第45話文化祭、雨の午後
文化祭当日、朝から空はどんよりと曇っていた。
風が湿っていて、教室に立ちこめた熱気と混ざって、少し息苦しさを感じる。
B組の出し物「喫茶B組」は、思っていたよりも本格的な仕上がりになっていた。
装飾係として準備してきた内装も、湊が描いたパネルも、クラスメイトから好評で、にぎわっていた。
「いらっしゃいませー!」
真央の明るい声が教室に響く。
私はカウンター横で、テーブルの花を整えたり、配膳を手伝ったりしていた。
「湊くん、パネルすごいって評判だったよ〜」
「マジで? まあまあ、それなりには頑張ったからな」
湊の照れたような声が、近くで聞こえる。
その隣では、先日湊の隣の席になった女子が、楽しげに笑っていた。
それを見ていた私は、心の奥で小さく何かが沈んでいくのを感じた。
……どうしてこんなときに、比べてしまうんだろう。
⸻
昼を過ぎたころ、ついに雨が降り出した。
窓を打つ雨音がだんだんと強くなり、ざわめきの中にもどこか落ち着かない空気が漂い始めた。
「詩、外のポスター濡れてきてるみたい。ちょっと見てきてくれる?」
係の先輩に頼まれ、私は傘を持って教室を出た。
校舎の入り口付近、柱に貼っていた告知ポスターが、雨で端からはがれかけていた。
私は傘を肩に挟みながら、テープを張り直そうと手を伸ばした。
「……おい、びしょ濡れじゃん」
背後から声がして、振り返ると湊がいた。
右手にはタオル、左手にはもう一本の傘。
「なんでオレに言わねぇんだよ。外行くとき」
「頼まれただけだし、すぐ戻るつもりだったから……」
「それ、風邪引くやつな」
湊はため息をついて、タオルで私の肩をそっと拭いた。
その仕草が、やさしくて、息が詰まる。
「ありがと……」
「別に。……でもさ」
「……うん?」
「詩、最近ちょっと無理してね?」
一瞬、目が合った。
けど、私はすぐにそらして、笑ってみせた。
「そんなことないよ」
「なら、いいけど」
湊の声は、どこか釈然としないままだった。
⸻
午後の喫茶B組は大盛況で、疲れとともに充実感もあった。
けれど、私の胸の奥には、雨のようにしとしととした、言葉にならない想いが、降り続いていた。
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