第13話 3人の関係
放課後、校舎裏の中庭。
事件の余韻がまだ校内に残る中、人目を避けるようにして、鈴木彩、斎藤竜馬、藤野美緒、篠田幸太郎の四人が、ひっそりと並んで腰を下ろしていた。
昼間は暖かくなってきたとはいえ、日が傾き始めると春の風はどこか冷たく、吹き抜けるたびに四人の制服の裾を揺らした。
竜馬が、穏やかな声で口を開いた。
「いきなり父さんが来て、びっくりしたよな」
「うん……でも、びっくりしたのはそっちじゃなくて……」と、彩が遠慮がちに口を挟んだ。
美緒は少しだけ息を吸って、話し始めた。
「……竜馬と、私。いとこなんだ。私のお母さんが、竜馬のお父さん――斎藤刑事の妹。で、竜馬と幸太郎と私が幼稚園からの幼馴染」
「そんな……今まで全然、言ってなかったよね?」
「うん、言ってない」
竜馬が小さく頷いた。
「別に隠してたわけじゃないけど、なんか……目立ちそうだし、言うタイミングもなくて」
「そう。私もクラスでそういうこと言うの、ちょっと嫌だったの」
美緒が苦笑するように続けた。
「竜馬と親戚ってバレると、絶対“橋渡ししてよ”とか“ずるい”とか、めんどくさいことになるんだもん。前に一度バレたとき、“いいな〜竜馬くんと親戚とか”って言われてさ……いや、めんどいから黙ってるほうが楽だって思った」
「……わかる」
彩はぽつりと呟いた。
それは理解の言葉であると同時に、どこか共感にも近かった。
(わたしも副委員長ってだけで、斎藤くんと話すたびにチラチラ見られて。くじ引きで決まっただけなのに、一緒ってだけで変な空気になる。ほんと、くだらないし、めんどくさい。)
「でも……言われると三人でいても、自然かも。斎藤くんと篠田くんと、藤野さん。なんとなく並んでると、しっくり来る感じがした」
「ま、それも当然っちゃ当然かもな」
幸太郎がそう言って肩をすくめた。
「竜馬と美緒とは幼稚園からずっと一緒。小学校、中学校、高校まで全部」
「同じ町内だったからね。お盆は毎年、三人で花火とかやってた」
「花火とスイカと水風船、定番コース」
竜馬が懐かしそうに笑うと、美緒も思わず吹き出した。
彩はそのやり取りを見ながら、少しだけまぶしそうに目を細めた。
「……なんかいいね、そういうの。自然体っていうか、気を遣わなくて済む関係って」
「そうなんだよね」と、美緒が言った。
「気を抜いてても、気まずくならないっていうか。話さなくても平気なときもあるし、話してても安心できる感じ」
竜馬は何も言わずに、ただ空を見上げていた。
中庭の桜は、すでに花を散らし、若葉が芽吹き始めていた。
その柔らかな緑の向こうに、空の青さが静かに広がっていた。
――この三人の距離は、偶然ではない。
彩はそう感じていた。
家族という“血の繋がり”と、幼なじみという“時間の蓄積”が作り上げた関係。
それが、見えない糸のように彼らを結びつけていた。
そして、だからこそ。
事件の渦中であるこの日、三人が自然と集まっていたことに、どこか納得がいった。
沈黙が訪れた。
だがそれは、気まずい沈黙ではなかった。
あたたかくも、どこか切ない静けさ。
そしてその中で、彼らは少しだけ、お互いのことを知ったのだった。
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