第17話 情報更新(2)

「ともかくアルカース探しも、石積みの部族の調査も、彼らの残した予言の調査も全部意味があることは保証するよ。露骨に誘導されてるからね、乗ってあげるのが近道さ」

「あら。じゃあ戦争介入はいらない?」

「それはそれ。できるならやっておきたい。というかわたしはやっておくつもりだよ」

「あなた一人を行かせるつもりはないわよ。船も欲しいし」


 さて、最後にわたしから報告だ。わたしにはバハルハムスに残した人達から報告が届いている。


「シュオラーフとバハルハムスの緊張は予想通り高まっていて、バハルハムス側もこれはいつもとは違うと見て騒がしくなっているみたいね。住民の間でも噂が広がって不安がる人が増えていて、滞在していたキャラバンは相当数が離れたみたい」


 不思議と船の取り合いは起きていないようだが、これはセルイーラに船舶での通商が発達していないせいだ。港町が他にないので船に乗っても外国に逃げるしかないので、基本的に選択肢に入っていないのである。

 船を使うのは皆外国から来た者ばかりだから、いざとなれば海に逃げられると思って外国系の承認はしめしめと商売の機会を伺っているらしい。すでに一部の食料などは値上がりが始まっていると報告があった。


「君にとっても儲け時だね」

「そうでもないわ。元々、取引品目の交渉とかもしていたばかりだし、売るにも物がないもの。でもチャンスはチャンスだから、値上がりしそうな品を買い占めてるみたい」

「大変なことになりそうですね……」

「そうね。それを安値で放出できるようにしてるみたい。すでに関係ない品を安売りして、評判を集めてるみたいよ。このあたりは領主とも交渉して治安維持への貢献という形を取れるようにしているのね。この動きの早さとお金使いの粗さはルカの指揮か……今なら名声が大安売り、ですって」

「え、えぇ? なんだか思っていたのと違いました」


 戦争の対処がこじれてケトルカマルへの投資がこけたらどうするつもりだろう? わたしが首を傾げていると、呆れた様子のアカリが指摘した。


「どうせ君が関わるんだし、どうにかなると踏んだんでしょ」

「ああ、そっか。そっちまでなんとかする算段があるなら褒めようと思ってたのに……。名声が集まる前に解決しちゃうかもしれないのに、ちょっと動きが派手すぎない? でも領主と裏で組んでいるから、そっちに恩を売って後で改修するつもりなのかな。どうとでもなりそうだし、任せてみましょう」


 まあそれでも、ここまで派手に身銭を切る判断をできる人はあまりいない。やっぱり褒めたほうがいいかもしれない。


「エスフェルドからは前線状況のまとめが届いてるわ。どうやって手に入れたのかしら……」


 シュオラーフのバハルハムスへの進軍経路は例年通りで、現在はサウリ丘陵を移動中。バハルハムスの偵察隊が呪術師の検知範囲の外から観測しているが、行軍速度はかなり遅いようだ。

 これは砂上船の後をついてくる守護神像の移動速度に引っ張られているらしい。地上戦力は展開されておらず、戦力は全て船に入っているようだ。

 なんなら船から降りず、守護神像に前線を任せて後方から砲撃や呪いで遠距離戦をしてくるかもしれない、とか。

 ただしバハルハムス側はそのあたりは半信半疑らしい。砂上船はあくまで輸送船というのがバハルハムスの見解のようだ。

 船での海戦が多かったアルリゴの民からすれば、その方が怪しいが、まあここは海とは違って陸上に展開できるから話が違うのかもしれない。

 そのあたりの正確な予想を立てるためにも船の上の戦力を観測しようとしたが、そこまではできなかったらしい。

 ただ、記録を見ても、砂上船は海の船と違って操るのにそれほどの人数はいらないらしい。代わりに専門の風水師などが必要だが、おかげで輸送能力はかなり高く、どんな兵科の人間がいるかはわからないそうだ。とりあえず、船一隻につき軽く数百人ほど積める、と見られている。


 とはいえわかるのはそこまで。甲板に上がってきた人数を数えたり装備を見たりしてみたが正確なところは算定できないそうだ。


「おじさま、偵察について行ったのね」

「あの人元気すぎない?」

「元気のないおじさまは想像できないわ。まだ船が無事だといいけど」

「え。心配するのはそこなのですか?」

「エスフェルドはアルリゴきっての船団指揮官にして船乗りよ。船の一隻もあればそれが砂の上でもおじさまが負けるとは思えないわ」


 若き頃には鼻歌交じりで海賊船団を滅ぼしたこともあるエスフェルドは、海賊達の間では死神と言われ恐れられている人物だ。


 ともあれ情報のすり合わせは終わった。

 これでようやく方針決定に移れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る