花天月地【第22話 信じ抜くこと】
七海ポルカ
第1話
雨が降っていた。
彼は晴れ間が好きだったが、雨の日も嫌いというわけではない。
……一日中雨のような日は時折、
甘寧は普段部屋でじっとなどしてない男だったが、雨の日は外に出られないため、部屋で退屈そうにゴロゴロしていることがあったからだ。
この同じ窓辺に腰を下ろして、
雨の日は色んな話をした。
軍のこと、
戦場のこと、
他国こと、
甘寧は過去のことはあまり話さない性分だったが、
話の流れで時々話した。
陸遜もあまり過去のことは話さない。
ただ彼曰く話さないのは、甘寧は色々なことがありすぎて話さないのだろうが、
自分は昔から、今とあまりに生活が変わり映えしないからであるらしい。
陸遜の過去は陸家との付き合いの苦心に終始する。
彼はようやく二十歳になったばかりだ。
これからあの青年の人生に、どんなことがあるのだろうと思う。
どんな戦いがあり、
どんな苦しみがあり、
どんな喜びがあるのか。
甘寧は、特に話してくれなどと頼まれたことはほとんどないが、
甘寧が過去の自分自身のことを話す時、実は一番あの琥珀の瞳が明るく輝くことに気付いていた。
お互いの過去を何も知らないから。
例えろくな話じゃなくとも、陸遜の瞳はいつも嬉しそうに輝いた。
そうだったのかという雄弁な感情を語って。
甘寧は寝転がっていた身を起こした。
普段そんな隙のある姿は見せない性分なのに甘寧の部屋で、この窓辺で甘寧が座っていると、側に来て膝に凭れかかったり寝そべったりすることがあった。
勿論最初からそうだったわけじゃない。
いつしか、そういう風にするようになった。
陸遜の部屋は副官や文官が訪ねてくることがある。
だから気を抜いた姿は出来ないのだ。
甘寧はいつも部屋にいないのでここに訪ねてくる者は滅多にいない。
ただ雨の音を一緒に聞いて、
そこに共にいるだけでも。
とても意味があることだと、あいつに対してだけは思えた。
見事な
水龍の装飾は非常に細かく凝っていて美しいもので、
彼は気に入っていた。
その装飾にそっと指で触れた時、隣の部屋から扉を叩く音がした。
ふと、そのいるのかどうか、気遣うような鳴らし方が陸遜に驚くほど似ていて、振り返る。
ここを訪ねてくる人間は稀に甘寧が部屋にいる場合、大概眠っていることを知っているのでもっと叩き起こすように容赦なく叩く。
また容赦なく甘寧の部屋の扉を叩けないような人間は決してここにはやってこないのだ。
陸遜ではないのは、分かっていた。
あいつはなんでも丁寧にやるやつだが、もう三ヶ月以上も行方不明になっていて、戻って来れたら、いくらなんでも扉も叩かず飛び込んで俺のところに戻ってくるはずだと甘寧は信じていた。
こういう確信がどんどん少なくなって行く。
無事であるかも分からないのに、先日感じた【
【
それほど共にいすぎたから、そうではないのだと思いたいのかもしれないと厳しく自分を問い詰めてみたけれど、どちらかというとそんな生易しい感情ではなく、戦場の勘の方にそれは似ている感覚だったので、信じた。
甘寧はそういうものには絶対の自信を持っていたからだ。
だから陸遜ではないのは分かっていたが、不思議なほど似てるその扉の叩き方に、興味を引かれて開けにいく。
いつもここを訪ねてくるような顔馴染みではないのは分かった。
扉を開いた時、納得していた。
(こいつか)
現れた彼は丁寧に、甘寧に対して深く一礼をした。
「……お久しぶりです。甘寧将軍」
陸遜とは兄弟のように見える、
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