は、私たちは手を突き上げて、勝利を叫んだ。
彼は長きに渡って戦い続けていた。
何度も傷つき、その度に修理されて立ち上がり続けた。
必ず善が勝つとは限らない。
負けることも、破壊されることだってある。
けれど最後には立ち上がり、打ち果たすのだから我々はこう言えるのだ。
悪が栄えることは決してないと。
――勇騎士ブレン(勇者王・轟より)
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