第23話すれ違う目線
翌朝、いつものように教室に入ると、湊はもう席に着いていた。
窓側の席、光の差し込む場所で、いつものようにペンを走らせている。
私は「おはよう」と声をかけた。
でも、その返事は少しだけ遅れて返ってきた。
「……おはよう」
たったそれだけのことで、心がざらりとした。
(なんか、いつもと違う)
ほんの少しの間。
ほんの少しの声のトーン。
それだけで、不安は簡単に生まれてしまう。
午前中の授業中、何度か話しかけようと思ったけれど、
湊はずっと真面目にノートを取っていて、声をかけるタイミングがなかった。
(たまたまだよね、きっと)
そう自分に言い聞かせても、心は軽くならなかった。
放課後、提出物を届けるために職員室へ行こうとしていたとき、
廊下でまた美羽と湊が並んで歩いているのを見かけた。
二人の会話は聞こえなかったけれど、
美羽の表情はどこか楽しげで、
湊はうなずきながら、真剣に何かを聞いていた。
私は足を止めてしまった。
意識してないつもりでも、目は二人を追っていた。
(……話してる内容、気になる)
そんなことを思ってしまう自分が、嫌だった。
誰と話そうが、湊の自由なのに。
でも、
(私には、あんな風に話してくれない気がする)
「詩!」
ふいに名前を呼ばれて、振り返ると真央がいた。
「あ、ごめん。声かけても気づかなくて」
「大丈夫? ちょっとボーッとしてたよ」
「……うん。ちょっと考えごと」
「湊くん?」
図星を突かれて、私は少しだけ笑った。
「やっぱりね。最近、詩がすぐ分かるようになった」
「私って、そんなに顔に出るかな」
「めちゃくちゃ出てる。……でもさ、話せば?」
「……話せたら、こんなに悩んでないよ」
自分でも分かってる。
答えが欲しいなら、ちゃんと向き合わなきゃいけないってこと。
でも、怖い。
だって、もしこの気持ちが“勘違い”だったら。
湊にとって、私はただの“幼なじみ”だったら。
そんな思いが、心の奥にしっかりと根を張っていた。
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