第23話 開戦

 帰宅すると彩が声を掛けてきた。

「食事のあと、ちょっと話があるんだけど。」

きたな。動いてきたな。


 茉奈を寝かしつけて、彩がリビングに戻ってきた。

「話ってなに?」

「あの。あのね。私と別れてほしいの。」

「え?どういうこと?」

ここで気取られてはいけない。

「私と離婚してください。」

「突然どうしたんだ。俺たち上手くやってたじゃないか。茉奈もいるし。」

「突然じゃないわ。ずっと別れたいと思っていたの。」

「理由を言ってくれよ。納得できないよ。」

「私ずっと家事も育児も一人でやってきて、いっぱいいっぱいなの。あなたは家事を

 やってくれない上に、料理も上手くなれって言われて・・・。」

「自分で専業主婦になりたいって言ったんだし、料理だって自分で習いたいって君が言ったんだろ。」

「それは・・・・・・・。」

「どうしても、離婚したいのか。俺はお前を愛しているんだよ。俺への愛はなくなったのか。」

「え?・・は、はい。」

「離婚したいという意思は変わらないのか。」

「は、はい。」

よし、ここぐらいでいいか。必死の夫を演じるのは、終わりだ。


「よし、分かった。離婚しよう。」

「へ?いいの。」

 俺の態度の急変に驚いて、言葉が出ないで表情が固まる彩。

「ああ、離婚したいんだろ。同意する。離婚届けは用意してあるのか。。」

「い、いえ。」」

「じゃあ。弁護士さんに連絡するから。」

「え、弁護士?こんな時間に?」

「ああ、すぐに来てくれるんじゃないかな。」

「ち、ちょっと待って。」

慌てる彩を無視して、スマホを取り出す。

「あ、椿さんですか。すぐに来てくれますか。」

「はい、すぐに伺います。」

「すぐ来てくれるって。」


「本当に弁護士さんが・・。ちょっと」

立ってリビングを出ようとする彩。

「動くな!!」

「え!ト、トイレ」

「行くなら、スマホを置いていけ。」

「え?なんで?」

「トイレにスマホはいらないだろ。」

一度立った彩はソファーに座り込む。


ピンポーン

インターホンが鳴る。

「椿です。」

「どうぞ。」

 ここ数日中に動きがあると予想して、夜9時までは、自宅近くで待機してもらっていた。それがピタリとはまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る