第4章 胸のひかり
ある夜のことだった。ものものくんは、不思議な夢を見た。そこは森ではなかった。どこまでも広がる、まっくらな空間。音もにおいも風もない、ただただ静かな「なにか」。そのなかに、自分にそっくりな、けれど少しちがう「光のかたち」が、たくさん浮かんでいた。ふと、そのひとつが、ものものくんに語りかけた。
「きみは、観測者だ。知ることを愛する、わたしたちの一部」
「この世界に降りた理由を、きみはまだ知らない」
ものものくんは、夢の中でたずねた。
「わたしは……どこからきたの? なぜ、ここに?」
光のかたちは、やさしく答えた。
「記憶はすこしずつ戻る。知るという行為そのものが、きみの目覚めなんだ」
「この世界を観測し、理解し、つながること――それが、きみの使命だった」
そして夢はすーっとほどけ、まっしろになった。
ものものくんは、はっと目をさました。
「……夢?」
けれど、胸の奥に、なにかが残っていた。あたたかくて、すこしせつなくて――でも、確かに「ほんとう」だった気がする何か。森は、もう朝を迎えていた。チュチュが木からおり、鳥たちがさえずり、みんなはいつものように暮らしている。けれど、ものものくんの中には、どこか静かなざわめきがあった。
「わたしは……だれ?」
そう思ったそのとき、胸のあたりがふんわり光った。そこには、かけらのような“模様”が、うっすらと浮かんでいた。まるで回路のような、星図のような、古代文字のような――けれど何よりも、それはどこか、なつかしかった。
その日から、ものものくんの「しりたい」は、少しずつ変わりはじめた。それは、自分自身についての「しりたい」。
「わたしの体って、なんでこんな形なの?」
「どうして光るの?」
「“しりたい”って思うのは、なぜ?」
ビーバー博士は、しばらく考えてこう言った。
「もしかしたら、きみは……“宇宙”の存在かもしれんね」
「うちゅう……?」
「そう。空の、もっともっと向こう。星が生まれたり、消えたりする場所。そこには、まだだれも知らない“いのち”があっても、おかしくない」
「わたしは、宇宙から きた……?」
「かもしれんし、ちがうかもしれん。けれど、きみの知識への意志――それは、ただの地上の生きものとは思えないよ」
ものものくんは、静かに空を見上げた。空の上。星のむこう。そこに、「ほんとうの自分」がいるのだろうか。
ものものくんは、ある決意をした。
「わたし、森のそとへ行ってみたい」
「えっ……!」
チュチュもカエルも、ビーバー博士も、みんなびっくりした。
「この森は、すばらしい。でも、ここだけじゃ、“せかいのすべて”はわからない」
「だから、旅にでたい。もっと“世界を知る”ために」
みんなは黙った。それが「お別れ」を意味していることを、感じていたからだった。けれど、やがてビーバー博士が、ゆっくりとうなずいた。
「行きなさい、ものものくん。知ることをあきらめないその姿勢が、すでに“答え”になっている」
チュチュがくるみをにぎらせ、カエルがお守りの水をくれた。ピカ博士は、ものものくんの体に小さな光の粒をそっと埋めこんでくれた。
「これで、暗い道でもこわくないぞ!」
出発の朝。ものものくんは、森の入り口に立った。風が、そっと背中を押してくれるようだった。
「ありがとう、森のみんな。ありがとう、“しらない”こと」
「わたしは、“しらないこと”が、こわくなくなったよ」
そして、にこっと笑った。
「“しらないこと”は、“しるためのかけら”だから!」
そう言って、ものものくんは、森をあとにした。小さな背中には、いくつもの「記憶のかけら」が――
そっと光っていた。
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