第10話

「どうする。スカーレット様がいないらしいぞ」


「彼女なしで結界の維持は無理だ。日を改めて来ていただこう」


「しかし殿下はスカーレット様との婚約を破棄したとおっしゃっているぞ。それなのに、結界維持のためにお呼びするのは……」


 魔術師団の団員たちは、難しい顔で何か話し合っている。


 揃いもそろって、こいつらは一体何なのだ。


 スカーレットがいないくらいで何をそんなに騒ぐことがある?


 せっかく王子である俺と、光魔法の使えるノーラがこんな辺境の森まで来てやっていると言うのに。



「お前達! 何をぐずぐずしている! さっさと結界の場所へ行くぞ!」


「いえ、しかし殿下。スカーレット様がいなくてはどうにも……」


「ノーラがいれば問題ないと言っているだろう! 命令に逆らうのなら魔術師団から解雇するぞ!」


 俺がそう言うと、団員たちは顔を見合わせながら渋々と言ったように歩き出した。


 全く、なんて無礼な奴らなのだ。



「ダリウス様。皆さん、私ではスカーレット様の代わりにならないようにおっしゃいますのね……。やっぱり私では心もとなかったのでしょうか……?」


「心配するな、ノーラ。君にだってスカーレットと同じ光魔法が使えるのだから、うまくいくに決まっている。結界をきちんと張り直すところを見せたらあいつらだって納得するさ」


「そうですわね! なんだか元気が出てきましたわ!」


 俺が励ましてやると、ノーラは元気に言う。


 本当にノーラは素直で可愛い。スカーレットに百分の一でもこのかわいらしさがあればよかったのに。


 俺はノーラの手を取り、軽い足取りで結界までの道を歩いた。



***



「……どういうことだ?」


 俺は呆然と目の前の結界を見つめた。


 この辺り一帯を覆うように張られた透明なバリアは、いつもだったら魔法をかけた後はキラキラ光っているのに今日は全く光を発さない。


 前回の遠征から今日までについた傷やヒビなども消えていなかった。


 立ち尽くす俺の後ろで、魔術師団の団員たちが「やっぱり」だとか「スカーレット様でなければ」だとか呟いている。



 イライラしてもう一度魔法をかけるが、結果は同じだった。ノーラが強化魔法をかけてくれても、何一つ変わることはない。


 予想外の状況に、背中を嫌な汗が伝った。

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