バラ、しゃべる

 庭に咲いた薔薇が、美しく咲き誇っていた。

 そう――まるで、この僕のように!


「薔薇よ! 僕と共に咲き誇れ!」


 近所のマダムたちが僕を見て、ヒソヒソと話している。

 ふっ。きっと、僕があまりにも美しいから、噂しているのだ!


「ご機嫌よう、マダム」


 摘みたての薔薇を口にくわえ、ウインクをひとつ。

 マダムたちは、頬を引きつらせながら走り去っていった。

 おやおや、どうやら僕の美しさに照れてしまったようだ!


 ――おっと、なんてことだ!

 僕の美しき唇が、薔薇の棘で出血してしまった。


「なんたる、不覚!」


「いや、不覚じゃないよ。アホなの、あんた?」


 ……おやっ?

 どこからか、声が聞こえるぞ?


「私のこと、くわえないでくれる?」


 はて。僕がくわえている、この薔薇から――?


「棘を取らずにくわえるなんて、どう考えてもアホでしょ」


 なんてことだ!!

 やはり薔薇から声が聞こえる!

 これはまさか……僕の秘めたる能力がついに覚醒したということか!


 そう、薔薇の声が聞こえる力――

 なんという、ポテンシャル!


「いや、なんか……無言でポーズ決めるのやめてくれない? ってか、あんたの手も棘で傷だらけじゃないの」


「ははっ、そんなの気にしない。なぜなら――僕だからさ!」


 手や口から血を垂らしながらのポーズ。どうだい、イカしてるだろ?

 血も滴る、いい男⭐︎


「……足がないことが残念だわ。私に足が生えてたら、全速力で逃げてる」


「僕の美しさから、逃げたいって?」


「……」


 おっと、薔薇が黙ってしまったぞ。

 まぁ、致し方ない。僕だから、ね⭐︎


 さて、このしゃべる薔薇さんをどうしようか。


「ねぇ、君。これからどうなりたい?」


「え?」


「せっかく喋れるんだ。君の“なりたい姿”にしてあげよう」


「え、いいの?」


「もちろんだとも! 僕のおすすめは……フラメンコダンサーだ!」


「……はぁ?」


「茎はそのままで、情熱の赤いドレスを着せてあげよう!」


「いや、無理無理無理無理! 花にドレス着せてどうすんのよ! もっと、花らしい活用法考えなさいよ!」


 ふむ、気に入らなかったようだ。

 ならば……。


「君ひとりじゃ足りないが、美しき僕の美容のために――薔薇風呂になるのはどうだい?」


 美しい僕の体にまとわる、大輪の薔薇の花びら!

 想像しただけで、美しいじゃないか。


「おえぇぇぇ……想像しただけで吐きそう」


 おや、僕の美しさが究極すぎて、吐き気を催したようだ。

 ま、仕方ないよね。僕だし⭐︎


「やれやれ……じゃあ、どうなりたいんだい?」


「わたしは――」


 ふむ。そんなのでいいのかい?

 なら、お望みどおり、そうしてあげよう。


 


 美しき花瓶に、薔薇さんを一輪、そっと飾る。

 シンプルだが、なかなか素敵じゃないか。

 さすが、僕の薔薇。


「こんなことで、いいのかい?」


「……わたしだけ、飾って欲しかったの。

 他の薔薇に負けない、わたしでいられるでしょ?」


「はっはっは。なるほど、そういうことか」


「わたしが枯れる最後まで、見守っていなさい」


 では――僕は、君の“最後”まで、君を愛でると約束しよう。


 美しきもの同士の、誓いさっ⭐︎

 

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