Chapter4 第32話 トップアイドルがなんか居るんだが

 「…野郎と?2人きりで?」

 荒川三成が、そう聞き返してきた。今日は月曜日。

 明日から異世界レースは、始まるのだ。

 「ウン」

 「えーっ、それ、アレ…やだね、自己肯定感下がって」

 三成は、続けた。

 そう。なんてったって、その野郎は、今現時刻、更新中で全女子をキャーキャー言わせているいわば、この国のトップオブトップ。完全に、日本を手に入れたアイドルの二大トップの片翼なのだから。

 嫉妬に狂わないはずがないし、自己肯定感は下がるに決まっている。

 そう、なぜならばオーラが違うから!!

 「もう、俺死んだ…」

 「おつかれー」

 「気苦労すごそうだな、新子」

 割と真面目に悩んでいるのに、三成と沖田の2人は軽く流している。

 いや、多分2人は不器用なだけだ、とリクオは無理に自分を納得させた。

 「気苦労も、体力苦労もやっばいよぉ」

 「…リクたん。」

 壁に向かって全員でご飯を食べていたが、急に三成がリクオの方に体ごと向けた。

 何事か、とリクオは身を構える。

 「体力苦労って言葉、ないよ」

 深刻な空気出してたのに、言うことそれかよ!とこの場にいる全員がツッコミを入れた。

 「知ってる」

 呆れた口調で、リクオは言った。

 「荒川、お前バカか?造語だってわかるだろ。まぁ、センスないけど。つまんないけど」

 「…沖田くん、色々と余計だよ。色々といらないよ」

 −−まぁ、フォローはありがたいのだが。

 ハハハっと苦笑いを、リクオはこぼした。

 今日は四時間授業だった。

 だから、昼を食べたらもう帰ることができるのだ。

 「食べ終わったし、行こっ」

 「うん」

 「あのさ、2人とも」

 沖田が口を開いた。

 「部活あったりすんの?今日」

 あー…と、2人は納得した。そういえば、沖田は剣道部に入っていたな。と。

 「…私は、無所属っす。帰宅部全国大会控えてるからさっ!」

 と、謎にドヤ顔をして、謎にボケる三成に沖田は、冷ややかな目線を送っていた。

 そして、トドメの一言。

 殺傷能力は、推定MAX。

 「…何、バカなことやってんの?お前」

 「…。」

 三成は、フリーズした。

 「新子は?」

 「ああ、俺も帰宅部だよ」

 「そっか。あのさ、剣道部今日部活ないんだよ」

 −−大体、彼がこれから発しようとしている言葉はわかる。

 さんっ!にーっ!いちっ!

 「…一緒に帰らないか?」

 「全然、俺はいーよ!…三成ちゃんは?」

 相変わらず、三成はフリーズしていた。

 ショックがそれほどまでに、大きいのだろう。

 全然動かない。

 「…おーい?三成ちゃん」

 目の前で、手を振ってみる。

 反応がない。

 「立ったまま死んだんだよ、そいつ」

 縁起でもないことを沖田は言った。

 そして、その言葉で三成の意識は戻った。

 開口一番の言葉は。

 「勝手に!私を!殺さないでもらっていいっすかぁ!!」

 だった。

 


 「秋休み全潰れじゃんかよ!ってか、あの人完全にリクたんのこと、独り占めしようと…?」

 帰りのホームルームが終わり、リクオ・三成・沖田の3人は、教室を出ながら。

 廊下を歩きながら、校舎を出ながら、話していた。

 話題はもちろん、異世界レース。

 「…独り占めって…。やめてよ、三成ちゃん俺、男だし。駿裏さんも男だよ、ないってそんな展開」

 と、苦笑いしながら言った時だった。

 リクオは見た。

 三成も見たし、沖田も目で捉えた。

 そこには、居た。

 巻島駿裏が。なんか、居た。

 サングラスをつけて変装しているつもりだろうか。だが、甘いな!オーラでバレバレである。

 「………あの人、芸能人だよね?」

 三成が拍子抜けしながら、言った。

 「…………うん」

 リクオがうなづいた。

 「………何で、横浜の一公立高校の校門前に、いる訳?」

 「………そんなこと、俺に聞かないでよ……。」

 「荒川の言った通りかもな。」

 三成・リクオの2人が、巻島駿裏という日本トップアイドルがいる。なぜか校門前にいる、という事実に顔面蒼白になりながら引いているのに対して、沖田は顔色一つ変えていない。

 そんな沖田に、三成とリクオは『こいつ、まじかー』みたいな顔をした。

 「…なんで、そんな目で俺を見んの?」

 「事実、思ってるからだよ」

 と三成が沖田に教え込むような柔らかい口調で言った。

 3人が気付いたのだ。

 ほかの生徒が、気づかない訳がないのである。女子生徒たちは声をかける勇気がないのか、チラチラ見ては黄色い歓声をあげ、男子ももちろんチラチラ見ている。

 −−わかるよー?わかる。チラチラ見ちゃうよねー!と、リクオは思った。

 そして何より、3人はそんな日本一の人気者みたいな人間と一緒にパーティーをしていると思うと、劣等感でどうにかなってしまいそうだった。

 「…あのさぁ。私…思ったんすよ」

 三成が口を開いた。

 小声である。耳を近づけなきゃ聞こえない。

 3人は、とりあえず中央通りから外れて、人通りのない駐車場へ。

 「何を?」

 リクオは、単なる好奇心から、聞いた。

 いや、好奇心以外もあるにはあるのだ。

 「色々と、めんどくさくないってさ。」

 沖田とリクオは、納得した。

 確かに、面倒臭い。

 巻島駿裏というトップアイドルが、こんな冴えない高校生(三成は、派手ではあるが)と知り合いである、ということがバレたりでもしたら。

 一軍だか、クラスのトップオブザトップに目をつけられて、平穏な高校生活は一瞬にして終わる。

 親も巻き込んで、とんでもないことが起こる、と。

 「どうすんだよ、荒川。」

 「よくぞ聞いてくれたね、沖シー」

 沖田は、顔を顰めた。

 「何?OXY?」

 「は?OXYじゃないよ、沖シーだよ」

 2人にしか、わからないような話をしないでほしい。と、リクオは思った。

 OXYとは補足説明をしておくと、男性用の洗顔フォームの商品名である。元々北米で展開されていて、あちらの方では知名度は八割以上を誇るとか、誇らないとか。

 「で、面倒にならないためにどうするんだよ?荒川」

 「…裏口を使います!」

 三成は、高らかに宣言した。

 「…荒川。」

 申し訳なさそうに、沖田が口を開いた。本当に言いづらそうだった。

 まあ、リクオも戸惑ってはいたが。

 「何ぞやっ!」

 変に格好つける三成。

 やめてくれ。はずかしいから。やめてくれ。

 「裏口使えないぞ」

 ピシャッと沖田の口から容赦ない言葉が、言われた。

 「…えっ」

 さっきまでの堂々とした態度は、どこに行ってしまったんだろう。とリクオは、思ったのだった。



 というわけで、3人は早歩きして、駿裏にバレないように立ち回ろうという結論を出した。

 だっ!と3人は、一瞬にして校門を出た。『アイドルになんて興味ありません』というスカした顔をしながら。

 「…あー、逃げる系ですか。めんどっ」

 と駿裏は言いながら歩き出した。

 その顔は、楽しそうだった。

 リクオたちが、駿裏の横を通りかかろうとした時だった。

 「ね、リクオ君」

 話しかけて来たのは。

 「!!?」

 心臓が、飛び跳ねた。

 口から心臓が出そうになる、という比喩表現の意味が、今やっとわかった。

 「俺、避けられちゃうと寂しくなっちゃうタイプなんだけど?」

 殺しに来ているのか?とリクオは思った。駿裏は、そんなリクオに構わず続ける。

 「…もしかして、わざとやってる?」

 少し声を低くしないでください、心臓に悪いから!!とリクオは、思った。

 甘いのだ。

 とにかく、なんか。わかんないけれど。

 「…いやっ、…そんなわけ…ないじゃないですか」

 戸惑いながら、リクオは言った。

 駿裏はさっきまでの真剣な眼差しはどこへ行ったのか。

 プッと吹き出してから。

 「ガチな訳ないじゃーんっ!リクオくん、反応…っププッ…良いから、いじりたくなるんだよねっ」

 つまり、自分は今まで弄ばれていた訳ですか。はいそーですか!

 リクオは、キレたかった。

 ずっとイジられていたという事実に。いや、まぁ。一安心だけれど。ガチじゃないってわかったから。

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