聖女の純情~和風鬱エロゲに式神として転生したので鬱フラグを全てへし折った上でヒロインを原作主人公とくっつけようとしたのになんだか様子がおかしい~
四熊
一章
これあの有名な鬱シーンじゃね?
前世の俺は、ひたすらエロゲに没頭する冴えないオタクだった。数ある作品の中でも特に『聖女の純情』というゲームは、俺をエロゲー沼に引き釣りこんだ作品だった。この物語は日本を舞台に
――と思っていたのですがあのストーリーが実際のものになったら流石に助けないといけませんよね。
死んだ俺はどうやら転生したようで『聖女の純情』の世界にいるらしい。
いや正確には意識だけがある感じで雛を中心として視界が広がっていくが、俺の言葉は聞こえないし俺がどこかへいくことも出来ない。
何故その世界へと転生したのが分かるのかというと、目の前でこの作中で二人が絶対に幸せになれなくなってしまった元凶のイベントが起きているからだ。
今まさに、あの悲劇の始まり──形代雛が、妖でもなんでもない、家族と呼ばれる者たちの手で汚されようとしていた。
俺は知っている。この儀式は多くの妖力を持つ者から妖力の繋ぎを渡すなどというもっともらしい名目があるが、実際はただの陵辱だ。形代一族は、女を道具のように扱うとんでもない一族だ。
そうなった理由は過去に女の身で妖退治に行ったものの妖に孕まされた者がおり、そのことを隠し、妖との子どもを産んだせいでその子どもが大虐殺を引き起こしたからいう理由で、以降生まれてくる同じ印を持つ娘たちを呪いの器と見なし、快楽の道具にしながら利用してきた。
ちなみにこの大虐殺を引き起こしたから女がこのような扱いをされているというもっともらしい理由を言っているが、これも嘘で形代の男たちの扱いに耐えかね逃げたとある女が心優しい妖と結ばれ子どもも出来たものの、女を追跡してきた形代一族と戦闘になり、心優しい妖は殺され、女も怪我を負ったので怒った子どもによって殺されたということが正しい。
この話は『聖女の純情before』という外伝シリーズで語られている。
俺の前にいる雛は泣きじゃくりながら破かれてもうほぼ布と化した巫女服をかき集めている。
必死に身体を隠そうとしていた。だが、そんな布切れ程度で身を守れるわけもない。
「やめて……っ、お父様……どうか、やめて……!」
声を震わせ懇願する雛の前には、妖でも魔でもない、ただの人間――それも、彼女の家族だという人間たちが、醜悪な顔で並んでいた。
この作品の中でも最も読者の心を抉った――雛の最初の陵辱イベント。
原作では一枚のCGとテキストのみだったが、今この目で見るそれは、あまりにも現実的で、吐き気を催すほどに生々しかった。
「う、嘘だろ……本当に……このまま、始まるのか……!?」
息が詰まりそうだった。この瞬間、俺は選択を迫られていた。
見て見ぬふりをするか、原作の流れに逆らって――救うか。
俺は、前世でこのゲームを何周もして、雛の全ルートを見た。
救いのないBADエンド、救済されたように見せかけているも結局、最終戦後に度重なる心労からすぐ死んでしまうTRUEエンド、狂気に染まり自我を喪失する狂愛ルート。彼女を、同じ目に遭わせてたまるか。
だが第一の問題として今の俺は思念体のようなもので介入する肉体を持っていない。
「では――ここは当主のこの私が、初物をいただくとしようか」
「親父、早く俺にも回してくれよ」
雛の父である
「ああ、分かっている」
そう言って雛の父親がゆらりと歩み寄り、怯えた娘の上に覆いかぶさる。
「やめて……っ、お願い……っ」
雛の叫びが、張り詰めた空間に響いた。そして雛は身を守ろうと自身の式神を召喚しようとしている。
原作ではこの後、無力な烏の姿の式神が現れ、皆の嘲笑を受けながら結局、陵辱を受けてしまう
――だがあれは、彼女の力不足のせいじゃない。呼び出される側の霊格が貧弱だったからだ。
こんな妖力の満ちていない場で式神召喚術を使っても意味がないのだ。
どうすればいい、間に合わなくなるぞ。そう俺は思考を巡らせていると、とあることを考えついた。
俺が呼び出しに応じればいいんだ。今の俺は思念体、不可能ではない。
貧弱な鳥の式神より、俺みたいな一般男性の式神の方がよっぽどマシであるはずだ。
妖士である彼らには勝てなくても雛をここから逃がす時間くらいは稼げるかもしてない。
というかこの位しか俺の頭では良い策が思い浮かばなかった。
その瞬間、視界が白く染まった。
空間が、引き裂かれるような音を立てた。
「……ん?」
雛の父が首を傾げる。その背後に、黒い靄のようなものが立ち上る。
彼女の指先が震えながら、それを指し示した。
「……し、式神……? 私、出したの……? た、助けて!」
鬼気迫る声を発した雛、その雛の視線の先に立っていたのは、俺だった。
――成功だ。
自分の身体を見ると黒い小手を身につけ、白い着物に血が飛び散っているかのような服装。
この姿に俺は見覚えがあった。それはこのゲームでは式神育成要素もあったのだがそこで育てていた俺のプレイデータにある式神と一緒だった。
形代一族は俺の姿を見て多少はたじろいだようだが、数的有利とあくまで雛の初めての式神召喚であったことを思い出し嘲り始めた。
「クク……そんな式神一体で何ができる? 少しは才能があったようだが初めての式神、使い物にはなるまいて」
「むしろちょうどいい。妖力のパイプを早めにつないでやろう。その方が式神も使いやすくなるだろうからな」
雛の父がそう言い俺を無視して、なおも彼女に手を伸ばす。
――俺が絶対に守ってみせる
俺の手が自然に上がる。 初めて使うはずの身体。だが、不思議と何も違和感はない。
その瞬間、俺の右手に梵字が浮かび、黒炎のような光が吹き上がる。
視線を向けただけで、床の板がひとりでに震え、周囲の蝋燭の炎が揺らめき歪む。そんな中、凶士郎が俺の姿を見つめ、戦慄した表情を浮かべて声を上げた。
「おい……親父……あの式神……おかしいぞ」
「は?」
「見ろよ、式神の背にある展開術式……使役型でも、封術型でもない、戦術型だ!」
――戦術型。
本来、式神とは三つの型に分類される。
ひとつは「使役型」。探索や情報収集、使い魔のような役割を果たす小型の式神。
ひとつは「封術型」。戦闘こそ不得手だが、結界構築や呪術の補助に特化した式神。
そして、稀に存在するのが「戦術型」。戦闘を目的に編成された型であり、武術、術撃、速度、耐久に優れるまさに戦うための式神。
だが――
「違う……ッ、あれは、討滅型だ……!」
凶士郎が呻くようにそう言った時、室内の全員の顔が凍りついた。
「ば……馬鹿な、討滅型なんて、神話時代の伝承上の存在だぞ……!? 式神とは呼べぬ、災厄と同等の……ッ!」
俺の身体に刻まれた戦紋――それは明らかに討滅型”呼ばれる、伝承級の式神に見られる模様。前世の『聖女の純情』では、クリア後の隠しルートでしか到達できない最終進化。
それが、今、目の前に現実の形を取って存在しているのだ。
「ふざけるな……ありえない……っ! 雛の初召喚がそんな存在のはずが……!」
権蔵の顔が青ざめ、次の瞬間、術符を抜き放って詠唱を始めようとした。
だが――俺はもう動いていた。
空気が焼ける。
右手を軽く振るっただけで、衝撃波が壁を裂いた。
「うおっ!? ぐあああッ!!」
権蔵の身体が吹き飛び、床に叩きつけられる。
重たく鈍い音とともに、木製の床が凹んだ。
「お、親父っ!?」
凶士郎が声を荒げるが、次の瞬間、彼の足元にも黒炎の鎖が噴き上がった。
《壊式・黒怨嗟》
――術の発動。
「な、なんでそんな高等術式が使えるんだ……!」
術式は討、滅、壊、破、普いう等級に分けられ、破式ですら選ばれたものしか使うことが出来ないので壊式を使ってきた俺に強い衝撃を受けているようだ。
凶士郎の悲鳴を背に、俺は静かに雛へと手を差し伸べた。彼女は、呆然としたまま俺の手を取る。
雛の手は、小さく、震えていた。
俺はその手をしっかりと握り返す。すると、その瞬間――
力の差がまだ分からないのか、それとも妖士としてただでやられる訳にはいかないということなのか。
「黙ってやられると思うなよッ!」
後方から、憤怒に任せた妖力の奔流が飛んできた。凶士郎の放った破式・雷撃符。
それに呼応するように、まだ立ち上がっていた形代の男たちが一斉に詠唱を始める。
「結界式展開ッ!」
「式神封滅呪ッ!」
一斉に放たれた妖術と符術が、俺の身体に殺到した。
その術のどれもが本来なら式神に特攻がある術だったがレベル差がありすぎて俺には通じなかった。
爆音。閃光。術式の波動で空気が震える。
天井が崩れ、障子は木端微塵に砕け、瓦礫が舞い上がる。
煙が晴れたとき、そこに立っていたのは、一歩も動いていない俺だった。
肌も、衣も、無傷のまま。
「ば……バカな、あれだけの術式を連携で叩き込んだんだぞ……!?」
「結界破りも入れてたのに、効いてねえ……ッ!」
「こ、こいつ……式神じゃない……化け物だ……!!」
奴らの絶叫が飛び交う。
そんな中、俺の隣で立ち尽くしていた雛がポツリと呟いた。
「……大丈夫? あなた……怪我、してない……?」
この雛はこんな目に遭わされながら、まず俺の心配をしてくれている。
この世界で、どれほど優しく、どれほど弱く、どれほど強い少女だったかを、俺は知っている。だから助けたい。
「大丈夫だよ、雛。もう、誰にも触れさせない」
そう言い、俺は一歩、形代家の男たちの方へ歩みを進めた。
「ま、待て、待て待て……俺たちは、その、悪気があったわけじゃ……!」
「そうだ! これは伝統だ! 儀式なんだ! 罪じゃない!」
「命だけは……! 命だけはお助けを……っ!」
懇願の声。醜悪なまでに取り繕う態度。
俺は雛が止めろといっても止めなかったくせに、自分達が不利になった時は助けて貰えるのではないかと思っていることが感じられるこの態度が気に食わなかった。
だがこいつらの処遇は俺が決めてはならないと思った。だから雛に決めるように無言で促した。
すると雛が震える声で言った。
「見たくない……。声も聞きたくない……。私、あの人たちを家族だなんて、もう思いたくない……。でも殺さないで、自分の罪を償って生きていって」
その言葉が、すべての答えだった。
俺は、右手を前に突き出す。
「討式・断罪鎖陣」
発動と同時に、黒炎の鎖が幾重にも張り巡らされる。
呻き声。叫び声。次々にその身を拘束され、式を破ろうと試みるも一切の術式が発動できない。まるで、力そのものを吸い取られていくような拘束。
そして全員が拘束されると腕を後ろに縛り上げ、地面に正座をさせ並べる。
「じ、時間をくれ……和解できる……我々はまだ話し合え――」
「黙れ。貴様らにそれを口にする資格はない」
俺は冷たく告げると、そのまま鎖が彼らの鎖を突き刺していき、引き抜くことで彼らの身体にズブリと差し込まれた鎖が妖士としての根幹――妖力回路そのものを断ち切る。
もはや彼らは妖術を使えない。ただの人間として、生きるしかない。
妖士として威張り、金と権力を得てきた彼らにとってこれは死ぬよりもつらい罰になるだろう。
「もう、何も奪わせない」
俺は雛の肩をそっと抱く。彼女は涙を拭いながら、小さく頷いた。
この日、形代家の呪われた因習は終わりを告げた。だが、これは始まりに過ぎない。
――彼女の運命を変えるための物語。
よし、じゃあ後は原作主人公とくっつけたり。他の鬱イベントをぶっ壊してやるか!
ーーーーー
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