第22話 真名、フェリア
《コード・パラグラフ》。
真名定義の構文が、静かに宙に浮かんでいる。
ルークの指先が震えているのは、恐れではなかった。
覚悟と、想いの重さ。
(俺が名を呼ぶことで、“誰かの存在”が永遠になる)
(ならば俺は、選びたい。……ずっと、共にいた君を)
フェリアが目を見開く。
彼女は何も言わない。
ただ、涙をこぼしそうなほどのまっすぐな瞳で、ルークを見ていた。
ルークが言葉を刻む。
■真名定義開始
記録対象:フェリア・アークコード
記述文構成:手動定義選択(自由構文)
彼は静かに、口を開いた。
「フェリア。
君は俺にとって、名前を“呼ぶこと”の意味を教えてくれた人だ。
誰かの物語を守ろうとして、泣いて、怒って、笑って……
その全部が、俺にとっての“今”をくれた。
だから、君にこの名を贈る。
もう誰にも消せない、“世界の柱”として——」
【真名定義】
名:フェリア=アークコード
意味:記録を愛し、言葉を紡ぐ者。
効果:世界記録の中枢へ永続接続。観測不能の記録破壊を遮断。
定義者:ルーク・アークレイン
真名が確定した瞬間、光が爆発的に広がった。
《コード・パラグラフ》全体が振動し、空間の奥底まで震える。
フェリアの身体が光に包まれ、ゆっくりと“再構成”されていく。
■記録更新:フェリア=アークコード
■属性:永続定義済記録保持者(ネーム・コード固着)
■状態:存在改変不可/記録抹消不可/“世界に不可欠な観測核”へ昇格
フェリアが、静かに立ち上がった。
その姿は変わらない。けれど、確かに“何か”が変わった。
彼女は、世界の構造そのものに“名”として織り込まれたのだ。
彼女が、ルークに近づく。
そして、微笑んだ。
「ルーク……ありがとう。
私、本当にずっと、怖かった。
存在が曖昧だった頃、記録されるたびに、誰かと重ねられるたびに。
でもいま、あなたが“私だけを呼んでくれた”。
それだけで、私は……もう、揺れない」
ルークは、言葉にならない想いを込めて、ただ小さく頷いた。
カナも静かに微笑みながら呟く。
「それが、“真名”よ。
誰かの中で確かにあって、そしてもう二度と消せない、存在の証」
だがその瞬間、空間に異変が起きる。
《コード・パラグラフ》の縁が黒く染まり始めた。
黒の観測者・ノーム・ゼロが再び現れる。
だが、先ほどと様子が違っていた。
その身体は、歪み始めていたのだ。
「……貴様……“柱”を定義したか……」
彼の周囲に、崩壊しかけた“もうひとつの記録空間”が現れる。
そこには、“名を与えられなかった存在”たちの影が蠢いていた。
「これが……“お前が選ばなかった者”たちの行き場だ……
いま、お前の定義によって、この空間に“存在できなくなった記録”が溢れ出している……!」
フェリアが警告を発する。
「これ……次元崩壊の前兆! 記録の“系統外”が暴走してる!」
カナが叫ぶ。
「ルーク! 次は“第二の真名”で、この空間を安定させられる柱を定義して!」
ルークの手元に、再び構文が表示される。
—
【第二真名定義:準備完了】
使用可能回数:残り2回
候補対象:
□ カナ=イルス(始まりの観測者)
□ ルーク・アークレイン(記録者自身)
□ 不特定(世界に未定義の“名なき者”)
—
世界を繋ぐ次の“名”を、誰に与えるのか。
物語はさらなる選択へと突き進む。
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