第70話 ミス

回表香川   かがわ代走朝倉  あさくらが送られる。

バッターは松岡まつおかだった。


(シートノックで見たがキャッチャーの肩はそこまで強くねぇ…行ける!)


朝倉あさくらは強気の気持ちを持ったが同時に


(でも失敗したら…俺のせいで負けてしまったら…)


と思うと、


(あの時の香川かがわの気持ちがよくわかるぜ…)


朝倉あさくらは“緊張”という名の呪縛にロックオンされ縛られてしまった。

そして羽田はねだが投球に入った。

サインは盗塁だった。

だが朝倉あさくらの足は生まれたての小鹿のように小刻みに震えていた、顔には冷や汗も流れると同時に


(何でだ…体が動く気配がねぇ)


と金縛りのように体が動けないようになった。

結局初球は走ることができなかった。


羽田はねだは左投げの利点を生かして、一塁へ牽制を入れた。

間一髪朝倉   あさくらはセーフになったが後0.001秒遅れていたらアウトになっているところだった。

次も牽制を入れ朝倉あさくらはセーフとなった。


「相手は完全に朝倉あさくらを警戒しているな」


三枝さえぐさが言った。


「流石に警戒するよね、この状況で代走しかも朝倉あさくらは見た目が俊足って感じだしな、これで警戒するなとかやべぇだろ」


梶山かじやまがゆった。


(どこを見たらいいんだ…)


羽田はねだの癖を自分なりに見つけようとした。

すると2球目羽田はねだは右足を地面をなでるように横にずらす癖を見つけた。

三球目は羽田はねだの右足に集中して見た。

そして横にずれようとした瞬間走ろうとした。

だが、朝倉あさくらの足に足枷がついたように走ることができなかった。

その足枷は羽田はねだの手からボールが離れたときに、やっと外れた。

一か八か朝倉あさくらは走った。

徐々に加速し、目の前には、白いベースだけが見えていた。

残り3mと迫った時、セカンドのグローブにボールが吸い込まれ朝倉あさくらはタッチアウトとなってしまった。

朝倉あさくらはアウトになり悔しかった。

相手の癖を見抜けたのにアウトになってしまった。

そんな自分をこの瞬間嫌った。


(やり直したい…最初から)


と思った。

だが時間は巻き戻らずただ無慈悲に進んでいくのみだった。

朝倉あさくらはベンチへ向かって歩き出した。

想像したのは、自分がベンチへ戻ると、石田いしだからの怒号、みんなからの冷たい視線、まるでもう走るなと言わんばかりの雰囲気を出されると思った。

だが現実は違った。

「どんまい」

「ナイストライ」

そして石田いしだに呼び出されると

「次頑張れよ」

朝倉あさくらの肩を叩いて言った。

朝倉あさくらはむしろ、想像した感じの方がマシだった。

その方がずっとスッキリするし、切り替えができる。

でもこれだとスッキリしないし、引きずってしまう。

そんなマイナスの気持ちだった。


その後、8回表の梶山かじやまの1発のみで明光めいこうは3回戦を勝った。

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