第38話 文化祭前日

夕暮れをすぎても、校舎にはまだ微かに活気が残っていた。


明日に控えた文化祭。

廊下には飾りつけのテープが残り、体育館からは最後のリハーサルの音楽が遠くに響いていた。


だが、それも間もなく止み、空気は急速に“日常”へと戻っていく。


昇降口では、部活の生徒たちが最後の片づけを済ませて帰り支度を始めていた。


「明日、遅れんなよー!」


「クラス展示、ちゃんと来てよ!逃げるなー!」


そんな声が飛び交う中――

1年B組の教室には、まだふたりの姿が残っていた。


クラス委員の斎藤竜馬。

副委員長の鈴木彩。


飾りを整えた黒板。机の上に並べられた配布資料。

明日の動線確認のために残ったふたりは、作業を終え、今はただ無言で椅子に腰を下ろしていた。


窓の外には、茜色から群青色に変わりつつある空。

外灯がひとつ、またひとつと点り、学校が“夜の顔”へと変わるころだった。


ふと、竜馬が息を吸った。


そして、静かに口を開く。


「……吉本先輩、笹本先輩、屋上、ドレス、鍵、薬、そして……制服」


その言葉の並びに、彩の指が止まる。


竜馬は、机の端に置いたノートをゆっくりと開いた。


「俺の推理を、聞いてくれないか?」


彩は驚くでもなく、ただその目でまっすぐ彼を見つめた。


教室は静かだった。

ただ、天井の古い蛍光灯が時おり小さくパチリと音を立てていた。


「全部、つながってると思う。今まで起きたこと、ひとつひとつはバラバラに見えるけど――あれは、“ひとつの物語の断片”だった」


竜馬は、ページの端に指を添えて、ゆっくりと綴りはじめた。


「笹本先輩の転落は、事故じゃない。吉本先輩の死も、“偶然”じゃない。あの屋上に行くきっかけも、ドレスも、鍵も、薬も――全部、“仕組まれてた”」


彼の目は、何かを確かめるように、彩の瞳を探していた。


彩はほんのわずかに頷いた。


「……聞くわ。全部。あなたの“つないだ線”を、いま、ここで」


窓の外では、最後の吹奏楽のリズムが止んでいた。

校内は、まるで時間が止まったような静けさに包まれていた。


だが、その沈黙の奥で、

ひとつの真実が、声を持ちはじめていた。

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