禁じられた神話
奏
第1話 序章
序章
それは世界創造の神話。
この世界が創造される頃、世界に存在したとされる至高神。
その名は天上斎神(てんじょうさいしん)
天上斎神とは世界を創造したとされている創造神にして最高神だった。
それはどんな世界でも語り継がれている神話である。
世界創造の神話には必ず天上斎神の神話があった。
だが、語られない神話もある。
今、その神話を再現するならこんなふうになる。
「運命神。人界を創造するためにおまえの力を貸してくれるか? かなり酷なことを言っていることは承知しているが」
おぼろげな人影がそういった。
それは後に天上斎神と呼ばれることになる至高神だった。
対するのは運命神と呼ばれる神で、天上斎神を除いたこちらの世界では、第二位に位置する最高位の神だった。
これは運命神の夢である。
天上斎神は確かに世界創造をなし遂げた創造主だが、こちらの出身の者ではなかった。
彼には彼の統べるべき世界があり、護るべき人々もいた。
こちらの世界は天上斎神個人の思いつきにより創造されることになったのだ。
彼が夢に見た理想郷として。
決して個人的な我儘から玩具としてこの世界を創造したわけではなかった。
自分が果たせなかった夢をこちらの世界に託したのである。
しかしそのためにひとつ問題が生じていた。
世界を創造する上において必要な要となるべき世界。
その名を天珠界。
天珠界を先に創造してしまったがために、天上声神が肝心の人界(天珠界を要とするすべての世界の総称)を創造する段階において、天上斎神本人が手を出せなくなってしまったのだ。
そのくらい生まれたばかりの世界は脆かった。
強すぎる天上斎神の力では危険しか与えないほどに。
『天珠界人の存在する源はその力。その力を大量に失わせれば、それだけ死期が近づく。なによりおまえは身体が弱い。人界の創造など負担にしかならないだろう。だが、頼まれてくれないだろうか。聖麗神では無理なんだ。力の質が違いすぎて。聖麗神に頼めることなら、送うことなく聖麗神に頼むのだが』
聖麗神とはこちらの世界の第一位の神で、運命神の双生児の弟だった。
力の差は歴然としていて弟の方が選かに強い。
だが、その名が証明するように力の質はまるで違っていた。
運命神の力の方が人界に影響を与えることなく創造することが可能だった。
そのために天上斎神は頼んでいるのだ。
自らが創造した相手に頭を下げて。
そんなここができるほど天上斎神は優しい人柄をしていた。
『承知しました、天上斎神。この生命に換えても人界は無事に創造させます。ご安心を』
『すまない』
『それでどのように創造すればいいのでしょうか。以前に説明されたときに、人界の基本については理解しているつもりです。俺‥‥‥わたしは人界の最高神たる至上神を創造するところから始めればいいのでしょうか』
『いや。人界の中心地となる至上界を先に創造してくれ。至上神については手を出す必要はない』
至上界とは人界での中心地。
いってみればもうひとつの天珠界だった。
その世界に生を受ける運命にあるのが、至上神と天麗神という二重神。
いってみれば聖麗神と運命神のような関係だ。
どういう関係で生まれるのか、そもそも血族に生まれるのかすら、今の段階では謎だったが。
その表の最高神、至上神については手を出すなとは、一体どういう意味なのだろう。
『一体どういう意味なのでしょう?』
『至上神についてはすべて俺が自分でやる。運命神が手を出す必要はない。運命神は至上神と沙羅神皇(さらしんのう)の創造からはじめて、天麗神、そして至上神の代理を兼ねる沙羅神皇の魂を選出してくれ。ふたりは至上神を支える上で欠かせない存在だからな』
これが後の悲劇の原であると、この時点でふたりは知らない。
天上斎面は天麗神と沙羅神皇の選出も自分でやるべきだったのだ。
いくらこちらの世界では第二位にいる神だとはいえ、天上斎神と比べれば不可能はある。
間違えることもある。
そのことを視野に入れていなかったのが、天上斎神の一番大きな誤算だった。
そうして運命神は天上斎神にいわれたとおり、まず人界を創造する上で一番大きな役割を持つ至上界を創造し、ついで天麗神と沙羅神皇の魂の選出に入った。
その際に重要視されるのは魂の資質である。
自分たちを計算に入れれば、沙羅神星は第四位。天麗神は第五位。
それに相応しい力を身に宿すことになる。
その力を受け入れ制御することができなければ、選んでも意味がないからだ。
特に沙羅神皇の選出には気を遣った。
沙羅神皇は位では聖麗神、運命神、至上神に次ぐ第三位だが、力の強さでは天麗神をも遥かに凌ぐ。
五大神の中では最下位で、同時にカも一番弱かった。
その点、気が楽だったのである。
沙羅神皇の選出よりも。
それが後々、自分を傷つけることになると、運命神は知らない。
あのとき、自分がもっと気を遣っていれば。
これはこの後、運命神が何度も悔やむことになる想いだった
そうして至上界が創告され、人界のすべての基盤が整うのと同時に、至上界を統べるべき至上神と天麗神が至上界に誕生した。
聖麗神や運命神と同じ双生児の皇子として。
聖麗神と運命神は天味界の皇子。
至上神と天麗神は至上界の皇子として生を受けた。
第一皇子、至上神セインノーア・ラリューズ・デ・セシーラ。
第二皇子、天麗神セインリュース・メサイアナイト・デ・セシーラ。
どちらもが第一星位継承者をもつ世継ぎの皇子である。
だが、天職神、セインリュースは生まれてすぐに危篤状態に陥り、生死の境を彷徨った。
その結果として医療塔と呼ばれる医療施設で成長することとなる。
不治の病を抱えた悲劇の星子として。
その結果を見属けたとき、運命神は泣いた。
自らが犯した過ちに気づいて。
そんな兄を聖麗神が慰めた。
「泣くなよ。ディース。ディースのせいじゃないから。もともと至上神のことでは天上斎神がすべてを握ってたんだ。天上斎神にも予知しきれなかった現実なら、避けようなんてなかってことだよ。だから、ディースのせいじゃない」
「だけど、俺がもっと選出に気を配っていれば。せめて別の奴を選んでいたら」
「同じだよ。魂の選出の短いあいだで今回の悲劇を知る術はないよ。どこのだれが産まれたばかりの状態で、こんな事件を起こすと思う? 仕方がなかったんだよ。そう思って納得してくれよ。ディースが泣くのは辛いよ」
天上斎神の世継ぎの正式名を譲られた者として、そしてなによりも聖麗神として、彼はこれは避けられない悲劇だったのだから、と。
そのことで後にもっと傷つくことになると知らずに。
最高神たちにも知ることのできない現実はある。
それは至上神の神秘性のように。
至上神の神話が動きだすのは、もうすこし未来のことだった。
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