第2話 買い取り希望者『アン』
カラカラン。
いつもより静かに鳴るドアベルの音に、私とバルドラが揃って目を向ける。こういった音を鳴らす客はだいたい新規の客か買い取り希望者だ。
案の定ドアを開いて入ってきたのは、見覚えのないやや薄汚れた衣服を纏う俯き戸惑った様子の女性だった。
「いらっしゃいませ」
私がカウンターの中からお決まりの言葉を発すると、相手は少しビックリした様な仕草をした。驚かせてしまったようで申し訳ないが、こちらとしては客として迎えるという行為をしただけなので許していただきたい。
女性は恐る恐るといった感じで、店内を見渡しながらカウンターの方へと近づいてくる。その足取りは重い。気持ち的な部分もあるだろうが、こういった店に慣れてないのだろう。うちの店って割と特殊みたいだし。
「いらっしゃいませ。こちらは初めてですか?」
女性がカウンター前まで進むと、脇に控えていたバルドラが優しく声をかける。
「はい……」
「ご来店ありがとうございます。当店ではこちらのメニューよりお好みの物を選んでいただいた後、我々従業員が席で待つお客様へと運ぶ形となっております。ゆっくりとで結構でございますので、ご希望の物をお選びください」
戸惑った様子の女性に対しバルドラは「まずは飲み物からどうぞ」といった感じで、手のひらを上に向けた状態でメニューへと案内する。
バルドラの手の動きを視線で追い、飲み物のメニューに目を向けた女性であったが、その状態で視線が固定されたまま少しすると、また俯き何かを決心した後に顔を上げこう言った。
「あの……。ここでは、話を買い取ってくれると聞いて来ました」
やっぱりそうか。そう考えた私だが、最初の対応はバルドラが行うことに決まっているので、その様子を厨房の中から見守る。
「左様でございましたか。失礼いたしました。それでは別室へと案内させていただきますが、その前にこちらよりお飲み物を一つお選びください。そういった決まりとなっております。なお、料金につきましては買い取りの金額より引かせていただきますので、予めご了承ください」
そういって女性に飲み物を選ばせ、バルドラは奥にある個室へと案内していった。
しばらくして、バルドラが「準備が出来ました」と厨房に声をかけに来たので、先ほどの女性が案内されている個室へと向かう。
厨房から内側の通路を経由し、客側とは別の関係者専用の扉をノックをした後、中からの返事を聞くと扉を開け室内へと入る。
いつものように向かい側、女性客の座っている方は結界で覆われており、私の座る椅子側とは間に設置されたテーブルの途中で仕切られている。これは「客が私に危害を加えられない様に」という対策なのであるが、客側へ説明する際の建前としては「お客様に安心していただくため」ということになっている。
改めて見た買い取り希望者である女性は、この国ではよく見かける茶色の髪に地味な服装で、いかにも「田舎から町へ出てきました」という恰好をしていた。とはいえ、田舎では一般的な感じでおかしなわけではない。
年齢は二十歳前後といったところか。
表情は入店時にも感じたが戸惑っているようで瞬きが多く、何か悩みを抱えている様に感じられる。
席に着くと、相手の顔を見て一度会釈しながら微笑みかける。
「初めまして。店主の『サラ』と申します」
そうこの国に来てから名乗るようになった偽名を告げて、相手の目を見る。
すると女性はこちらを一瞬見た後一度頷いたので、最初の挨拶を受け止めてもらったと判断して続きの言葉を紡いでいく。
すぐに相手が口を開かない場合として、バルドラが事前に聞いておいてくれたメモを見て名前を確認するというパターンが存在するので、今回はそのように対応していく。テーブルの上にあるメモへとわざと視線を落とし名前を認め、顔を上げて本人へと問いかける。
「お名前は『アン』さんでよろしかったですよね?」
「はい。そうです」
確認が取れたので、一つ頷きこう続ける。
「ありがとうございます。では、これからお話を伺わせていただくのですが、本日ここで私どもが耳にしました内容につきましては、基本的に外部に漏らすことはございません。ただ、アンさんの生命に関わる問題となった場合などに限り、ご家族や治安を維持している領主様やその関係者にお話しさせていただく場合がございますがご了承ください」
ここまで言い切り、アンさんの顔を見ると小さく頷いた。
「それではお願いします。本日は、どのようなお話を聞かせてくださいますか?」
そう告げると、私はアンさんが口を開くまで待つために、テーブルの上で軽く手を組んだ。
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