第5話 続 魔力測定


「マジかよ」


 全く予想もしていなかった展開に俺は愕然とそう呟いた。

 見間違いだったりしない?

 実は銀色じゃなくて、白色だったりしない?

 うーーん、銀のメスをチラリあかん。全く同じ色ですわ。

 スラムのガキにあと一歩のところまで近づかれてるとか、結構くるわーー。

 数十年鍛えたら追いつかれるとかまじ傷つくわーー。

 エルフなのに獣人と魔力が同じとかファンタジーの常識壊れてんじゃん。

 やっぱ、魔法教えるのやめよっかな。

 ……まぁ、冷静に考えてこの才能を腐らせる方が良くないよな。

 俺はそんなことを考えながらチラリとシンシアの方を窺えば、彼女は不思議そうに首を傾げている。


「悪かったの?」

「いや、悪くなんかない。むしろ、良さ過ぎるくらいだ」

「ホント?」

「あぁ。お前には俺に並ぶ魔法使いになる才能がある」


 そう言って、彼女の頭をポンポンと叩くと無表情気味な少女の顔が綻んだ。

 俺は持っていた魔吸水晶をベッドに置き、魔力の入っていないものを二つ取り出す。


「次、金髪娘」

「は、はいなのです!」


 急に指名を喰らったメルはカクカクとした動きで目の前にやってきて、「えいなのです」と言い手を置いた。

 すると、水晶が黄色に変わった。

 金色ではない。

 黄色だ。

 つまり、下から三番目。

 簡単な治癒魔法が何回か使える程度。

 この魔力量を持つ奴らは三人に一人くらいの割合でいる。

 うん、普通だ。

 これだよこれ、俺が求めてたのは。

 魔法を使えるか使えないかくらい奴らを拾ったつもりだったのに、まさかあんな狼娘バグがいるとは思わんやん。

 いやぁ、マジで落ち着くわ。


「あ、あの、エルフ様いつまで撫でるのです?」

「あっ、悪い。ついな。お前も魔法が使えるぞ」

「本当なのですか!?」

「おう。まぁ、シンシアに比べたら魔力の量はかなり少ないけどな。でも、鍛えればそこそこの魔法使いにはなれる」

「おぉーー!頑張るのです」


 ムンッ!と胸の前でガッツポーズを取るメル。

 可愛い──とはならない。

 パッと見で見える傷は粗方治療したとはいえ、昔に負ったであろう火傷の跡や、生え替わりの時期にしても少な過ぎる歯。痩せこけていている頰は変わらず。

 こういうのがあるせいで、痛ましいという気持ちが先行してしまう。


(早く治してやんねぇとな。調子乗って『復元』なんて馬鹿魔力を喰う魔法を使うんじゃなかったわ)


 考えなしな自分に嫌気が差しつつ、後で簡単なところから治してやろうと気持ちを切り替える。


「ほら、次。紫髪娘こい」


 最後の一人を呼ぶと、彼女は目に見えて身体をビクッと震わせた。

 顔を覗くと若干白くなっており、過去一番しおらしい顔をしている。

 

「あ、あの、私は遠慮します。魔吸水晶なんて高価なもの使えませんわ」

「この国だとそうかもだが、コイツは他所の国で買ったやつだからクソ安いぞ。だから、気にすんな」

「ええっと、そのぉ〜」

「どうしたのです?リーゼ」

「なんか変」


 俺以外のメンバーも異変に気が付いたらしく、詰め寄られた彼女は「だから、そのですね……」と狼狽え、グルグル目を回らせる。


「ええぃ!?触ればいいのでしょう!?触れば!!?」


 やがて、限界を迎えたギルネリーゼは爆発。

 ドタドタとヤケクソ気味にこちらへ駆け寄って、水晶に触れた。

 

「おっ、青か。結構あるじゃん」


 渋ってた割にメルよりあるじゃねぇか、コイツ。

 確率にして約十人に一人。

 その辺のガキなら『俺は青色魔法使い様だーー!!』と自慢して回るくらいには、人間にしてはかなりある方だ。

 冒険者になれば引っ張りだこになること間違いなしだろう。

 これで恥ずかしがってるとかどんな家の生まれだよ?とギルネリーゼの方を見れば、彼女は水晶を見て固まっていた。


「……嘘っ」


 まるで、信じられないものを見たように。

 嘘であって欲しいと願うように彼女は口元を両手で押さえ、その場に崩れ落ちた。

 

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんですの!?」


 頭を振り回し、ガリガリと自分の腕に爪を突き立てる少女。

 

「おい!止めろ!?」


 俺は慌てて彼女の両腕を掴み、強引に腕から引き剥がす。


「離して!?離してくださいまし!?」

「離したらテメェまた自傷するだろうが!?せっかく治してやったのにそんなことさせるかよ!」

「嫌ですわ!?もう何もかも手遅れなんですの!私なんか、もう生きている意味もない!」


 ガリガリの身体のどこにそんな力があるのかと思うほど、馬鹿力で暴れ回るギルネリーゼを何とか抑える。

 が、それは長くは続かなかった。


「ぐぇっ!?」


 ギルネリーゼの肘が俺の脇腹にクリーンヒットしたのだ。

 それにより俺は拘束を緩めてしまい、彼女は青く染まった水晶の鋭く尖った先を自身の喉に突きつける。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 うわ言のように謝罪の言葉を連呼しながら、大きく腕を振りかぶるギルネリーゼ。


「リーゼ──ぐへぇ」

「っ!?邪魔!」


 それを止めようとシンシアとメルは慌てて駆けようとするが、慣れない長ズボンに足を取られてずっこける。


「チッ!」


 俺はそれを確認した瞬間、脳裏に一つの魔法陣を描く。


「『身体強化フィジカルブースト』」


 刹那。

 俺は一陣の風になった。


 ビチャ。


 コンマ数秒後、宿の床に大量の血が落ちた。


「な、んで?」


 茫然自失と言った感じでこちらを見上げるヒステリック娘。

 彼女の視線は俺の右腕に固定されている。

 俺はそんな彼女に苦笑いを浮かべながら、改めて自分の手を見る。

 水晶を無理矢理掴んだせいで手の至るところが切れており、手のひらの方は特にパックリいっていた。

 正直めちゃくちゃ痛え。

 身体強化は皮膚の硬さとかも上がるから大した怪我にならんだろうと思ったのが甘かった。

 が、何とか間に合って良かった。

 俺はそう息を吐いたところで「ごめんなさ、私やっぱり死んだ方が──」と再び、ヤバげな発言が耳に入ってきて。

 咄嗟に、俺は水晶を再度掴んだ。

 それにより、血がさらに吹き出しギルネリーゼの顔に降りかかる。

 上手く避けられたら良かったのだが、もう一度動き出したコイツが悪い。

 

「助手が勝手に師匠よりも早く死のうとすんじゃねぇよ」


 俺はヤケクソ気味にそう言い放つと、彼女の首に手刀を落とした。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る