エロゲの祝福を受けた俺。無能の烙印、婚約破棄からの追放。しかし、エロゲは、一人愛する度にレベルが上がる最強職だった。たくさん遊んで強くなって復讐します(笑)
閑話5 ジュアンドと王女の婚姻、国王の決断!
閑話5 ジュアンドと王女の婚姻、国王の決断!
◆『英雄を待つ王――そして、王女の願い』
王都ヴァティカン。パラティーナ宮殿の王の執務室に、静かな緊張が満ちていた。窓の外では朝日がゆっくりと昇り、王城の高塔を黄金に染めている。国王リヒト・セラフィムは分厚い書簡を前に、指を組みながら沈思していた。
「……間に合わなかった、か」
その呟きは、悔しさというよりは、深い嘆息の響きを帯びていた。
ジュアンド=フィレンツェ。あの若者が、討伐不可能とされた黒翼のドラゴンを倒し、ただ一人と一人の仲間だけで国境を救った事実――それは王として、いや一人の男として心を動かさずにはいられない偉業であった。
だからこそ、王命を以て使者を派遣した。即刻、王都へ迎えよ。栄誉を授けよ。称賛の場を整え、国民の前で褒章を授け、王国の英雄として広く知らしめるのだと。
だが――
「すでに、関所を通過した……?」
報告にあったのは、ジュアンドがすでに国境を越え、隣国ブレスタ公国の方へと旅立ってしまったという情報だった。使者が着くわずか半日前に通過していたらしい。まるで何かに導かれるように、彼は静かに姿を消したのだった。
「……なんと惜しい」
王は眉を寄せた。
追放処分は、すでに王の命で破棄されている。爵位も、名誉も、名家としての誇りも、王命によって回復されるはずだった。だが、彼はそれらを知らずに、国外へと歩みを進めたのだ。
「ならば、我らが待とう。……ジュアンド=フィレンツェは、いずれ戻ってくる。己の正義の剣を胸に抱き、またこの地に帰ってくる」
王はその確信を持っていた。そうでなければ、ドラゴンの脅威に自ら剣を取り、民を救ったはずがない。彼の本質は――名誉や財ではなく、“信念”で動く者だ。
「英雄にして、追放者。その名は、やがて伝説となろう……だが、我が国がそれを放っておく手はない」
リヒト王は執務机から一枚の公文を取り出し、筆を走らせた。
『ジュアンド=フィレンツェに対し、王国より正式な称号を与える。
第一級勲章『星辰の剣』、及び騎士叙任。
さらに、彼が望むならば、フィレンツェ家の領地に代わる新たな封地を与える。
戻る日には、王城にて祝賀の宴を開き、国民の前で迎えよう。』
書簡を封じ、封蝋を押し、宰相グレゴールに渡す。
「これは、公式に王国の記録に残せ。ジュアンドが国に戻りたいと望んだ時、誰より先にそれを示せるように」
グレゴールは深く頷いた。反対の言葉を呑み込み、ただ忠実に王命を受け止めた。だが、王の次の言葉には――ほんのわずかに驚きを見せた。
「それと、シャルロッテのことだ」
「……王女殿下が、ジュアンド殿との謁見を望まれていることは承知しております」
「謁見に留まらぬ。私は、考えている。ジュアンドを、シャルロッテの婚約者に迎えることも――一つの道であると」
グレゴールの目がわずかに見開かれた。
「陛下、さすがにそれは――」
「軽率なことではないと承知している。だが、聞け。王女シャルロッテは傷ついていた。長く孤独の中にいた。だが、ジュアンドの報を聞いた途端、彼女は――目を覚ましたのだ。まるで氷が解けたかのように、光を取り戻した」
「……」
「娘としてだけではない。王家の一員として、私は国を想う者を傍に置きたい。そしてジュアンドは、我ら王家すらなし得なかったことを、たった二人で成し遂げた。あの男こそ――真の騎士にふさわしい」
王は、王座に座り直し、深く息をついた。
「民は知っている。我ら王家の力だけでは、すべてを守れぬことを。ゆえに、真に必要なのは、血筋ではない。魂だ。どれだけ民に寄り添い、剣を取り、命を賭けられるか――」
「……それは、確かに」
グレゴールはようやく納得の色を見せた。
「王女の心が動いたのならば、それもまた神意の一つかもしれませぬな」
「神意、か。ふむ……シャルロッテには、そなたからも話してやってくれ。彼の帰還はすぐではない。だが、彼は必ず戻る。その時、彼女の言葉が、彼の心に届けば……すべてが繋がる」
そして王は、静かに立ち上がり、バルコニーの先を見やった。朝の陽が王都を包み、街は目覚め始めていた。
「ジュアンドよ。どこにあろうと、そなたの行く道を王は見守る。そして、そなたがこの地に帰る日、私は王として、父として、すべての準備を整えておこう」
「なぜなら――そなたは、我が王国が生んだ“ドラゴンスレイヤー”なのだからな」
静かに吹く風の中で、王の金の衣が揺れた。
その眼差しは遠く、遥か彼方の空の向こうを見つめていた。
(帰ってこい、ジュアンド。王も、民も、そして……あの少女も、そなたを待っている)
そして王国は、静かにその英雄の帰還を待ち続ける。
その日まで、希望とともに。
◆『夢見る乙女と、まだ見ぬ英雄』
午後の光が窓辺に差し込む。王女シャルロッテは、王宮の書斎で膝を抱えたまま、机の上に並べられた書類を見つめていた。
――ジュアンド=フィレンツェ。
その名が書かれた文書の数は、すでに十を超える。戦果の報告書、宰相による記録要約、彼と共に戦ったという銀髪のエルフ・リュシアの証言、さらには現地の村の子どもが描いたという絵まで。
そこに描かれたジュアンドの姿は――すでに、少年のものではなかった。
「……本当に、こんなに素敵な方なの?」
声に出して呟いた自分が、なんだかおかしくて、小さく笑ってしまう。
報告によれば、ジュアンドは“レベルが上がった”ことで容姿も変化したという。冒険者としての力が高まると、魔力の循環によって身体能力も洗練されていくのは、よく知られた現象だ。
つまり、ジュアンド=フィレンツェは――
「“とてもイケメン”になった、ってことね」
セリーヌが控えめに笑いながら、ティーカップを差し出してくる。
「王女様、鏡をご覧になってくださいませ。今、すっかり乙女の顔をなさってますわ」
「ちょ、ちょっとセリーヌ!」
顔を赤らめて振り返る。自分の頬が火照っているのが分かる。
「……でも、仕方ないじゃない。だって――」
視線を落とし、手元の小さな肖像画に目を向ける。それは、現地の画工が即興で描いたというジュアンドの横顔だった。
金色のきらりとした髪に青い瞳、鋭くも優しい眼差し。そして――何よりもその表情に宿る、覚悟と慈愛の光。
「こんな顔で……竜と戦ったのよね」
心が、ぎゅっと締め付けられる。会ったこともないのに、こんなにも胸が騒ぐのはなぜだろう。
きっとそれは、彼が“誰かに必要とされていたかった”からだ。
そして今、シャルロッテもまた――誰かに、必要とされたかった。
「……だからね、セリーヌ」
椅子に背を預け、そっと瞼を閉じる。
「父上が仰ったの。“ジュアンド様が王国に戻ったら、婚姻の申し出をしてみてはどうか”って。もちろん、彼の気持ち次第だけれど……でも、それを聞いた時、なぜだか胸が、ポンと弾んだの」
「まあ……それは、お気持ちが……」
「ううん。恋、かもしれないの。まだ見ぬ人に、心を奪われるなんて、夢の中だけの話だと思ってた。でも……今は違う」
彼がこの国を救った英雄だから? 追放された過去に同情したから? いいえ、そうじゃない。
シャルロッテが惹かれたのは、その“目”だった。
すべての報告書に書かれていた――“ドラゴンを見据え、恐れず、誰かのために剣を取る”その眼差し。
それが、どれほど尊く、輝いて見えたか。
「私は、あの目に……恋をしたのかもしれない」
夢を語る少女の顔が、ふと曇る。
「でも……もう、彼はこの国にいないのよね」
王都からの使者は、関所に着いたときにはすでに遅く、ジュアンドは国境を越えてしまっていた。彼の行き先は、いまだはっきりしない。フリーの冒険者となり、名も告げず旅に出たのだという。
(……きっと、誰かに縛られるのが、怖かったのかもしれない)
王女として育てられ、婚約という鎖につながれていた日々。そんな自分と、どこか似ている気がした。
「だからこそ、会ってみたいの。きっと、分かり合える……そんな気がするのよ」
やがて、夜が訪れた。
バルコニーに出たシャルロッテは、そっと星空を見上げる。ひときわ明るく輝く星を見つけて、そっと両手を組む。
「ねえ、ジュアンド様。どうか、王都に戻ってきてくださる? あなたが帰ってくる場所は、ここにあるの。……私が、待っているから」
届かぬ祈り。それでも――想いは、空に昇っていく。
ふと、風が吹いた。まるで遠くで誰かが、微笑んでいるように感じられた。
(いつか、必ず会える)
そう信じることが、今のシャルロッテの支えだった。
そして、その時が来たならば――
「きっと私は、あなたにこう言うの。“おかえりなさい、ジュアンド様”って」
彼の返事が、たとえ「婚姻は望まぬ」というものであっても構わない。それでもいい。ただ、会いたいのだ。心を救ってくれたその人に。
それが、恋というものなのだとしたら。
――ならば、私は喜んでこの気持ちを抱きしめましょう。
星がまたたく夜の王都。その片隅で、一人の少女が夢を見ていた。
夢の先には、まだ見ぬ英雄が――きっと、微笑んでいる気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます