第47話小さな決意
月曜日の朝。
教室に入ると、真っ先に目に入ったのは、黒板に貼られた一枚の掲示だった。
《クラス代表によるスピーチ発表 日程:来週金曜 場所:体育館》
文化祭の感想や学級委員からの報告、クラスの活動報告など——
形式的なものとはいえ、何人かが代表して話すことになっているらしい。
「ねえ、詩。あれ、どうする?」
真央が私の隣に腰を下ろしながら小声で言った。
「どうするって……?」
「クラスの推薦で、装飾係からも一人代表出さなきゃいけないって。でね、詩、名前出てた」
「……え?」
思わず聞き返すと、真央がやや申し訳なさそうに笑った。
「私が推薦しちゃった。ごめん。でもね、詩の作ったパネルデザイン、すごく評判良くて。『誰が描いたの?』って話題にもなってたし、湊くんも『詩のセンスすげえよ』って言ってたよ」
その言葉に、胸の奥が一瞬だけ熱くなった。
「……湊が、そんなこと」
「うん。だから、詩なら、ちゃんと伝えられると思って」
迷いはあった。
人前に出るのは得意じゃない。緊張もするし、言葉を選ぶのも苦手。
でも。
「……やってみようかな」
「ほんと? わぁ、よかった〜!」
真央は心から嬉しそうに笑ってくれた。
その笑顔を見ていたら、不思議と私の中にも小さな決意が芽生えていた。
⸻
昼休み、私は一人で資料室にこもって、スピーチの原稿を書いていた。
真っ白な紙を前に、何を書こうか迷っていると、ふと、誰かが扉をノックした。
「……詩?」
振り向くと、湊が立っていた。
「なんで資料室に?」
「スピーチの準備。装飾係から出ることになって……」
「そっか。……詩、あのパネルの色合い、すげぇ良かったって、先生も褒めてたよ」
「……ありがとう」
「オレ、詩が描いてるときの顔、好きだったよ。夢中で、楽しそうで」
突然のその言葉に、思わず息が止まる。
「……そんな顔、してた?」
「してた。昔も、今も」
沈黙が、静かにふたりの間に降りた。
「……湊」
声を出そうとした瞬間、どこかでチャイムが鳴った。
「ごめん、委員会始まるわ。じゃ、またな」
そう言って湊は、軽く手を振って出ていった。
私は静かに原稿用紙を見つめる。
胸の中の何かが、少しだけ形になった気がした。
⸻
それはきっと、小さな決意。
でも、それはちゃんと、自分の足で進もうとする気持ちだった。
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