第3話 『003』

『003』


「カールは剣聖でも賢者でもない、ハズレ適正だったのだ」


「マジかよー、本当に俺の家族なのかカールは!」


「出来損ないの弟を持つと私も情けないです」


「そんな言い方あるかよ、兄さん、姉さん! 俺は弟だぞ」


「要らねえ。闇魔法とか使えねえし。家族に必要ねえと思うよ、父様」


「酷いぞ! それでも兄かよ」


「私と同意見です。我が家にふさわしくない弟ですこと。存在が恥です。町を歩けません」


「俺は頑張って強くなる。剣聖と同じくらいまで。それまで待ってくれよ。そしたら兄さん達と一緒に旅にもダンジョンにも行けるだろう」


 兄さんと姉さんは俺に対して酷いことを言ってきた。


 弟だぞ、俺は!


 兄弟に言うか!


 必要ねえとか意味わからなねえし。


 それでも俺は兄さんに頑張ると言った。


 必ず成長して剣聖と同じくらいに強くなると。


「あはははははは、笑わせるなカール。お前が剣聖の適正の俺と同等だと言うのか? 調子にのるな。剣聖と闇魔法などでは比較にならないんだよバカ」


「バカとは酷いな。いくら兄さんでも許せないぜ」


 メートル兄さんは優しかったのに、今はただのクズ野郎だ。


 弟がこれだけお願いしているのに、それを頭から否定しやがった。


 だから俺は兄さんに許せないと言ってしまう。


「許せないだと? 弟のカールが兄の俺を許せないと。だったら証明させてやろう。俺と対戦しろ。1回でも俺に打撃が与えられたな認めてやろう」


「面白い。俺だって同じ血を引いているのだ。1回くらいなら与えられるさ」


「父として対戦を認めよう。メートルとカールは森で対戦しなさい」


 父も対戦を認めて、森で対戦となった。


 今までも父と兄さんとも剣術の訓練はしてきていたから、チャンスはあるはずだ。


 確かに兄さんは強いのは強い。


 1回なら与えられると思う。


 いくら剣聖適正とはいえだ。


 だがなぜ森?


 しかもこの森は、最大限に危険な森じゃないのか?


 なぜこの森に来たのか?


 対戦なら自宅の庭で十分だろうに。


 わざわざこんな危険な森に連れてくる必要があるかよ。


 父は聞いても何も答えないし、アイ姉さんは見学となった。


 もちろん可愛い弟が勝つのを待っているはずだ。


「開始しろ」


「カール、攻撃してこい。どうぞ」


「俺だって剣聖くらい強くなれるんだあ!」


 それから俺は兄さんに攻撃を開始した。


 俺は10才。


 メートル兄さんは15才。


 5才違うが、一撃くらいならチャンスはあるだろう。


 しかし違った。


 どんだけ俺が攻撃しても、カスリもしない!


 嘘だろ!


 ここまで差があったのかよ!


 俺は一撃も与えられないまま、兄さんの打撃を受けてしまうと、恐ろしいほどの激痛だった。


 これが剣聖適正の打撃なのか。


 信じられない強さ。


 化け物じゃねえかよ!


 本当に15才なのかよ!


 クソーーーーー!


 何が闇魔法だよ!


 何の役にも立たねえぞ!


 ふざけやがって!


 なぜ同じ兄弟なのに、こんな差をつけたんだ!


 同じ血を引いているのにだ!


「対戦の結果はカールの負けだ」


「あははははははは、弱いなカール! てめえに俺の弟の資格はねえ」


「酷いだろ、それが弟に言う言葉かよ!」


「父様、どうしますか?」


 どうしますか?


 何を言ってんだ姉さん?


 父は俺を上から見下すようにして見ていた。


 まるで虫でも見るような目で。


「カール、お前は今日限りで我が家を追放する。家族ではない。この森でせいぜい生き延びろ」


「待ってください父様! ここは最悪の森でしたよね? 俺一人で生きられるはずないです!」


「そしたら死ねばいい」


「あはははは、出来損ないの弟は要らねえよ!」


「森の魔物に食われてくれたほうが私も助かるわ!」


「父様!!!!」


 父と兄さん姉さんは馬車で行ってしまう。


 俺を森に残して。


 ふざけんな!


 はじめから森に俺を残して帰るつもりだったのか!


 だらか森に来たのかよ!


 クソ!


 俺だって家族だろ!


 家族の俺にこんな仕打ちがあるかよ!


 この森は最悪の森と呼ばれていて、魔物は中級の冒険者でも苦戦する森。


 俺が生き残れる確率はゼロだろう。


 それでこの森を選んだってか。


 つまりは俺を見殺しにするために!


 俺は森の中にたった一人残された。


 10才であった。 

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