第11話 記録管理者フェリア──語られざる創世

“記録の原盤”の扉を抜けた先は、**静謐なる空白(セラフィック・ホワイト)**と呼ばれる空間だった。


そこは、音がなく、色もなく、ただ情報だけが満ちていた。

空間自体が思考でできているような世界で、ルークたちは新たな存在と出会う。


「ようこそ、《継承者》たちよ」


そう言って現れたのは、少女の姿をした存在だった。


白銀の髪、淡い金の瞳。

その衣はまるで図書館の司書のようで、背には幾重もの書が浮かんでいる。


「私はフェリア。この世界の最奥記録群──《始まりの図書館》を管理する記録守(アーカイブ・キーパー)です」


「……人間じゃない、な」


ネブラが言うと、フェリアは微笑んだ。


「私は“存在”として定義されていません。あなたが観測するから、今の“形”を持っています」


ルークの《オムニ・レコード》が反応する。


──識別:記録守フェリア(階層管理者)

──知性ランク:A++ / 戦闘適正:D / 情報解釈:S+++

──この存在は“物語の形式”でのみ世界を語ることができる


(物語形式……?)


フェリアはゆっくり手をかざす。


すると、空間に浮かぶページが捲られていき、

やがて一つの映像が映し出された。


──それは、“神々の創造”の瞬間だった。



「この世界は元々、“複数の観測者”によって同時に作られました」


「……神々、ってことか?」


「はい。けれど、彼らは“結末を与えない世界”を作ったのです。

永遠に続く物語、永遠に更新される存在、永遠に続く進化。

……やがて、その矛盾は、“崩壊”を生みました」


画面には、暴走する神々の使徒、崩れゆく因果の糸、

そして“リセット機構”として現れた【ネブラ】たち神獣の姿が映し出された。


「我々“記録守”は、記録を保存し、継承し、断絶を止める役目です。

でも……“誰かが読む”ことでしか、それは意味を持ちません」


フェリアがルークを見る。


「あなたは、読んだ。

観測した。拒絶せず、解釈しようとした。

……だから、私はあなたに託します。“世界を書き直す”権限を」


その瞬間、ルークの《オムニ・レコード》に新たな文言が浮かぶ。


《記録継承者ルーク・アークレイン》に、

《概念記述》権限を一時付与


【使用制限】:月一度、因果構造に“言語”を上書き可能


(……これって、世界のルールそのものを“言葉”で変えられるってことか?)


「でも、気をつけてください」

フェリアが、ほんの少しだけ目を伏せる。


「この力は、“記録を焼却する者”にも狙われています。

彼らは“終わり”を望む者。世界の最後を記す“黒の観測者”──」


リシアが小さく呟く。


「まさか……それって、リオンに憑いていた“影”の正体……?」


「はい。あれは彼らの分体。やがて彼ら自身が、“記録の主軸”に直接干渉してきます」


その瞬間。


空間の一部が破れた。


霧のように黒く、ノイズのように砕けた“言葉の死骸”が、セラフィック・ホワイトに侵入する。


「来たわね……!」


フェリアが両手を広げ、書の防壁を張る。


「彼らは、記録に存在しない言語を喋ります。

意味が“認識できない”ことで、世界の定義を破壊するのです」


ネブラが呟く。


「まさか……やつらは、“読まれないこと”を武器にするのか……!」


ルークが一歩、前に出る。


《記録改変:発動可能》

──上書き対象:侵入因子『非言語干渉体』

──書き換え文:「この存在は、解釈可能な“敵”である」


「……ようやく、読めるようになった」


彼の言葉と共に、世界が色を取り戻す。


フェリアが微笑む。


「さあ、継承者様。次は、“最後の敵”を読み解きましょう」

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