第31話 神からの伝言

 神殿の中に入って、中を見回す。

 神殿は、外から見えていたとおり立方体で、内装は全て木製だった。


「おお、すごくきれい。すきまがない」

「ありがとう。コボルトたちの技術のおかげね」


 壁、床、天井に使われている板の継ぎ目にはほとんど隙間がない。

 一枚板で作られているように見えるほどだ。


 神殿の奥には細長い机があり、その手前に向かい合った形で椅子が置かれている。

 机の上には大きめなお皿があった。


「そこに座って」

「ん。ありがと」

「本当はお茶やお菓子を出してあげたいのだけど。持ってきてないからごめんね」

「きにしなくていいけど……かみさまのおはなしってなに?」


 するとリラはにこりと笑う。


「そうね。前置きとかはない方が良いとは思うのだけど……」

「ん。はやいほうがいいな?」

「でも、必要最低限の説明はするわね。まずは私の神、星見の神なんだけど」


 リラによると、星見の神は未来を見る神と言われ、占いの神とも言われているらしい。

 だが、星見の神は見たことを教えてくれるとは限らないし、全てが見えているわけでもない。


「何を教えるか、教えないかは神次第ね」

「なるほど~」

「神々に愛されし末妹という別名もあるわ」

「すえっこなのかー」

「そうね。そして、私は星見の神の聖女。聖女や聖者というのは神に愛された者のこと」

「とくしゅな能力とかあるの?」

「精霊に触れられたり、聖獣の言葉がわかったりかしら? まあノエルと同じね」

「ほむ~」

「後は神とお話しできることかな」


 僕は神とお話できないので、そこは違う。


「ここからが本題。本題は二つあるのだけど。本題その一。星見の神の言葉を伝えるわね」

「うん」


 リラは目を瞑ると、美しい声で歌うように言う。


『転生者ノエルよ。どうかこの世界を救ってほしい。聖樹を育て、瘴気を払ってほしい』


 何か美しいもの、きっと星見の神がリラに乗り移ったかのようだった。


「以上よ。ノエルは前世があるのでしょう?」

「む?」

「隠さなくても良いわ。神がノエルをこの世界に呼んだのだし」


 どうやら今のノエルではない記憶は本物だったらしい。

 不思議と驚きはない。神ならば、そのぐらい知っているだろうとも思う。


「リラ。ノエル、前世がどんな人だったかおぼえてないの。おじいちゃんだったような、おばあちゃんだったような、子供だったような……」

「でも、前世の記憶はあるのよね?」

「うん。なんとなく世界のことはおぼえているけど……それもほんでよんだだけかも?」


 魔法のある世界だったか、無い世界だったかもおぼろげだ。

 でもカレーライスはあったし、からあげもハンバーグもあった。


「ノエルの前世ってどんなだった?」

「それについてはわからない。神が教えてくれないからね」

「むむ~、まあ、聞いてもしかたないかな?」

「そうね。別の世界のことなのでしょうし」


 そして、リラは僕の頭を撫でる。


「前世がなんであっても、おっさんだろうとおばあちゃんだろうと、私は関係なく扱うからね」

「ん、ありがと。そのほうがたすかる」

「ノエルは隠しているのでしょう? 秘密にしておいてあげる」

「隠してないな? ママには、ノエルがしっていること全部話したし?」

「おお、それはすごい。普通は話さないものなのだけど」


 そう言われたらそういうものかもしれない。


「でも、まあ、ひじょうじたいだったしなぁ」

「そうかもしれないわね」

「ほんだい、その二は?」」

「おお、忘れるところだった。神々の長兄たる至高神の言葉。星見の神経由の伝言ね」


 至高神と聞くと、なんだか偉そうだ。星見の神より偉いのだろう。


「ノエルを転生させたのは至高神。さらわれたのは計算外。神獣シルヴァに助けられたのは幸運だった」

「ほえー、神でもけいさんがいとかあるんだなぁ」

「もちろん。そうじゃなければ、瘴気あふれる腐界がここまで拡がったりしないわ」

「それもそっか」

「至高神も聖樹を育ててほしいみたい。でも好きに生きても良いって」

「いいの?」


 それは少し意外だった。

 転生させてやったんだから、言うことを聞けと言われると思っていた。


「いいみたい。まあ、神には神の思惑があるんでしょうし」

「すきにうごいても、かみののぞむとおりになる……とか?」

「それはないわね。特に転生者の行動は読めないらしいし。もちろん神は人より賢いから、人より精度の高い予測は立てられるとは思うのだけど」

「なるほどなー。そっかー。すきにしていいのかー」

「そうよ。もう一度いうわね。神は全知でも全能でもない。だから、好きに動いた結果、ノエルが早死にすることだってあるわ」

「きをつけないとだな?」

「神に愛されているからといって、生き延びられるとは限らない」


 実際、シルヴァに保護されなかったら、僕は死んでいたのだろう。


「…………ノエルがしんでいたらどうなってた?」

「また別の人を転生させたのかも? もしかしたら、ノエルが神の意に沿わなくても同じかも?」


 神にとっては僕も替えのきく駒なのだろう。

 僕に限らず、人も聖獣も神獣も、きっとそうだ。


「まだ五歳なのだから、ノエルは何にでもなれるわ。気楽にね」

「わかった」

「ただ、聖樹について頭の片隅においといてくれると嬉しい」

「うん。わかった」

「ノエル。神官になるのもいいと思うわ」


 それから、リラは神官の良さを語った。まるで宗教勧誘だと思った。

 怪しいけど、実際、この世界には神様がいるし、神官には力もあるのだ。


「しんかんについても、かんがえとくな?」

「うん、お願い。あっ最後に」

「むむ?」

「拠点に聖樹を植えてくれてありがとう。おかげで星見の神の力が増したわ」


 理屈はわからないがそういうものらしい。


「あと、この神殿じゃなくてもいいのだけど、定期的に星見の神の神殿に顔を出してあげて」

「そのぐらいならいいけど……なんで?」

「星見の神がノエルのことを好きだからね」


 神に好かれるというのは不思議な気持ちだ。


「ありがとって、かみさまにつたえといて」

「ん。でも、伝えるまでもなく聞いてると思うわ。ここは神殿だし」


 どうやら、そういうものらしい。神の理屈は本当によくわからない。


 リラと色々とお話をして神殿から出ると、

「ノエル。神殿はどうだった?」

 ティルに尋ねられた。

「うーん。なかなかなものだな?」


 前世がどうだこうだとは、言いにくいので曖昧に答えておいた。


 そのうち、ティルにも前世についてお話しするべきかもしれない。

 だけど、その前に父様と母様に話すべきだと思う。 


 そんなことを考えていると、弟妹たちがじゃれついてくる。


「がうがうがう」「なぁな」「みゃ」「にゃ~」

「さみしかったな? あにがあそんであげるな?」


 ガルガルとアオたちを撫でてあげていると、 


「ノエル。どうだった?」

「リラさんと何をお話ししたの?」

 父様と母様が尋ねてくる。


「えっとなー、たくさん聖樹を育てたら、うれしいみたい?」


 父様と母様に前世について話すのは、少し緊張する。

 気持ち悪い子だと思われたくないからだ。

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