第14話

 トイレから出るのが怖かったため、十数分の間なんとかトイレに立てこもっていたが、霜月さんが「おなか痛いんですか?」と冷たい声を掛けてきたため、仕方なく出ることになった。

 

 リビングに戻ると充希が若干畏まっており、対面の霜月さんは未だに冷たい表情をして怒っていることが分かる。


 まぁ、それはそうだよな。


 クラスの最近知り合いになった男子生徒が、自分の親とあんなことになっていたら怒りたい気持ちも分かるが、不可抗力でああなったと言っていいほど僕は別に悪いことはしていない為、勘弁してほしいところではある。


 ....いや、待てよ。


 このことを切っ掛けに霜月さんが僕の事を嫌いになればこれから少しの間、霜月さんの護衛をすることになっているがそれもなくなるかもしれない。


 そんなことを考えながら、僕も充希の隣に座る。


「ささ....幸君」

「は、はい」

「あの程度の事で私が幸君の事を嫌いになることはありませんが、お母さんとあまり無意味な接触は控えるようにしてください」

「わ、分かりました」


 当然の事なので頷くが、さりげなく名前で呼ばれた気がするが気のせいだろうか?


「それと、私の事は乃蒼と呼んでください」

「いえ、それは....」

「呼んでください」


 雪花さんの事は不可抗力で名前を呼ぶことになってしまったが、霜月さんの事は霜月さんのままでいい気がする。


 不便があるわけでもない。


 だけれど、目の前の霜月さんの圧がすごい。


「私とお母さんの苗字は同じ霜月ですし、お母さんと私を呼ぶとき不便じゃないですか」

「それは....」


 一瞬、確かにそうだとも考えたが霜月さんのお母さんを雪花さんと呼んでいるのだから別に呼び間違えるなんてことは無いと思う。


「もしこのまま、呼んでくれないのなら先ほどの事を学校で....」

「分かりました、呼ばせていただきます!!」


 反射的に躾された犬のように元気な返事をして、了承する。


 そのことを出されてしまっては僕は頷くしかない。

 

 これからの学校生活が完全に積んでしまうから。


「じゃあ、い、一度呼んでみてくれませんか?」

「....」


 了承したものの、女性を下の名前で呼ぶことは男子としてかなり恥ずかしい。


 隣に充希もいるし。


 だが、先ほどの事を持ち出されるかもしれない為やらないわけにはいかない。


「の、乃蒼さん」

「は、はい」


 僕が乃蒼さんの事をそう呼ぶと、彼女は僕以上に目線を逸らしながら恥ずかしそうにしていた。


 何となく気まずい空気が流れた時、


「............俺はいったい何を見せられてるんだろう」


 ほんとうにごめん、充希。



 

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