二十三話 切り直すとは、対象デッキを無作為化することである




 火が灯る。

 私とサレンさんの足元から円を描くように火が走る。

 白い、熱くない、火。

 お互いを包み込む炎。

 それで私たちからターンが始まったのがわかった。


「私たちからはじめるよ!」


 さっき口から発せられた点火するイグニッションという言葉。

 その意味を、私はわからない。

 これが普通のファイトとはどう違うのか。


 それだけはすぐにわかった。


「先行から開始、メインドローは省略、ライフカードを二枚ドロー……、ッ!!」


 自分のライフデッキからカードをドローする。

 そのカードがまるで火がついたように熱く、滾っていた。


≪マスター! 生命力が!≫


 代わりに、胸が少しだけ冷たくなる。

 アリーシャの声に、一瞬ふらついた足をぎゅっと支える。


「イグニッションって……!」


「イグニッションファイトに関しては未研修のようですね」


 子供社長が前のめりに、床に突き立てたパイルを支えにした態勢に告げた。



「これこそ本物のファイト。Life生命闘争ファイト



 本物のファイト?



「真剣勝負と言えば解読容易なものですが」



 そう告げる彼女のバベルデッキは煌々と光を宿していた。



「己がデッキに、自らの生命を焚べて、燃やす。その薪が多ければ多いほど、上質であればあるほど燃え盛り――共鳴の輝きが消えることはない」


「生命を燃やす?」


「――闇のカード。それに抗うには生命を賭けるだけでいいというのは効率がいいでしょう」


「古の……闇のカードとの闘争形式レギュレーション!」


「無論。


 闇だけじゃない?


「さて。必要な説明は以上です、続きをどうぞ」



「私は土地をセットして、<ブレイバー・鉄肌>を召喚! これは1/1だけど、全てのブレイバーはタフネスが1つ強化される! ターンエンド!」


 メインフェイズを終える。

 今の手札は今までにないぐらいに調子がいい。

 サレンさんもいる、どんな相手でも怖くない。


 終了宣言と同時にサレンさんの足元に火が灯る。

 次はサレンさんということは、私→サレンさん→子供社長の順番で……時計回りってこと?


「私のターン。ドローフェイズ……先行扱いのため、メインドローをスキップ、ライフカードを2ドロー……、ッ」


 サレンさんの表情が、一瞬歪んだ。

 ライフカードから引き抜く消耗は、サレンさんでも同じなんだ。



「精霊狩りもイグニッションファイトは未経験でしたか? 想定外です」



「闇のファイターぐらい、カードが強ければ問題なく倒せる」


 さすがサレンさんだ。

 ゴリ押しの意見!


「さすがは握るもの。的確な意見です」


「私は土地をセットして、ターンエンド!」


 サレンさんは土地だけをセットしてエンド。

 肌で感じる。

 多分このゲームは純粋に2対1だ。

 私とサレンさん、どっちかが目の前の少女を倒せばいいと思う。


 といっても幾らライフが倍だっていっても手札の数は純粋に2倍。

 十分に有利、勝ち目は高い。

 早く倒して、地下の人たちを助けなきゃ……!



 そんな考えはすぐに吹き飛ばされることになった。



「私のターンから開始します――ライフカードを2ドロー」


 ガコン、と少女の篭手からエンジンのような音が鳴る。

 ボードにセットされたライフデッキのロック部分、肘部分から2枚のカードが排出される。


「土地をセットし、起動。


 それを右手で引き抜いてボードにセット。

 そして、手札――といっても手に持っていない。

 少女の回りをゆっくりと旋回するカードの一枚を掴んで、ボードに置いた。



「1コストで<ハイステア・スレイブ・ハンド>を召喚です」



 それは顔を覆われて、手枷を地面に繋がれた真っ白な灰のような人形だった。

 クリーチャーのデータを見る。


 それは。


「パワー0のタフネス4!?」


 ありえない強さだった。


「デメリットを説明します。召喚成功時に、メイントップからカードを2枚墓地に送ります」


「はぁ!?」


 巨大なデッキから二枚、上からカードがこぼれ落ちて、下へと重ねられる。


「ターンエンド。そのエンドフェイズ時に、スレイブ・ハンドの維持のためにデッキトップ1枚を墓地に送ります」


 そうしてまた一枚墓地へとカードが落ちた。

 まって。

 いやまって。


「それデメリットじゃないじゃん!」


 どっちかというとメリットじゃん!

 1コストで、0/4で、最初に二枚墓地送りの、維持で1枚ずつ?!

 凄い勢いでデッキが削れちゃうけど、墓地がどんどん増えていくのがわかる。


 禁止されてないの!?


古き過去アンティークカード……!」


「アンティーク?!」


「過去に製造されて、今は製造されていない非主流スタンカードのこと。手に入れるのは持っている誰かから譲ってもらうか、あるいは資金力……桁違いの値段をつけられているオークションとかで手に入れるしかない」


「古いって、昔はそんなに強いのが当たり前だったの!?」


「いや、昔の時代ではこれはそんなに強くなかった」


 え。

 強くなかったって。


「墓地を利用するカードが殆ど存在しなかった時代レギュレーションだから存在し、


「禁忌」


「そう。今なら墓地、死んでも、使い捨ててもまだ役目があるカードが多い。だけど昔は、ううん、今でもデッキを削るような行為は好かれていない」


 そう。

 そうだ。

 デッキは、ファイターの相棒。

 一緒に戦うための支えであり、武器であり、盾であり、片割れみたいなもの。


 ライフだけなら生命の取り合いになるけど、それを削って破壊するとかはなんとなく嫌な気持ちになる。

 身を裂かれるような気分になる。

 相手のそれを削る、ファイト削られるだけでも嫌なのに。

 


 ……墓地は第二の手札だけど。


「だからこれらのカードが封入されていた旧カードパックは処分されて、同じカードの復刻は殆どされない。手に入らないはずのカード、値段は青天井。一つのパックで数千万以上をつけられているのも珍しくない」


「すうせ……!?」


 相手の枚数……あれに数千万以上もするカードをいれてるって。

 一体どれだけのカードが入っているの?!


≪マスター! 命界めいかいの価値が強さじゃないわ!≫


「アイーシャ」


≪私たちは負けない!≫


「うん! 私のターン!!」


 まだファイトは始まったばかりなんだから!



 それから。

 ターンが静かに、回った。



「私は<ブレイバー・装甲>を召喚! 鉄肌との相乗効果でタフネスが3まで上昇!」


 私はブレイバーを増やして、鉄壁だけど攻撃力がないスレイブ・ハンドを突破するために数を増やして。



「エンドフェイズに、私は自分に<衝撃>を発動する。2点ダメージ、土地が2枚ステイ状態で配置される」


 サレンさんが、自分のターン直前に自分にバーンを打ち込んで土地を増やしたり。



「私のターン、<ハイステア・アーツロック>を召喚。これは召喚時にデッキを二枚削ります」


「させない! 1コスト支払い、<軽薄な突き出し>! 2コスト以下のクリーチャーを破壊する!」


 子供社長が新しいクリーチャーを出したのを、即座にサレンさんが破壊する。



 ターンが回る。

 私はクリーチャーを増やして、一気にライフを削り取るための盤面を作る。

 サレンさんは魔石や秘宝を置いて、手札を入れ替えるカードを使って備えている。

 子供社長は一枚一枚と土地を置いてデッキを削り、墓地を肥やすようなカードを使っている。


 静かな立ち上がり。


 相手のライフが40枚、迂闊に攻め入れば豊富な土地で薙ぎ払われかねない。

 だからこそ、私とサレンさんはお互いの動きを注意しながら動く。

 相手は静か。

 イグニッションファイトでもあんな膨大な数のデッキを握りきれるわけがない、だから上手く動けていない。



「ッ! 私は3コスト支払い、手札から<鳴動>を2点ダメージとして発動する!」


「サレンさん!?」

 

 サレンさんが突然、全体ダメージを使った。

 私は自分のライフデッキが焼かれて、サレンさんも焼かれる。


 そして、子供社長のライフも削れて。


「なにを!?」


 慎重に動く。

 そういう動きじゃなかったの。


 なんで裏切りみたいなことを。


「ターンエンド! 備えて!」


「そなえ……?」



「カンがいいですね。魔石が焼かれましたか」



 二枚。

 土地にならずに、墓地2へと落ちたライフカードを見ながら少女は言った。



「では――メイン・ライフカードをドロー」


 炸裂音。

 ボードからカードが排出され、彼女の手に渡り。



「3オドを生み出し、魔法<未来侵略>を発動。




 その瞬間、室内に光の線が張り巡らされた。

 なにこれ。

 嫌な予感が。


「――瞬間魔法<反応解呪>で打ち消す!」


「ライフカードを捨てて、瞬間魔法<貫く意思Skewer of Will>を発動。それを打ち消します」


 は?

 コストでもなく、手札たった二枚で打ち消し?!


「ユウキ! これを通したら負ける!」


「! 瞬間魔法<献身の証明>を発動! <ブレイバー・装甲>を生贄に打ち消すよ!」


 交差する打ち消し。

 それでようやく部屋の中に張り巡らされた光の線が消し飛んだ。


「今のなに!? コストなしで打ち消しされたんだけど!」


「最上級レアカード、貫く意思! 通称”Will”!! あまりにも強すぎてすぐに製造中止された最強の妨害魔法! 値段は」



「精々2千万です……【ナインス】とまではいきませんが、魔法<時戻しの黒蓮TimeBack・Black Lotus>を発動。発動コストとして墓地からカードを30枚除外し、3オドを生成する」



「「はぁ!?」」



 3オド――コストのこと?

 その言葉に聞き覚えがありすぎた。



「2枚目の魔法<未来侵略>を発動。



 再び室内が光の線で覆われる。

 白く、まばゆいほどに白く。



「この魔法が発動したエンドフェイズに、私のメインデッキが200枚以上ある場合ファイトに勝利します」





 効果の説明に、思考が止まった。


連動チェインする! 土地を3枚墓地に送り、瞬間魔法<防災>! <未来侵略>を打ち消す!!!」



 二度打ち砕かれる光の線。

 それが過ぎ去ったあと、私は……息をすることを思い出した。


「はぁー! はぁー!」


 死ぬ。

 死ぬところだった。

 わけもわからずに一瞬で終わるところだった。

 その安堵に胸を抑えて呼吸する。

 怖い。

 戦ってすらいない段階で終わるなんて恐怖がわけもわからないところからこみあげてくる。

 でもこれで! 相手の攻めは凌ぎきった……!



「これまで防ぎますか。評価基準を上げる必要がありますね」


 そう思っていたのに。

 少女は。

 淡々と。

 悔しそうでもなく。

 驚いたわけでもなく。

 ただ。

 淡々と、そういうこともあるだろうという顔。


 いや。



「ターンエンド。次のプランに移ります」




 まだあるのか。

 後ろにそびえ立つまだ3分の1も――10分の1すらも削れていないデッキを見て、私たちは呻くしかなかった。





 まだ悪夢が始まってすらいないことすら想像してなかった。



















 一の学問を学べば道が一つ。

 十の戦術を学べば道が数百。

 百の戦略を学べば千の栄誉を。


 千の分野を極めれば無限の未来を侵略出来る。



                  ――未来侵略








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