第2話 ゴブリンにかますくっ殺
そんなわけでやってきました人生初ダンジョン。出入口付近はまだ日が入って明るかったんですけど、数歩進んだだけで別世界。奥を見通せないほど真っ暗です。
そのせいか気温も外に比べて低いです。子供の頃、親に連れて行ってもらった鍾乳洞ほどではないですが、ブレザーを着ていたのは幸いでした。
……なんて実況風な解説をしてみたところで、寂しさが紛れることも明るくなることもない。
「ゲームとかだと普通に探索できるのに……」
昔のレトロなRPGで、たいまつを使わないと周囲が真っ暗でまともに進めないってのがあったけど、まんまソレ。もう目の前すらろくに見えない。
戻って光源を手に入れようにも、町の正確な場所がわからなければ、こっちの通貨もない。まさに八方塞がり。
「そうだ! スマホがあるじゃないか! あれなら通話はできなくても、バッテリーが持つ間は光源にできる!」
スカスカ。
スラックスのポケットに手を突っ込んだ直後、そんな効果音が聞こえた気がした。
「なんでないんだよ!?」
あったはずのスマホが消え、代わりに紙切れが一枚。
この世界に異なる文明の機器を持ち込ませたくないだの、電気が発見されてないから使えないだの、複数の理由が書いてあるけども、要するに『お前のスマホは預かった。返してほしくば帰還まで待つがいい。BY神様』ということらしい。
そして財布もなくなっている。至れり尽くせりすぎて涙が出てくるわ。
色々取り上げるんなら、その代わりにこの世界で使えるアイテムやら通貨やらを持たせてくれてもいいだろうに。
唯一残っているのが、着ているブレザーの制服だけというのがなんとも物悲しい。
「あ痛っ!」
ぐちぐち言いながら歩いていたら、額に硬いなにかがぶつかった。
手でペタペタ触ってみる。ゴツゴツした岩肌だ。適当に歩いた結果、方向感覚すら狂って壁に激突したらしい。
前途多難すぎて不安は尽きないが、いまの俺は自信たっぷりなキャラをロールプレイ中だ。こういう時こそ胸と虚勢を張って突き進もう!
「いっそ目をつぶって……いや、それだけでなく走ってやろう。うおお! 見よ! 俺の雄姿……へぶっ!」
またもや壁とキス。恋人いない歴イコール年齢の俺だけど、異世界にきたら壁にモテまくるとは。
「血が出てないのは救いか。っていうか、おもいきりぶつかってるわりにはあんまり痛くないな……なんでだ?」
首を捻ったところでわかるわけないので、とりあえず高笑いしながら歩いてみる。
「フハハハハ! フハハハハ!」
クラスメートに見捨てられたことで、ヤケクソになって始めたキャラ設定だが、ちょっと楽しくなってきたぞ。
繰り返し壁に顔やら頭やら肩やらをぶつけ、なんなら石みたいなのにつまずいてこけたので、そのままごろごろ横向きで転がりながら進んでみる。
そしたらいきなり重力が消えた。
空を飛ぶ俺。いや、落ちてるだけだわ、これ。
「うわあああ!?」
冷静さは三秒で失われ、腹から地面に着地。さすがにこれは痛い。腹と頭を押さえてのたうち回っていると、なにやら人っぽい気配がする。
クラスメート……ではないよな。現地人か? 剣と魔法の世界だって話だったし、冒険者かもしれない。だとしたら、恥ずかしい姿を見せるわけにはいかない。
「フッ、首尾よく下の階に着いたな。階段を下りるのが面倒だったので、落とし穴に案内してもらったが、正解だったようだ」
なにごともなかったかのように立ち上がり、痛みを堪えて誰かの気配がするほうを向いて――あ痛っ! なんか肩を叩かれた!
続いて額に衝撃。まうしろに吹っ飛ばされて、開脚後転を披露。しかも連続でだ。自力で止まれないだけとも言う。
さらに後頭部にも奇襲を受ける。どうやら壁にぶつかったようだ。かなり痛い……んだけど、悶絶するほどでもない。
これはあれか。よくある異世界人は、この世界の住民よりも身体能力が優れてるパターンか。
足を高く上げて後方の壁につけ、反動を活かして跳ぶように立ち上がる。その上で、引き続き気配のするほうへ人差し指を突き出す。
「誰かは知らないが怒ったのか? だが彼我の戦力さを正しく把握しないで攻めかかるのは感心しないな」
彼我だって。初めて使ったわ。地球じゃ死ぬまで使う機会なかったろうし、異世界さまさまだな。
「そして俺は最強だ。吠え面をかく前に――へぶっ」
顔面に衝撃。またしてもうしろに吹っ飛んで、今度はさっきよりずっと近かった壁に後頭部で頭突き。さすがに頭がクラクラする。
しかもまだ怒りの鉄拳……拳か? あの衝撃はもっと硬いもので殴られたような感じだったし、武器を持ってるのかもしれない。
冒険者かどうかは不明だが、あまりに大人げなくないか?
周囲は相変わらずの真っ暗闇で――。
『下級スキル【夜目】を獲得しました』
――お? 周囲の様子がわかるようになった。得たスキルは文字通りの夜目か。
てことは前に得たショブは【聖人】で合ってるのか? どうせなら声の他に、文字にして教えてくれればいいのに。
おっと、そんなことより謎の気配の正体だ。いまなら見えるはず。
前方にいるのは冒険者なんかではなかった。緑色の肌をした異形の生物。一目見てわかった。こいつ、ゴブリンだ。
どうやら俺は、ゴブリンをこの世界の冒険者だと思ってロールプレイしていたらしい。恥ずかしい。つまり恥辱を味わったわけだな?
「くっ、殺せ!」
「グギャ?」
女騎士風に定番の文句を口にしてみたが、所詮は異世界のゴブリンか。まったく通じなかった。それどころか、不気味なものを見るような目で見られた。
ショックを受けてる場合じゃないな、この状況をどうするか。
っていうか、俺、初めて魔物と向かい合ってるのに妙に冷静だな。ロールプレイしている間に、精神性がキャラに引っ張られたとか?
気にはなるが、ひとまず放置で。怯えなくて済むなら好都合だ。
「クックック、ゴブリンごときがこの俺の前に立つとは片腹痛い」
やったぜ。死ぬまでにリアルで言ってみたかった「片腹痛い」も言えた。
うお!? 人が感動に打ち震えてる時に攻撃してきやがった!
「人の決めシーンを邪魔するのは感心しないな」
飛び上がったゴブリンの振り下ろす棍棒を半身でかわし、背中を向けながらくるりと回転して蹴りを脇腹にめり込ませる。
おお、凄え。俺、こんなんできたのか。
体育の成績あんまよくなかったけど、異世界にきて覚醒したらしい。
あ! これ【聖人】ジョブのおかげじゃないか?
聖人といえば僧侶系。僧侶系といえばモンク。モンクといえば格闘。
おおお、やっぱり俺が新たに得たショブは【聖人】だな! 間違いない!
道理で壁とごっつんこしてもあんまり痛くないし、ゴブリン相手に余裕で立ち回れるわけだよ。
しかもゴブリンは回し蹴り一発で瀕死だ。
平和な日本で生きてきただけに、魔物でも命を奪うのは抵抗があるが……躊躇うな! ロールプレイ云々の前に命が懸かってんだ!
半分以上、自暴自棄になっていたが、俺だって別に死にたいわけじゃない。泣き言を言う前に覚悟を決めろ!
倒れているゴブリンがいまだ動けないのを確認後、俺は頭部への踵落としでとどめを刺した。
気色の悪さが足に残ったがそれだけで、命を奪ったことへの罪悪感は特になく、わりと平気なのがなんだか意外だった。
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◆【穴熊秀男 リザルト】◆
【所持スキル】
《下級》:【夜目】(new)
【所持ジョブ】
《最下級》:【噛ませ犬】
《ユニーク》:【誓人】
【スキル説明】
【夜目】:【暗所での視力上昇】
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