⚾️あおぞらのリベンジ!⚾️【短編小説】❧ありす甲子園2025参加作品❧

虹うた🌈 

第1話 蒼空バッテリー


 ウィ――――――ンィィ……!!



 始まりの鐘音が響き、チームメイト達が各々のポジションへと駆けてゆく。


 俺――長月蒼太ながつきそうたも、夏色のマスクを被りキャッチャーズボックスのギリギリ手前に腰を落とした。


 ピッチャーマウンドの上から、バッテリーを組む水無月空みなづきそらがジッと俺を見つめている。空は俺の一年後輩の中学二年生。キレのあるスライダーとシュートに定評があり、コントロールも正確無比。十分に強豪校のバッター達と渡り合える実力を持つピッチャーだ。

 

 ただ、留意するべき点はある―――空が女性だという事だ。


 男性のピッチャーと比べても遜色のない球威を誇る空だけど、その球威を捻りだす為に体全体を使って投げる必要がある。だから、どうしても大きめのピッチングフォームになり、スタミナ切れが起きやすい弱点があるんだ。



 スッパ――――ン!



 そんな懸念を振り払うように、空の右腕から放たれた白球が俺のミットを揺らす。  


 衝撃でジ…ン…と痺れる俺の左手。いらない心配をしていないで、ちゃんと私をリードして下さいってか。相変わらず、可愛いい相棒で笑えてくるぜ―――空。


 ああ―――

 分かったよ。


 俺がしっかりリードしてやるから、思いっきり楽しんでくれ――空。

 お前が楽しめば楽しむほどに―――!


 

 俺達のリベンジは、果たされるんだぜっ!





    ⚾️ ⚾️ ⚾️ ⚾️ ⚾️ ⚾️


 

    ――― 二カ月前 ―――

 



「まいったな………」


 俺は、途方に暮れていた。何故なら、俺が立つ筈だったその場所に思わぬ先客がいたからだ。それもそれ、その先客は俺の通う中学の制服を着た、よく知る彼女だったんだ。 


 仕方がないので、俺はソイツが居なくなるのを待つことにした。



「………………」



 スクールバッグを足元に置き、俺は静かにその時を待つ。見上げれば―――どこまでも澄み切った青い空。ずーっと遙か下には、勢いよく流れる清流が日光を反射してキラキラと輝いている。 


 今は晩春の季節―――何処までも広がる桃畑が濃い桃色の花で彩られ、遠くに霞む山々は新緑に染まっている。


 ああ――綺麗。この橋の真ん中から眺める景色は、この季節に最高に輝くんだよ。



「あの―――長月先輩」


「なんだよ、水無月」


「何時まで、そこに居るつもりなんですか?」


「………奇遇だな水無月。俺も全く同じ質問を、お前にしてやろうと思ってた」


「そうなんですか?それはそれは奇遇ですね。………もしかしてですけど、先輩は私が居なくなるのを待っています?」


「もしかしてもしなくても、その通りだ水無月。俺はお前がその場所から居なくなるのを、今か今かと待っている」


「やっぱり、そうなんですね。またまた奇遇です。何を隠そう私も、先輩が居なくなればいいなって思っているんです」


 俺達は、その一連の会話を一度も目を合わせないでし終えた。水無月とはバッテリーを組んで半年足らずだが、ちゃんと意思疎通を交わせる間柄に二人はなっている筈だ。何故なら、今まで何人ものピッチャーとバッテリーを組んできた俺は、バッテリー間のコミュニケーションが如何に大切かを知っているからだ。


 それは水無月も同じだったんだろう。だから俺達は、この半年の間に随分と野球について語り合ったし、お互いについても知ろうと努力してきた。


 ふむ――だからなのだろうか?水無月の考えていることが、手に取るように分かってしまうんだよな。



「あの―――さ、水無月」「あの―――長月先輩」



「「もしかして―――この橋から、飛び降りようとか考えてます?」」



 ――――俺達の台詞は、ピッタリと重なり合った。

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