第4話「あの日のバトン」
戻り出してから俺は色んなことを思い出した。
優依は、いつも底抜けの明るさで俺を元気づけてくれた。
常に、二人で一緒にいた。
部活は陸上部に入っていて、足はものすごく早くて
部活終わり待ち合わせして一緒に帰った。
しかも、ほぼ毎日。本当に楽しかった。
ずっと一緒にいた。いや、ずっと一緒にいたかった。
叶うことない夢だけど……
それでもずっと一緒にいたかった。
「大智、来てたのか…」
あ、通夜中だったと思い出すように八十島が話しかけてきた。
「先生こそ来てたんだ…」
「優依だし、人が多い方が喜ぶだろ」
「だよね」
八十島は、いつも俺らの味方でいてくれた。
それをなんか思い出した。
ずっと味方だった。この事を知ったら八十島は俺を助けてくれんのかな。
「優依のこと、やっぱ今でも好きだったんだろ?」
「そうだね、大好きだったね」
いや、大好きだね。過去形にしたのは自分の事を嘘つきたかったからかもしれない
「だったじゃないだろ?」
八十島には嘘つけないんだな。
「大好きだね」
「だろうな」
八十島なら…八十島なら…
「ねぇ先生、先生ならさ、どっちがよかった?」
「なにが?」
「優依の相手、あの男か俺か結婚す…」
「お前」
質問を最後まで聞く前に、八十島は、食い気味に答えた。
「お前が旦那になると思ってた。てか、じゃないと許さない。
優依ここで聞いてるかもしれないから、あんま言いたくないけどさ
よかったよ、あの男と結婚しなくて。
でもな、大智…俺、優依の花嫁姿見たかったんだよな………」
滅多に泣かない八十島が俺の前で恥ずかしいぐらいに涙を流した。
その瞬間、辺りが白く包まれ周りの時が止まった。
「大智、ちゃんと見た?会場」とダウがいつもとは違う雰囲気で問いかけてきた
「今、やっとね」
会場には、八十島、たっくん
ずっと俺らと一緒にいた人達が大勢来ていた。
特に大泣きしていたのは、珠理奈。
珠理奈とは優依の陸上部の後輩。
優依を慕っていて、ずっと近くにいたし。
あの頃、優依の好きな人を唯一知っていたのが珠理奈。
俺ら、4人でも聞いたことないのに
珠理奈だけが唯一知っていた。
あいつの好きな男が誰か珠理奈に聞いておくべきだった。
それぐらい、優依も珠理奈を信頼していた。
今でも、しょっちゅう会ってたみたいだしそりゃ泣くよな。
「優依ちゃん、いっぱいの人に慕われてたんだね」
「そりゃ、そうだろ。俺の唯一本気で恋した相手だぞ」
「だから、助けたいんでしょ。ほら行きな」
ダウは、指をパチンと鳴らした。
どこだ、ここ。
目の前には、体操服を着た優依がいる。
体操服…?
「はぁ!?体育祭!?」
「何、急に大きな声出してんの」
思わず声に出て、優依に怒られた。
「なぁ、優依?体育祭本番っていつだっけ」
「え、明日だよ?大丈夫?どしたの?」
明日…?流石に今回は間に合わないだろ…
だけど今回の運命を変える失敗はすぐにわかった
クラスリレーだ。
優依は、アンカーに選ばれる。
でも、最後の最後で転んで、うちのクラスは最下位になる。
それを、優依は、ずっと自分のせいって引きずるんだ。
「じゃ、優依の前に敦士っと…」
「ちょっと待って!先生!やっぱ俺走る!」
八十島は、元々俺に頼んでた。
優依の前に走るのを、でも俺は断ったんだ。
恥ずかしくて、なんか、俺のせいで負けたら…と思うと、俺は嫌で断ったんだ。
でも、もう逃げない
「どうしたんだよ、急に!さっきまで、誰が走るかよとか言っといて」
「ごめん、先生頼む!」
すると、優依は俺を睨んで
「本当だよ!急にどうしたの!?さっきは、お前なんかにバトン繋ぐか!とか言っといて」
この時の俺、最低すぎるだろ(笑)
「だめなんだよ!お前なんかにアンカー任せたら負けるだろ!だから俺が貯金しといてやるんだよ!」
「はぁ何それ!?大智なんかに頼んなくてもね大丈夫だもん!」
だめなんだよ…お前は転ぶ…
明日のリレー負ける。
みんなで撮った写真も泣いてんだよお前だけ
「ごめん、大智…」
「なんも悪くないお前は…」
「ごめんね、大智……」
一度目の展開がフラッシュバックしていた。
思い出しただけで俺まで泣いてしまいそうなぐらい
優依はその日、日が暮れるまで泣いた。
そして、体育祭当日。
俺は、八十島に話をしに行った。
「あのさ、先生、なんか最近、俺、迷惑ばっかかけてるよな」
「ううん、別にそんなことないけど、ただ、お前なんか最近変だぞ。
急に何から何までやり直そうとしてるように」
「それを話に来たんだ」
「どういうことだよ?」
「信じてくれなくていい、でもね、俺未来から来てんだよ。優依は交通事故で死ぬ。先生も通夜に来る。先生俺らに付き合って欲しいと思ってるでしょ?」
「お前なんでそれを…」
「教えてくれたんだよ!先生がその通夜でお前らに付き合って欲しかったって!」
「俺さ、お前と優依もそう。と言うかお前ら全員を本当の子供のように
大事に思ってんの気づいてんだろ?」
「うん」
「子供の言うこと、信じない親がいると思うか?」
「だったら、この事絶対覚えてて」
「わかった」
俺は八十島が担任で本当に良かったと心から思った—
「リレー頑張るね!」
「あ、あとさ、お前絶対優依幸せにしろよ」
「当たり前じゃん」
そして、リレー直前、俺は優依を呼び出した。
「どしたの?てか、超緊張するんだけど大智!」
「いい?負けてもいい。負けても最下位になってもお前は頑張った。
だから…だから絶対大丈夫だから!」
「負けないよ、私だよ?私の速さ舐めんな!最下位なんかにならない」
「え?」
「だって、私には大智がいるもん!」
ふと、油断したら泣きそうになる。
もうこいつに会えないのかと思うと泣きそうになる。
「だよな?」
「当然じゃん」
「俺らならやれる、絶対」
「そうだよ、あんたとならね」
俺ら二人はお互い励ましあった。
「ねぇ、大智お願いがある。」
「なに?」
「そのハチマキ私のと交換して」
「いいけど、どうして?」
「大智と一緒に走ってるって気持ちになれたら最強になれそうだから」
「そうね、俺もお前とならやれる気がする」
俺らは二人のハチマキを交換した。
そして、ついにスタートした。
うわ、うちのチーム3位かよ。
そして、俺のところにバトンがやってきた。
「がんばって、大智!」
「当たり前だろバカ」
優依に言われたらがんばれる。
死ぬ気で走った。
そして、1位に躍り出た。
あの日渡せなかったバトンを、今、渡すんだ。
「優依!いけ!」
「当たり前でしょバカ」
優依は走った。でも、結果はわかってる。
優依は最後のカーブで転ぶ。
そんなの、変えれる。きっと過去も変えれるんだ!
でもどうしても何かしてやりたくなった。
ふと、目を横にやると応援団が大きな旗を振りながら掛け声をしていた
そうだ、これだ—
「おい!その旗貸せ!」
「だめだよ!これ応援団長しか振っちゃダメなんだよ!」
やっぱダメか、この応援団長の鈴木つまんないほどくそ真面目だもんな
諦めるしかないか……
旗振ったらもしかしたら変わっ…
「鈴木!その旗!大智に貸せ!貸さなきゃお前赤点にするぞ!!!!!」
え…?怒号のように聞こえてきたほうを向くとそこには怒り狂った、
いや、何かをしてあげなきゃという表情に見える八十島だった。
「ごめんな!大智!今の俺にはこれぐらいしか出来なくて!未来でもっと頼れ!」
「過去で頼りたいんだよ!(笑)」
「おう!そうか!(笑)」
「でも…ありがとう!」
俺は思い切り振った力の限り、旗を振った
「いけ!優依!」
アンカーは二周走る。
次のカーブで優依は転ぶ。
大丈夫…大丈夫…
「走れ!優依!いけ!」
来る…あのカーブに…転ぶんだ…
ほら、あのカーブで…
俺は現実から目を背けたくなり目を伏せた。
「よっしゃ!優依が1位だ!やったぞ!大智!」という八十島の声が聞こえた。
「え!?」
ゴールの方をしっかり見ると
全力を出し尽くしフラフラながらも笑顔の優依がいた。
こっちに気づき、優依は拳を握りしめ俺の方に突き出した
俺も笑顔で、同じように突き出した。
「大智!やったよ!」
「お前すげぇよ!よくやった!」
優依の涙は嬉し涙に変わっていた。
やった、過去を変えれたんだ。
「ハチマキのおかげだよ」
優依は泣きながら笑顔で言った。
「ばーか、お前が頑張ったんだよ」
俺も泣きながら笑顔でそう返した。
「おい!写真撮るぞ!」と八十島がカメラを持ってきた。
優依は俺の横で、笑顔で賞状を掲げながらポーズをとった。
八十島のカメラのシャッター音とともに雷が鳴った。
「おかえり、優依ちゃんの事見ておいで」
ダウは俺にそう言った。
急いで俺は優依を見に行った。
棺には、八十島が撮った写真とあのハチマキが、入れられてあった。
それを見た瞬間、時が動き出した。
「ダウ、お前多分成功したんだろ?」
八十島が笑顔でそう言った。
「この回はね」
「偉いだろ?俺ちゃんと覚えてたよ」
「多分、まだ頼らせてもらうから(笑)」
「おう、任せとけ」
「頑張るね」
「俺をさ、お前らの結婚式に呼んでくれ。
俺、お前らに結婚して欲しいんだ。あの男じゃなくてね」
「そんなのわかってるよ」
そんな話をしたら、八十島は会場を後にした。
バサッ…
急に誰かが俺にもたれる音がした。
「優依先輩に会いたい……」
それは生きる気力を失った珠理奈だった。
出来るかわかんないけどさ俺はこう言ったんだ。
「珠理奈…俺が優依を絶対助けるから…」
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