第106話:すれ違えど信頼あり

「それじゃあ、まずは材料なんですが――」

「こいつを使ってくれ! ピーチのためにコツコツ集めてきた、最高にオシャレでキュートな素材たちだ!」


 楓が材料を口にする前から、バルバスは自らの魔法鞄から様々な材料を取り出していく。

 そのどれもがピンクや赤、蛍光色の明るい、ド派手なものばかりだ。

 これにはレクシアのためにオシャレな従魔具を考えた楓も、口を開けたまま固まってしまう。


「シャアアアアッ!!」

「うおっ!? ……ど、どうしたんだ、ピーチ? なあ、お嬢さん。話を聞いてやってくれないか?」

「えっと、聞かなくても分かる気はしますが……分かりました」


 ピーチの態度を見てどうして気づかないのかと呆れながら、楓はもう一度ピーチに触れる。


「シャアア、シャアアニイイイイッ!(こんなド派手なの、つけられるわけないでしょうが!)」

「……ド派手過ぎてつけられない、と言っています」

「な、なんだって!? ……これ、そんなに派手か?」

「「「「誰がどう見ても派手!!」」」」


 楓はオルダナだけではなく、リディやミリーからも同じ言葉が飛び出した。


「……そ、そうなんだな。……そうか、派手なのか」


 さすがに四人から一斉に言われてしまえば、バルバスも認めざるを得ない。

 そもそも、実際に従魔具をつけるピーチから言われているのだから、ド派手な材料を使うのは諦めてもらうしかない。


「おいおい、バルバス。よくもまあ、こんだけ派手な材料だけを集められたもんだなぁ」

「可愛かったからな! 集めて当然だ! そこまで高い買い物でもなかったぜ!」

「……お前それ、単に売れ残っていただけじゃないか?」

「…………そ、そうなのか!?」


 バルバスの可愛い基準を信用してはいけないと、楓は心の片隅で思うことにした。

 だが、ピーチが可愛いことに違いはなく、そんなピーチに似合う色の材料で従魔具を作ってあげたい。

 それも、可能であればバルバスが用意してくれた、愛のこもった材料でだ。


(何か使えそうな材料は……あれ? でも、中にはド派手じゃないものもあるじゃない)


 そんなことを考えながら、楓はいくつかの材料を手に取っていく。

 すると〈従魔具職人EX〉が都度発動しており、いくつかの従魔具を提案してくれる。


(これをメインの色にして、そこに差し色で明るい色を入れるのは全然ありよね。それなら能力的に……これとこれね。あとは……これも使えそう!)


 黙々と材料を手に取っていく楓を見て、先ほどまで言い合いをしていたバルバスとオルダナの視線が彼女に集まる。

 リディやミリー、そしてピーチも楓を見つめていた。


「…………これだ!」

「できそうなのか!」

「きゃあ!?」


 あまりに集中していた楓は、声を上げた直後にバルバスから声を掛けられたことで、驚いてしまった。


「す、すまねえ!」

「あ! い、いえ、私の方こそ、大きい声を出してしまって、すみませんでした!」


 お互いにペコペコと頭を下げていると、ため息交じりにオルダナが間に入ってくれる。


「はいはい。謝罪はお互いに受け取っただろう? それで、どうなんだ、嬢ちゃん?」


 強引に謝罪合戦を終わらせると、話を進めるためにオルダナは質問をした。


「……これらを使えば、ピーチさんにオシャレな氷属性を強くできる従魔具が作れると思います!」

「ほ、本当か! よかったな、ピーチ!」

「ニャニャン!?」


 興奮したバルバスが急に抱き上げたことで、ピーチは驚きの声を上げた。

 それでも構うことなく、バルバスは嬉しさのあまりその場でクルクルと回り始めた。


「おい、バルバス! でかいお前がクルクル回ってんじゃねえぞ! 邪魔だ、邪魔!」

「いいじゃねえか、オルダナ! ここはこんなに広いんだしよ!」

「お前のために広くしたんじゃねえよ! 従魔のために広くしたんだからな!」

「分かってるよ!」


 分かってると口にしたバルバスだったが、それでもクルクルは止まらない。

 さすがに苛立ったのか、今度はピーチが荒業に打って出る。


「シャアアアアッ!」


 ――キンッ!


「うおっ!?」

「えぇっ!? バ、バルバスさん! 手が、凍っちゃった!!」

「ニャニャー」


 手が凍った直後にピーチを離していたバルバス。

 ピーチの無事にホッとしながらも、今度は彼の手が大丈夫なのかと楓は心配になってしまう。


「大丈夫ですか、バルバスさん!」

「こんなもん、いつも通りさ!」

「い、いつも通りなんですか!?」

「ピーチからの愛情表現ってやつだな!」

「……ニニ~」


 嫌がっているようにしか見えなかったが、バルバスにはそう見えていなかったのだろう。

 これはピーチが大変だと思いながらも、これだけの扱いをされてもピーチはすぐにバルバスの手の氷をすぐに解除していた。


「ありがとな、ピーチ」

「……ニャーン」


 笑顔のバルバスを見たピーチは、どこか甘えたような声で鳴いた。


(傍から見たらピーチが大変そうに見えるけど、これもお互いが信頼し合っているからこその形なのかもしれないな)


 自分の先入観だけで物事を決めつけてはいけないと、楓は改めて考えることができた。


「……よし! それじゃあ、ギルマス様。これらの材料を預かってもいいですか?」

「おうよ! それと、俺のことはバルバスで構わねえぜ! 様もいらねえからな!」

「それじゃあ……よろしくお願いします、バルバスさん!」

「こっちのセリフだっての! よろしく頼むぜ、お嬢さん!」

「ミャーミャー!」


 こうして楓は、ピーチのためのオシャレな従魔具作りを開始した。

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