第6話 ようこそ、英雄さま──“追放者”の名は、もはや秘密ではない
「おい、聞いたか? あの“無名の英雄”、どうやら王都に来るらしいぞ」
「ほんとかよ? マジならギルドランクが一気に変動するぞ……!」
王都冒険者ギルドは朝からざわついていた。
数々の魔獣を単独で討伐し、複数の村を救い、なお実名不明——
"無名の冒険者"の名は、もはや都市伝説の域を超えて、真実味を帯びた話題になっていた。
そしてついにその日。
ルーク・アークレインは、王都に戻ってきた。
*
「変わってねぇな、王都……」
馬車から降りたルークは、肩に乗ったネブラと共に石畳を見下ろした。
華やかな装飾、どこか他人行儀な笑顔、権威に満ちた空気。
彼が一度、捨てた場所。
リシアが隣に立ち、淡々と告げる。
「目的地は冒険者ギルド王都本部よ。正式に、あなたを上位登録者として推薦した。
スカウトも殺到してる。王立学院、魔術研究院、軍、王族直属隊……あなたを見逃す気はないらしいわ」
「……へぇ、都合いい連中だな」
「それだけ、あなたの噂が独り歩きしてる。今や"追放された鑑定士"が“最強の読解者”として名乗りを上げた……ってね」
ルークは苦笑しながら、ギルドの扉を押し開けた。
その瞬間——
「き、貴方が……ルーク・アークレイン殿ですね!?」
ギルドの受付嬢が駆け寄ってくる。
背後ではすでに数人のスーツ姿の者たちがざわついていた。
彼らは貴族家の使い、研究機関の代表、そして王城の使節。
「本日は、S級相当冒険者としてのランク再登録と、報酬の再評価、ならびに各機関からのスカウト面談が予定されております!」
「いきなりだな……」
「有名人はつらいな、主よ」
ネブラが涼しい顔であくびをする。
まるでこの展開をすべて読んでいたように。
「とりあえず、全部断っておいてくれ。しばらくは個人で動くつもりだから」
ルークのひと言に、受付嬢は言葉を詰まらせた。
「は、はあ……!」
*
その夜。
王都の一流冒険者だけが入れる《蒼月の塔》にて、非公開の"戦闘演習"が行われた。
主催は王立騎士団。
目的は――"本当に、彼が噂の通りか"、その真偽を確かめること。
相手は、現王国最強の魔法剣士・【紅蓮の騎士レオ】。
ルークが名乗りを上げると、周囲がざわついた。
「鑑定士? また変な自信家か?」
「本当にただの鑑定スキルしか持ってなかったって話だぞ……?」
その声を受けて、レオはにやりと笑った。
「鑑定士か。ならば、一手も当たらぬうちに終わるな」
「一手も、か。じゃあ、お言葉に甘えて」
ルークは腰に下げた短剣をそっと抜く。
軽い構え。それだけだ。
だが――その瞬間。
レオの体がビクンと跳ねた。
「……!? 何をした……!」
「《未来視》。次の三手、全部読んだ。
あなたが右に踏み出して、斜め上から魔剣を叩きつける……そう来ると思ったよ」
「貴様、今の……」
「動いてない。ただ《避ける必要がない》って知ってただけだ」
観客席が静まり返った。
そのままルークは、まるで歩くようにレオの脇に入り、指先で首元を軽く突いた。
「はい、三手目。これが当たってたら、失神ね」
レオは、青ざめてその場に立ち尽くした。
——試合終了。
「ば、ばかな……」
王立騎士団の団長すら、椅子から立ち上がるほどの衝撃だった。
リシアは小さく息をついて呟く。
「やっぱり、“戦うこと”ですら、もうあなたは読んでるのね……ルーク」
*
その翌日、王都ではついに彼の名が公に報じられた。
『最強鑑定士ルーク・アークレイン、正式にギルドS級相当と認定。かつての追放劇は王都の恥辱か——』
そして、元パーティのリーダーだったリオンは、その記事を握りしめ、床に座り込んでいた。
「……ルーク……お前が……」
震える指。思考がまとまらない。
マリエは口元を押さえ、信じたくない現実に背を向けようとしていた。
「嘘よ……嘘、でしょ……?」
だが。
もう、全てが遅かった。
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