第20話

「幸。今日うちに来いよ。美奈も今日学校が終わるのが早いから家にいるし」

「行く」

「おっけー。じゃあ、家に連絡入れておくわ」


 学校での帰り道。


 今日は乃蒼さんと帰る日ではなかったので、充希と一緒に帰っている。


 放課後になって、乃蒼さんが此方を見て捨て犬のような顔をしてくるものだから思わず一緒に帰りますかと言いかけていたが今日は元から充希と一緒に帰ると約束していたので、逃げるように教室から出て行った。


 どうやら僕は、乃蒼さんの泣き顔に弱いようだ。


 充希と一緒に並び、最近合った出来事、主に乃蒼さん関係の事を聞かれ、そのことについて話しながら充希の家へと向かう。


 充希も電車通学ではあるがそこまで遠くはないので意外とすぐに着く。途中でお菓子を買っても三十分もかからなかったからかなり近い。


 玄関を開けてお邪魔すると、


「兄さん、幸さん。お帰りなさいです」

「ただいま、美奈」


 そこには天使がいた。


 背は140センチほどで小さく、顔も小さく目はぱっちりとしていて可愛らしい。肌はもちもちすべすべで陶器のような肌である。黒髪ストレートで長く艶やかな髪は背中ほどまで伸びている。


 年は今年で中学生になったから12歳だ。


 優しく、可愛らしい子でこの子に危害を加える人間は恐らく人の心を持って生まれていないと断言できるほどだ。


「久しぶり、美奈ちゃん」


 僕が頭を撫でると、犬が喜ぶように嬉しそうに頭を手に擦り付けて来て心が穏やかな気持ちになる。


「幸さん、私寂しかったです。ずっと会えなかったです」

「ごめんね、美奈ちゃん。最近、忙しくて」

「でも来てくれたから、嬉しいです」


 美奈ちゃんはニコニコと笑って、ギュッと抱き着いてくるので変わらず頭を撫でる。


 そうしていると、


「おい、玄関でイチャイチャしてないで中に入れ」

「ごめんね、美奈ちゃん。離れてくれる?」

「イヤです。このまま運んでくれるです?」

「うん、いいよ」


 美奈ちゃんの頼みなら仕方ないね。


 僕は靴を脱いで彼女を抱っこしたまま、充希が待つ部屋へと足を運ぶ。


 部屋に着き、一旦座るために美奈ちゃんを下ろす。


 すると、美奈ちゃんは当たり前のように僕の膝の上に座って満足げな顔をして、僕の手をもって美奈ちゃんの頭の上に置いた。


 そのまま撫でてあげると、猫が喉をゴロゴロと鳴らすように美奈ちゃんは甘えてくる。


「幸、美奈。ゲームするぞ」

「いつものやつね」

「幸さんでも、これは負けられないです」


 充希が起動したゲームはみんな大好き、対戦型アクションゲームである大戦闘クラッシュブラザーズだ。


 充希の家に来ると大体このゲームをしている。


 美奈ちゃんはかなりこのゲームが上手くて、最終的な一位を毎回取られてしまい悔しいとは思うが、勝った時の美奈ちゃんの顔が微笑ましくて思わず僕もニコニコと笑ってしまう。


 何戦か遊んで、少し疲れてしまったので途中で買ったお菓子の袋を開け小休憩を挟むことにした。


「あー」

「はい」


 いつものように口を開けて美奈ちゃんが待っているので、そこに一口サイズのチョコを持っていくとパクリと指ごと食べられてしまう。


 ちゅぱちゅぱと指をしゃぶり終えると、もう一回口を開けているので次はポッキーを持っていくと徐々にパクパクと食べていき最後にはまた指をしゃぶられてしまう。


「美奈ちゃん、僕の指はばっちいかもしれないから食べないほうがいいよ」

「ばっちくないです。美味しいです」


 そんなやり取りをしていると、充希が呆れた様子でこっちを見てくる。


「美奈は俺がすると、別にそんなことしないのに」

「にーさんの指は美味しくないです」


 そう言ってまた僕が持っていたチョコ菓子をもぐもぐと食べる。


 充希は悲しそうな顔をして、自分の指を見つめていた。


 なんか、ごめんな充希。


 



 


 

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