第2章「その買い物、本当に必要?」



――漫画家・佐原湊の部屋には、もはや“机”というスペースは存在しなかった。


ペンタブ、液タブ、モニター2枚、iPad(Pro)、デスクライトに高機能チェア。

棚の上には資料集とペン立て、奥には段ボールに詰められた“未開封の備品”たち――。


「……なんだこの塔」


遊びに来た伊吹が、まるで遺跡でも発掘したかのように呟いた。


湊はそれに気付き、答える


「ああ、それ?グッズ監修用にモックアップと素材別に置いてるだけで……」


「だけで、じゃねぇよ!!」


思わず地雷を踏んでしまった伊吹、声を上げる。


「おまえ、連載だけじゃなくて書き下ろしイラストもやって、さらにグッズ?同人誌も描いて……お前いつ寝てんだ!?」


伊吹の問いに、少し考えたような素振りのまま、沈黙の数秒

のちに湊は言う


「……昨日、2時間くらいは」


「寝てないじゃねぇか!!」


 



 

そこへタイミングよくやってくるのが、両家の良心・なずなさん。

ひよりと一緒に手作りスイーツの差し入れを持って現れた。


「……伊吹。声、でかい。」


「すまん……でも見てくれ、これ」


困惑しながらも伊吹が積まれた山の備品を指差しながら言った


「……これはもう、“備品”じゃなくて“積みゲー”みたいなものね」


「湊くん、火事のもとになるからコードぐちゃぐちゃなのも片付けて?ユメちゃんもいるんだし」


「はい……」


なずなとひよりの言葉にうなだれる湊

ちゃんと反省はしているらしい


「あと、お財布事情も。いま家計簿、ちゃんとつけてるの?」


「えーっと……あの、その……カードの残高が……」


「あっ」

「えっ」


それを聞いたなずなとひよりがギクッと強張せる

まるで、何かを悟ったかのように


「あー、やらかしたな。クレカとちがって把握しづらいのに、“ある気”になっちゃうやつ。」


「気づいたら課金と機材代でなくなってて……」


「それ、よくあるやつ。“簡単決済”地獄。特に新人作家あるある。」


 ため息をつくなずなであった



 


さらに言えば、と話は広がる。


「……ちなみに、猫ちゃんのご飯代とトイレ代、月どれくらいかかってるか、わかってる?」

「えっ、そんなに?」

「猫ちゃん、月平均で餌代4千円。砂代2千円。その他ちょっとしたグッズで+1〜2千円」

「け、結構いくんだね……」


人のことは言えないが、流石にチリも積もってと想像して身震いする湊

流石に自覚したらしい


「あとね、ちゃんとペット保険入ってる?」

「……いや、それはまだ……」

「何かあったらどうするの。通院費ってバカにならないんだから。もう一家族なんだよ」


うん……と頷く湊

だが体は緊張しているかのように強張っている


「湊くん、投げ出さないのはえらいけど……だからこそ、お金のこともちゃんと向き合って欲しいよ」


 ひよりからのお願いに、改めて向き合わざるを得なくなる湊であった



 


その夜、湊は自分の机に向かって、家計簿アプリを起動した。


画面には、グッズ制作費・漫画資料費・音楽機材購入費・猫関連費・サブスク……

色とりどりの支出項目が、美しくも残酷に並ぶ。


「……なずなさん、やっぱすごいな……」


そう呟いたとき。ふと、ユメが布団の隙間から顔を出してぽつり。


「……湊。備品ってさ、“夢を叶える魔法道具”でしょ。でも、魔法には代償がつきものだよ?」


「……それ、ユメの漫画のセリフ?」


「ふふん、半分はね。半分は、湊に教わった。」


「……そっか」


ペンを握る手に、少しだけ力が入った。

買った道具も、背負った責任も、全部――夢に続く道の一部。

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