第15話:商業ギルドへの登録完了

 バルフェムにある商業ギルドに戻ってきた楓たち。

 そこで楓は、商業ギルドへの登録手続きを行い、そのままセリシャの部屋にやってきていた。


「はあぁぁ~! これが、私のギルド証なんですね~!」


 商業ギルドにはランクという、ギルドに貢献したかどうかを示す基準が存在している。

 登録したばかりの新人はFランク、そこからE、D、C、B、Aと上がり、最高がSランクだ。

 スキルレベルと似ているが、ランクにEXは存在しない。

 神から授かるとされているスキルとは違い、ランクは人間が決めた基準だからだ。


「カエデさんは新人だから、Fランク。ギルド証の色でもその人のランクを判別できるから、覚えておいて損はないと思うわ」


 そう口にしたセリシャは、ランクごとの色分けも教えてくれる。

 Fランクは茶、そこからEが青、Dが緑、Cが赤、Bが銀、最高のSが金だ。


「ここから成り上がっていけば、私は一人で生きていけるんですね!」

「カエデさんの腕なら、十分にやっていけるはずよ」


 セリシャからも太鼓判を押された楓は、嬉しそうにギルド証を頬ずりする。


「本当はお店を持たせてもいいのだけれど、いきなり運営までとなると大変でしょう?」

「いきなりは本当に無理です! 従魔具だって、セリシャ様の助けがあって作れたんですから!」

「うふふ。最初は全力でサポートさせてもらうから、よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」


 微笑みながらそう口にしたセリシャへ、楓は勢いよく頭を下げながら応えた。


「さて。それじゃあ、まずはどうやってカエデさんの腕を広めるかだけれど……これはやっぱり、影響力のある人の従魔に従魔具を作ってあげることだと思うの」

「ほうほう。インフルエンサー的なやつですね?」

「……い、いんふる、なんですって?」

「あ、失礼しました。お気になさらず。あは、あはは~」


 思わず日本の言葉を口にしてしまい、セリシャを困惑させてしまう楓。

 苦笑いしながら気にしないでと伝えると、セリシャもそれ以上は追及せず、話を進める。


「他の都市なら無理だけれど、ここは従魔都市バルフェム。従魔を愛している人が最も多い都市だもの」


 そう口にしながら、セリシャは誰にお願いするかを考え始める。


(あ、危なかった~! 思わずインフルエンサーとか言っちゃったよ~!)


 その間、楓は心の中で盛大に焦っていた。


(顔には出てないよね? 背中はめちゃくちゃ汗かいてるけど、大丈夫だよね!?)


 そんなことを考えていると、セリシャが何か思いついたのか、一つ頷いてから視線を楓に向ける。


「……大丈夫?」

「え! もちろん、大丈夫ですよ!」

「ならいいのだけれど……」


 心配そうに言われたため、楓は元気よく答えた。

 それでもジーッと見つめられていた楓だったが、セリシャは話を進めるためだろう、話の続きを口にする。


「バルフェムを治める子爵家に紹介してもいいかしら?」

「セリシャ様の判断にお任せします! …………って、お貴族様ですかああああぁぁっ!?」


 勢いで任せると口にした楓だったが、すぐに我に返ると、紹介先が貴族だと知り驚きの声を上げた。


「バルフェムを収めているのだから、子爵家も当然だけれど従魔を連れているわ。その子たちにカエデさんの従魔具を着けてもらえば、その腕を認めてもらえたといっても過言ではないわ」

「そ、それはそうですが……」


 セリシャとしては最善の選択だったが、どうにも楓の歯切れが悪い。

 そのことが気になり、心配そうに顔を覗き込む。


「嫌かしら?」

「あ、その、嫌というわけではないんですが……き、貴族相手の、礼儀作法が、全く分からないんです~! ど、どうしたらいいでしょうか~!」


 泣き出しそうな表情で心情を吐露した楓。

 その姿を見たセリシャは最初こそきょとんとしていたが、すぐにクスクスと笑い始める。


「……うふふ」

「わ、笑い事じゃないですよ、セリシャ様!」

「そうね、ごめんなさい。……ふふふふ」

「もう! 笑っているじゃないですか!」


 頬を膨らませながら怒っている楓を見て、セリシャの笑いは収まらない。

 とはいえ、このままでは話が進まないため、一度深呼吸をしたセリシャがなんとか話を進めていく。


「……ふぅ。それと、別ルートでもカエデさんの従魔具を広めてもらおうかしら」

「別ルートですか?」

「えぇ。もしかすると、そちらの方が早いかもしれないのだけれどね」


 微笑みながらそう口にしたセリシャは、おもむろに窓際へ移動し、楓を手招きする。

 なんだろうと思いながらも、楓は立ち上がって窓際へ移動した。


「どうしたんですか?」

「あれを見てちょうだい」


 言われるがまま、楓は窓から外へ視線を向けた。

 そこには商業ギルドの職員専用の従魔房があり、ラッシュを中心に何やら盛り上がっているように見える。


「……え? もしかして、ラッシュ君が他の従魔に、従魔具を自慢してる?」

「うふふ。どうやらそのようね」


 セリシャが口にしていた別ルート、それこそがラッシュから従魔へ直接広まるルートだった。


「でも、他の人たちは従魔の言葉を理解できませんよね?」

「そうよ。だけれど、ラッシュの従魔具を見て催促していることは、従魔を愛している主であればすぐに理解できるはずよ」

「なるほど。そして、ラッシュ君の主はセリシャ様だから、セリシャ様に話を聞きに来る人が増える、というわけですね!」


 納得した楓は、ポンと手を叩き満面の笑みを浮かべた。


「あの様子なら、やっぱり子爵様へ話を通すより先に、従魔たちからの催促がきそうね」

「あはは。確かに、そうかもしれませんね」


 ラッシュは四肢に着けている従魔具をこれでもかと見せびらかし、周りの従魔たちの視線を一気に集めている。

 その姿はどこか自慢げで、誇らしげで、鼻息を荒くしているようにも見えた。


(嬉しそうで本当によかったよ、ラッシュ君!)


 内心でそう歓喜の声を上げながら、楓は従魔たちを見つめていたのだった。

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