Chapter4 第37話 知的狂人が一番怖い

 「へー」

 神崎は、相槌を打った。面白くなさそうだった。

 「…わかった。」


 藤崎はそんな彼を警戒するように、睨みつける。

 2人の間に明らかに、緊張した空気が漂った。


 藤崎は、あきらかに警戒した面持ちだった。そんな彼を見て−−いいや、彼女か。

 神崎はそんな彼女を見て、ニコッと笑った。営業スマイルのようにびっくりするほどのお手本笑顔を、彼女に向けた。


 そして口を開いた。

 「ちょっと、残念だよ。君なら僕のこと、本当にわかってくれるかなって期待したんだけどさ」 


 藤崎には、そのセリフがとても恐ろしく聞こえた。

 怖い、とさえ思った。

 「…でも。巻島駿裏は、殺します」

 「はーいっよ」

 神崎は、そうヘラヘラした態度で言った。



 「はーっ!食べた、食べたー!」

 沖田と三成は、スタバから出てきた。そして2人でとりあえず歩いている。

 満足そうに腹をさする三成に、沖田が言った。


 「…三成。あれ」

 「ん?」

 沖田は、何か見つけたのだろうか。ある方向を見ている。

 そこには。


 「アレ?藤ピッピじゃん」

 「…藤ピッピ?…なんだ、それ」

 「えーっ!?そんなこともわかんないのぉーっ、沖しー」

 「だから、沖シー呼びをやめろ」


 そう。2人の目線の先には、藤崎新汰が。

 しかも彼女の隣にはなんかよくわからないが。金髪だか、白髪だか、銀髪だかよくわからないファーコートの男もいる。

 その瞬間。三成は爽やかでかっこいい人だなと思ってしまった。


 「胡散臭いな、あのイケメン」

 「沖しー黙らっしゃいな!…で、イケメンってのは認めるんだね」

 「…嘘。認めないから、俺」

 「認めないんかい!」


 漫画だったら、ここで『くわっ!』というフォントが入ったのだろう。

 そう2人は、雑談をしながらも藤崎の方へ向かって行った。

 そして。


 「やっほー!藤ピッピ!元気してたぁ!?」

 −−自分としても思う。

 間抜けな声だなぁ、と。

 びっくりするほど思う。


 「…あ、…三成さん」

 藤崎は少しビクッと反応した後、少し気まずそうだった。


 −−気まずい原因は、たぶん。

 三成は、藤崎の隣にいる男を見た。

 金髪だか白髪だかよくわからない男を。

 中性的でありながら、色気も感じさせる顔つきだ。


 なんとも形容しがたい。

 飄々としているが深みがあるというか…。

 三成は、じっと彼の顔を覗き込んでしまった。


 「…どうしたの?君。」

 「はっ、はい!?」

 急に声をかけられたため、大きく肩を震わせた。

 めちゃめちゃ、ビックリした。


 「僕の顔になんかついてる?」

 「えっ…や、…付いてないです!ごめんなさい、なんか…顔見ちゃって」

 最後の方は、声が消えていた。

 少し照れているのが、見え見えだ。

 沖田は、何とも言えない顔で見つめた。


 「よかった。何も付いてないなら、安心だよ」

 また、男はニコッと笑いかけた。

 三成はさらに照れる。


 「…あの。なんであなたは、俺らのダチと一緒にいるんですか。」

 沖田は、三成が男と仲良くしているのを見て、嫉妬からか。

 はたまたただの警戒心からか。

 声をかけた。


 「あー、まぁ。彼とは、少し知り合いみたいな感じなんだ。これも、何かの縁だよ。君は名前なんて言うの?」

 男は、三成に名前を聞いた。


 「…えっ、あ、……えーっ!」

 −−だからなんか舞い上がってんじゃねえよ三成!

 と、沖田は思うわけで。

 三成は普段よりもキャピキャピしていた。

 −−こいつ、絶対ナンパしなれている!

 と本能が告げている。


 「…荒川…三成です。三成って書いて…みつなって読みます」

 −−だから!照れながら答えるな!

 沖田は思わず三成に、厳しい視線を向けた。


 「へぇっ…珍しい名前だね。三成と書いてみつな、か。面白いね」

 薄ら笑いを浮かべて、男は言った。

 正直に言おう。…うざい。

 なんだろう、巻島駿裏とは別ベクトルで。

 男はこちらを見た。 


 「…な、なんすか」

 警戒して声が少し震えた。…気がする。

 「君は、名前なんて言うの?」

 「…まず自分から名乗ったらどうですか」

 「あれっ」


 少し笑っている。

 何がそんなに、おかしいのだろう。

 「俺ぇ、嫌われちゃった?」

 「別に」

 「それじゃあ〜…ツンデレ?」

 「は?」


 沖田は、キレそうになった。

 が、ここは街中。

 キレるわけにはいかない。

 男は沖田に流し目を向けながら、くるっと川の方を見た。


 「僕の名前は、神崎。神崎巡(めぐる)。よろしくね。僕は名前を言いました。んじゃあ次は君が、名乗る番だよね?」

 「…。沖田総司です。」

 神崎の顔は、変わらない。

 真顔だ。

 いや、少し口角は上がっているが。


 「すごいねぇっ、名前。」

 怖い。

 目が笑っていない。

 「カッコイーー!!!神崎さんは、何やってる人なんですかぁ!?」

 「ああ。僕は、塾で短期間だけだけれど、塾の講師してたんだよね。」

 「へぇぇーーっ!すっごぉい!!」

 「あははっ、ありがとね。んじゃあね。僕、行かなきゃだから」

 ヘラっとした態度で『バイバーイ』と、手を振りながら歩きだした。

 

 「…カッコいいなぁ、神崎さん。」

 三成が、うっとりした調子の声で、言った。

 沖田は、ギョッとした顔で見た。

 内心はマジか。みたいな感じだった。

 

 沖田は懸念していた。

 あの男−−神崎巡が何かを企んでるのではないか、と。

 警戒していた。


 神崎は、鼻歌を歌っている。

 曲は言わずもがな。

 「魔弾の射手」・オペラの名曲だ。

 

 そんな神崎のことを、嘲笑うかのように。

 一陣の秋の風が、ふいた。

 冬のように冷たい風ではないが。

 少しだけ。

 肌寒かった。

 

 その肌寒さが、これから何が起こるのかを、予言しているようだった。

 神崎は、笑った。

 今日何度目になるかわからない。

 その薄ら笑いを、顔に浮かべた。

 「まぁっ」

 

 声色は、高い。

 ウキウキしているのが、丸わかりだ。

 それに釣られてか。

 足取りも軽くなっているようだ。

 

 「これからきーっと。楽しくなるよ。」

 ふふっと、神崎は声をあげて笑った。

 まるで無邪気な子供のように。

 全てを知っていて、これから何が起きるのかを見る、観測者のように。


 いいや。

 観測者ではない。

 神崎は、もっとタチの悪い男だ。

 

 そう、デスゲームやカードゲームで。

 ずっと俺のターン!みたいな。

 

 そんな男だった。

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