第2章「その買い物、本当に必要?」
――漫画家・佐原湊の部屋には、もはや“机”というスペースは存在しなかった。
ペンタブ、液タブ、モニター2枚、iPad(Pro)、デスクライトに高機能チェア。
棚の上には資料集とペン立て、奥には段ボールに詰められた“未開封の備品”たち――。
「……なんだこの塔」
遊びに来た伊吹が、まるで遺跡でも発掘したかのように呟いた。
湊はそれに気付き、答える
「ああ、それ?グッズ監修用にモックアップと素材別に置いてるだけで……」
「だけで、じゃねぇよ!!」
思わず地雷を踏んでしまった伊吹、声を上げる。
「おまえ、連載だけじゃなくて書き下ろしイラストもやって、さらにグッズ?同人誌も描いて……お前いつ寝てんだ!?」
伊吹の問いに、少し考えたような素振りのまま、沈黙の数秒
のちに湊は言う
「……昨日、2時間くらいは」
「寝てないじゃねぇか!!」
*
そこへタイミングよくやってくるのが、両家の良心・なずなさん。
ひよりと一緒に手作りスイーツの差し入れを持って現れた。
「……伊吹。声、でかい。」
「すまん……でも見てくれ、これ」
困惑しながらも伊吹が積まれた山の備品を指差しながら言った
「……これはもう、“備品”じゃなくて“積みゲー”みたいなものね」
「湊くん、火事のもとになるからコードぐちゃぐちゃなのも片付けて?ユメちゃんもいるんだし」
「はい……」
なずなとひよりの言葉にうなだれる湊
ちゃんと反省はしているらしい
「あと、お財布事情も。いま家計簿、ちゃんとつけてるの?」
「えーっと……あの、その……カードの残高が……」
「あっ」
「えっ」
それを聞いたなずなとひよりがギクッと強張せる
まるで、何かを悟ったかのように
「あー、やらかしたな。クレカとちがって把握しづらいのに、“ある気”になっちゃうやつ。」
「気づいたら課金と機材代でなくなってて……」
「それ、よくあるやつ。“簡単決済”地獄。特に新人作家あるある。」
ため息をつくなずなであった
*
さらに言えば、と話は広がる。
「……ちなみに、猫ちゃんのご飯代とトイレ代、月どれくらいかかってるか、わかってる?」
「えっ、そんなに?」
「猫ちゃん、月平均で餌代4千円。砂代2千円。その他ちょっとしたグッズで+1〜2千円」
「け、結構いくんだね……」
人のことは言えないが、流石にチリも積もってと想像して身震いする湊
流石に自覚したらしい
「あとね、ちゃんとペット保険入ってる?」
「……いや、それはまだ……」
「何かあったらどうするの。通院費ってバカにならないんだから。もう一家族なんだよ」
うん……と頷く湊
だが体は緊張しているかのように強張っている
「湊くん、投げ出さないのはえらいけど……だからこそ、お金のこともちゃんと向き合って欲しいよ」
ひよりからのお願いに、改めて向き合わざるを得なくなる湊であった
*
その夜、湊は自分の机に向かって、家計簿アプリを起動した。
画面には、グッズ制作費・漫画資料費・音楽機材購入費・猫関連費・サブスク……
色とりどりの支出項目が、美しくも残酷に並ぶ。
「……なずなさん、やっぱすごいな……」
そう呟いたとき。ふと、ユメが布団の隙間から顔を出してぽつり。
「……湊。備品ってさ、“夢を叶える魔法道具”でしょ。でも、魔法には代償がつきものだよ?」
「……それ、ユメの漫画のセリフ?」
「ふふん、半分はね。半分は、湊に教わった。」
「……そっか」
ペンを握る手に、少しだけ力が入った。
買った道具も、背負った責任も、全部――夢に続く道の一部。
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