第22話:材料調達と期待のお料理
バルフェムの外に出た楓たちは、その足で東の森へ向かっていた。
「東側には森が広がっていたんですね」
何気なくそう呟いた楓へ、ティアナは笑顔で教えてくれる。
「北は私たちが通ってきた、王都へ続く道ね。それで南は大都市ポーフォリオに続く街道。西には中小の都市が点々と続いている感じかな。それで東にはフェザリカの森が広がっているってわけ」
「フェザリカの森って言うんだ」
ティアナの説明を聞いた楓は、フェザリカの森には今後お世話になるかもしれないと思い、内心で手を合わせる。
(従魔たちのために、材料をいただいていきます。お許しください)
そんなことを考えながら、楓たちはフェザリカの森に到着した。
自然らしい涼し気な風も吹いており、楓は思わず目を閉じ、気持ちの良い風を全身で浴びるため両手を広げていた。
「すー……はー……。なんだか、気持ちいいですね」
「私もここは好きなの。なんの依頼も受けてなかったら、一人でフェザリカの森に来て、ダラダラ過ごすこともあるのよ?」
「そうなんですか? なんだか意外です。Sランク冒険者の方って、忙しなくしているようなイメージだったので」
楓が素直な感想を口にすると、ティアナは苦笑しながら答えてくれる。
「危険な魔獣が現れたりしなければ、SランクもFランクも似たようなものよ」
「いやいや、さすがにFランクと同じではないですよね?」
「同じよ、同じ。冒険者は全てが自己責任なんだから、どれだけランクが上がったとしても、自分で判断しなきゃならないんだもの」
危険な魔獣が現れれば、先陣を切って戦いに向かうのがSランクだが、そうでなければ冒険者は誰もが同じ立場なのだと、ティアナは語る。
「だから私は、緊急事態とかでなければそこまで依頼も受けないの。前回の護衛だって、ミリアからのお願いだったから受けただけだもの」
「そうだったんですね」
楓がそう口にすると、ティアナはニコリと笑いながら体を寄せてくる。
「ど、どうしたんですか?」
「うふふ~。そのおかげで、私は美味しい料理を作ってくれるカエデと知り合えたんだから、やっぱり私の選択は間違っていないってことよね~」
楽しそうに笑いながらそう口にしてくれたティアナに、楓も笑みを浮かべる。
「私もティアナさんと知り合いになれてよかったです。なんだか、頼りになるお姉ちゃんって感じですし」
楓には実際に姉がいたわけではない。彼女は一人っ子だった。
だが、ティアナの温かな雰囲気を受けて、姉がいたらこんな感じなのかもしれないと、ふと思うようになっていた。
「だったらカエデは、私の可愛い妹ってことかー! でも、カエデって何歳なの?」
「私は二六歳です」
「え?」
「……え?」
「「…………え?」」
どうしてティアナが首を傾げたのか、それが分からず楓も首を傾げ、最終的には二人同時に「え?」と呟いた。
「……もしかして、私の方が年上、ですか?」
「……そうみたいね」
「……ティアナさんって、おいくつなんですか?」
「……二〇歳」
「…………わ、私の方がお姉ちゃんだった!?」
驚きの声を上げた楓だったが、驚いたのはティアナも同じだ。
ティアナからすれば幼く見えていた楓が実は年上だと知り、どう話し掛ければいいのか分からなくなってしまったのだ。
「……でもまあ、姉妹ってことに変わりはないですよね!」
「え? ……ま、まあ、そうなるの、かしら?」
開き直った楓の言葉を受けて、ティアナは困惑しながらも納得する。
「しっかり者の妹がいるって考えたら、おっちょこちょいなお姉ちゃんでも安心できそうだもん!」
「……あはは! そう言ってもらえると、嬉しいかな! ねえ、カエデ。話し方も今まで通りでいいかしら? なんだか、丁寧に話すのは慣れていないのよね」
「もちろん! 姉妹なら、これくらい気になりません! ……っていうか、私の方が敬語ですし!」
「確かに!」
「「……あはははは!」」
お互いに笑い合うと、そのまま歩いていき、フェザリカの森にある拓けた場所へ辿り着いた。
「この辺りは安全なんですか?」
「そうね。フェザリカの森には魔獣も少ないし、気配も感じられないから大丈夫かな」
そう口にしたティアナは、さあ仕事だと言わんばかりに腕まくりをする。
「よーし! それじゃあ私は、可愛いお姉ちゃんのために、従魔具の材料を集めてくるとしますか!」
「それじゃあ私は、お昼の準備を――」
「食材と調理器具は置いておくわね!」
「速い!?」
ティアナの言葉を受けて楓がそう口にすると、目にも止まらぬ速さで魔法鞄から食材と調理器具を取り出した。
「どれくらいでできるのかしら!」
「そうですねぇ……一時間は掛からないかと」
「それじゃあ、一時間くらいしたら戻ってくるわ! よろしくね、カエデ!」
そう口にしたティアナは、まるで風になったかのような速さで駆けていき、あっという間にフェザリカの森の中へ消えていった。
「……よし! 制限時間は一時間! メインと付け合わせと、頑張るわよ!」
ティアナの気合いの入れようを見て、楓も負けられないと気合いを入れる。
そして、頭の中で作ろうと思っている料理の手順を思い浮かべながら、用意してくれたお肉に包丁を入れた。
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