第9話 動き出す世界
僕が目を覚ますと真っ白な天井が目に入りました。ここは何処だろう?と上体をゆっくり起こすと、どうやらビジネスホテルの一室らしく、テレビや鏡台、電子ケトル等が目に入りました。
ふかふかのベッドで上で何故こんな所に居るのだろう?と考えてみましたが、どうにもそこが曖昧です。宮本 迂闊って人と上に上がったことまでは覚えているんですが、そこから光に包まれて……あーダメだ、やっぱり何も思い出せない。
もしかすると今までの出来事は何もかも夢だったのだろうか?そう考えてもみましたが、それにしては宮本 迂闊さんはキャラが濃すぎました、僕の本の中での十年が霞んでしまう程に。
”ギィ”
不意に部屋の入口の扉が開き、黒い燕尾服を着た、黒いハットを被った、老齢の紳士みたいな人が中に入って来ました。
「お目覚めになりましたか?」
紳士はニコリと笑いました。老齢と見れで分かるほどに顔にシワが刻まれていますが、決してヨボヨボというわけでは無く、蓄えられた髭も整えられていて、身長もゆうに180センチはあるんじゃないかという高身長で、背中も曲がっていません。こういう歳の取り方をしたいという代表例の様に見えます。
「あ、あなたは誰ですか?」
僕がそう聞くと紳士はこんな風に答えてきました。
「私は【仲介屋】です。それ以上でもそれ以下でもありません。ですから気軽に仲介屋とお呼びください」
「ちゅ、仲介屋さんですか」
「はい」
仲介人って名前じゃないよな?もしかして、とある事情で名前を隠しているのかもしれません。そうなると深く詮索するわけにはいきません。
「あのー、僕ってどうしてここで寝てるんでしょう?」
「アナタは迂闊さんに引き上げられた時には、すでに意識が無く眠っておられたので、引き上げられたこのホテルの一室で、一日と三時間程は眠っておられましたよ」
「そうなんですね、仲介屋さんはずっと僕を見ててくれたんですか?」
「そうですが、それも仕事の一環ですのでお気になさらず」
「いや、それでも助かりました。ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をした後、これからのことを考えて酷く憂鬱になりました。これから僕はどう生きていくんだろう?一応確認の為に仲介屋さんに質問してみることにしました。
「あの仲介屋さん、僕って何年ぐらい本の中に居たんでしょう?」
「十年と三ヶ月と二日と聞いております。付け加えさせて頂くと本の世界では歳を取らないので、颯太さんの肉体年齢は16歳のままです」
「本当に十年もあの世界に居たんだ。記憶が曖昧で時間がいくら経ったかも分かりませんでした」
まるで浦島太郎にでもなった気分です。数百年も経ってないだけマシと言ったところでしょうか。ということは僕の実年齢は26歳ってことですね。お酒が飲めるなんて、実感がまるでありません。
「颯太さん、とりあえずコーヒーでも飲んで、今後のことについてゆっくりとお話をしましょう」
電子ケトルで湯を沸かし始める仲介屋さん。物腰柔らかで年下の僕にも敬語の彼は格好良く見えます。
湯が沸きあがるまで状況整理とか今後のことを自分なりに考えようとしましたが、とても一人では上手くいきそうも無かったので、結局は何も考えずにボーっとしていることにしました
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