第10話 カウントダウン

翌朝。

また、教室の黒板に数字が書かれていた。


2

15


昨日と同じ赤チョーク。

場所もほとんど変わらず、右下に「2」、左上に「15」。

文字の傾きもわずかに似ていて、書き手が同じであることを何となく匂わせていた。


「……え、また?」


阿部が教室に入ったとき、すでに何人かのクラスメイトが数字を取り囲んでいた。


「昨日のは誰かのイタズラでしょ?でも今日もって……」


「同じ人が書いてるのかな……?」


「なんか、気持ち悪くない?」


その声に、阿部は無言で頷いた。

誰かが面白半分でやっている――そう思えれば、どれほど気が楽だったか。

だが、この“連続性”と“意味のなさ”が、逆に生徒たちの想像力を刺激していた。


三日目。

数字はまた変わっていた。


3

14


「これ、さ……足して17になるようにしてない?」


「え?ほんとだ。昨日は2と15、今日は3と14……」


「1と16から始まったんだよね?」


「ってことは……なんかのカウントダウンじゃない?」


ざわ……っと、教室に奇妙な緊張が走った。

“カウントダウン”――その言葉が出た瞬間、空気が確かに変わった。


日直も、掃除当番も、配られるプリントも、すべてがいつも通りに進んでいる。

けれど、黒板のその一角だけが“日常”から切り離され、奇妙な意味を持ち始めていた。


「幽霊が、何か伝えようとしてるんじゃない?」


最初にそう言ったのは、教室の真ん中にいるおしゃべり好きな女子だった。

冗談のような声色ではあったが、その瞳の奥には確かな“本気”が宿っていた。


「去年この教室、誰か亡くなったとか……?」


「え、なにそれマジなやつ?」


「いや、でも聞いたことある。前にこの階の理科準備室で事故あったって……」


噂は、いつだって根拠の有無とは無関係に広がる。


生徒たちの耳に届く前に、理屈は消えていく。

残るのは「誰かが言ってた」「聞いた気がする」「もしかして」という、“不確かな確信”だけ。


四日目。

また、数字は更新された。


4

13


それを見た瞬間、もはや教室中のほぼ全員が“毎朝”黒板を確認するようになっていた。

ただの落書きから、“儀式”めいたものへと意味が変化していたのだ。


(……あと何日続く?)


阿部はふと思う。

それは「あと何日で終わるか」という問いではなかった。

むしろ、「この数字の終着点に、何があるのか」という、言葉にできない問いだった。


「これ、絶対17までいくよね」


「てことは……あと13日?」


「その日になんか起きるとか……?」


「誰が書いてんのか、見張ってみる?」


「やめなって!そういうの、絶対やばいって!」


声のトーンは日を追うごとに真剣味を増していく。

“幽霊”という言葉がもはや冗談では済まなくなっていた。


そして――

数字だけが、無言のまま教室に現れ続けていた。


まるで誰かが、彼らの“終点”を知っているかのように。

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