第20話 誕生日を決めよう!

 うーん、この本を読むのは、かなり難しい。


 全体的に回りくどい口調だし、要点もまとまっていない。学術本としては下の下。

 でも、こんな本しかないこと自体が、魂の研究が進んでいない証拠なのか。


 もし、わたしが魂の研究を大きく進めれば、第一人者になって魔法の歴史に名前を刻めるかも。

 そしたら本を出して、たくさん売れて、お金がいっぱい懐に入ってきて……。


 もっといろんな魔法のアイテムを手に入れて、もっとすごい魔法を開発して……。


 大きな家が必要になるから、ミースと一緒に暮らせばいい。

 お手伝いさんを雇えば、ミースが家事をする必要もない。


 そうなると、ミースはいい生活から抜け出せなくなって、わたしから離れられなくなる。

 ああ、夢が広がるなぁ。


 よし。

 実現するためにも、もっと集中して勉強しよう。


 

「ねえ、ちょっといい?」

「んー」



 お、この魔法、面白い呪文構築してる。

 魂をいじって感情を引き出しているのか。


 しかも、呪文の口調がかなり独特で、あのナンパ男みたい。

 魂の精霊って、かなり変わった性格なんだ。


 お、しかも、2種類の妖精に同時に語り掛けるようにしてる。

 普通はケンカになるはずなのに。興味深い。



「すんごく大事な話なんだけど、いいかな」



 ん?

 ミース、ちょっと怒ってる?


 でも、今いいところなんだけど。

 もうちょっと無視しても大丈夫でしょ。



「ねえ、聞いてくれない?」



 もうちょっとだけ。



「フリーゼ」



 待って。

 あと2時間ぐらいで読み終わるから。



「フリーゼ、明日からあなたが嫌いなピーマンフィーバーウィークにするわよ?」

「……え?」



 やばい。

 これはミースが本気の時の声だ。


前に、本当にピーマンだらけの1週間にされたことがあって、食べるだけでも苦痛なのに夢にまで出てきて……。

 本当につらかった……。


 さすがに、2度とあんな目にはしたくない。


 

「……はぁ」



 ミースがそこまで言うなら、仕方ないか。



「手短にお願い」

「はいはい」



 わたしの顔を見ただけでゆるみきった笑顔になったし。

 なんなの?


 

「ねえ、誕生日を自分たちで決めてみない?」

「……誕生日」



 孤児だし、もちろん誕生日なんて知らない。



「意味ある?」



 誕生日を決めても、特に便利なこともないでしょ。

 年齢なんて年を越えたら増やすぐらい適当でいいし、そこまで特別な日とも思えない。


 わたしにとっては、ミースに出会った日と孤児院から脱走した日の方が、よっぽど大事。



「誕生日パーティーをやってみたくない?」

「なにそれ」

「そっか。この世界では定番じゃなかったっけ」



 つまり、前世の世界での習慣ってことか。



「そのままの意味。誕生日にパーティーを開くの。1年間生きられて、おめでとうって」

「ミースは前世でパーティーをしたの?」

「うん。毎年」

「面倒じゃなかった?」



 毎年毎年同じ日に祝うなんて、すぐに飽きそう。

 わたしだったら、絶対にうんざりする。


 

「すごく楽しかったわ~。毎年毎年、違ったご馳走を食べて、プレゼントをもらって、あの日だけは主役になれたのよ」



 そういうものなんだ。

 なんていうか、すごい異世界って感じがする。


 

「だからさ、自分たちで誕生日を決めちゃって、それで誕生日パーティーをしない?」

「うーん」

「イヤ?」



 イヤっていうか、やる意義を感じられない。



「はいハイ! ボクの誕生日はママと出会った日っ!」

「そうね~~。ミーちゃん、出会ってくれてありがと~~~!!」

「ママ、ダイスキ!」



 なんでこの妖精はそんなに甘えられるの?

 子供っぽくて恥ずかしいって思えないの?

 



「ちなみに、私はもう誕生日を決めてるの」

「いつ?」

「6月9日」

「その日って……」



 わたしがミースにTS魔法を撃ってしまった日。



「なんで……?」



 そんな日を誕生日にしたがるの?


  

「ふっふっふー。それは秘密」

「なにそれ」

「リーたんの誕生日にでも教えようかしら」

「意味わかんない」

「私からのプレゼントってやつ?」

「……はあ」



 ミース、楽しそうでいいなぁ。


 

「ほら、フリーゼも決めて」

「……うーん」

「誕生日プレゼントに魔法の本を用意するわよ?」

「本!!!」



 それは欲しい!

 魔法の本なんていくらあっても足りないっ!



「じゃあ、1月1日」

「ダメ。それは適当すぎ。もっと大事なものなんだから」



 楽しようとしてたの、バレたか。

 他にパッと思いつくのは――

 

 

「……7月7日」

「お、いいわね」



 わたしたちが孤児院から脱走した日。

 新しい人生をスタートさせた日。


 この日なら、祝える気がする。



「って、あと1週間もないじゃない!」

「あ、ほんとだ」

「急いで準備しなくちゃ! プレゼントは……イーリャンになんとかしてもらいましょう」



 ミース、すごく張り切ってる。

 楽しそうならいいか。



「じゃあ、誕生日のために頑張りますかー。稼ぐぞー! おー!」



 誕生日パーティーかぁ。

 1日だけ主役の席に座って、ご馳走に舌鼓を打って、プレゼントを抱いて、1年間の無事を喜ぶ。


 そんな、ちょっとだけ特別な行事。



「…………悪くない」

「ふふ、リーたん、いい顔してる」

「……」

 


 あれ?

 わたしの心、意外とわくわくしてるんだ。







―――――――――――――――――――

いつも読んで頂き、ありがとうございます!


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感謝してもしきれない……!


ハッピハッピハッピー♪(猫ミーム

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