第2話 俺にとっての新しい学校生活の始まり
朝の教室は、いつも通りに騒がしかった。
窓際の席で、
外の青空は何事もなかったかのように澄み渡っているが、新太の心はどんよりと曇っていた。
頭の中は、昨日の出来事でぐちゃぐちゃだ。
昨日まで付き合っていた
別れ話どころか、莉愛は新太の目の前で堂々と生徒会長の
屈辱的で、胸をえぐるような現実。その瞬間が、翌日になった今でも新太の心に突き刺さっていた。
はぁ……なんでこんなことに……。
新太は深いため息をつき、机に突っ伏した。
教室に響くクラスメイトたちの楽し気な笑い声が、別の世界のものに感じられる。
新太の周りだけ、時間が止まったかのように静かであった。
特に、教室の隅で弾む莉愛の声が耳に痛い。
「ねえ、莉愛、マジであいつと別れたんだって?」
莉愛の友人の声が響く。
好奇心たっぷりのその問いかけに、莉愛は何でもないことのように答えたのだ。
「うん、そうよ。なんか、流れでね~」
その軽やかな口調に、新太の心はさらに締め付けられる。
新太との時間なんて、最初からどうでもよかったと言わんばかりだ。
「えー、つまんないの。もうちょっと遊んでればよかったじゃん!」
「うーん、でもさ、私、あいつのことなんてどうでもよかったし。後ね、聞いてよ! 私ね、ついにあの生徒会長と付き合うことになったの!」
「マジ⁉ 凄いじゃん! 莉愛さ、勝ち組じゃね」
キャッキャと盛り上がる莉愛と、数人の友人たちの声が、机で突っ伏している新太の耳に届く。
彼女たちの笑い声は、新太の傷を嘲笑う。
莉愛にとって、新太との関係はただの暇つぶし――いや、罰ゲームの一環でしかなかったのだ。
くそっ……なんなんだよ、あいつ……。
苛立ちと悔しさが渦巻き、新太の胸はより一層苦しくなった。
莉愛が新太のことを一ミリも意識していないのは明らかであり、彼女は新しい彼氏とのキラキラした未来に目を輝かせている。
それが、新太にはどうしようもなく辛かったのだ。
朝のHRが始まる時間になると、黒色のスーツを着こなした女性の担任教師が教室にやってきた。
キビキビとした動きで教壇に立つ彼女の声は、いつも通りに明るく響く。
「まずは出席確認から取るから! 席につくように!」
その声を聞くなり、クラスメイトらも各々の席に戻り、いつも通りの日常が始まる。
突っ伏していた新太は頭を上げ、ぼんやりとその教室の光景を眺めながら、昨日のことを何度も反芻していた。
莉愛の裏切り、生徒会長のあの自信満々な笑顔、そして――自分の無力さをだ。
昼休み。教室の空気が重たく感じられ、新太は逃げるように廊下へ飛び出した。
購買部で昼食を買い、静かな場所で一人になりたい衝動に駆られていたのだ。
「……新太」
突然、背後から明るい声が響いた。振り返ると、そこには別クラスの
幼馴染の星花の笑顔は希望の光のようで、新太の曇った心を一瞬で照らし出す。
「星花、か」
新太は少し戸惑いながらも、彼女の笑顔に釣られて口元が緩んだ。
「新太、大丈夫だった? 昨日は大変だったね。私、ちょうど購買部行くところなんだけど、一緒にどうかな?」
「そ、そうなんだ。俺も購買部に行くつもりだったから」
「じゃあ、丁度良かったね。新太、行こ!」
星花はニコッと笑うと、新太の手をぐいっと引っ張って廊下を歩き出した。
その積極的な行動に、新太は少しドキッとする。
普段は大人しい星花が、昨日からなんだか少し変わった気がしたからだ。
二人は校舎一階の購買部で、パンと紙パックのジュースを買い、屋上へと向かう。
屋上のフェンス近くのベンチに横に並んで座り、パンを頬張りながら穏やかな時間を過ごす。
新太はパンをかじりながら、ふと昨日のことを思い出した。
そう――昨日、星花から突然の告白を受けた事である。
昨日。新太は莉愛にフラれたショックで、放心状態のまま街を彷徨っていた。
本屋の前でぼんやり立ち尽くしていた時、偶然、星花とばったり出会ったのである。
「新太? どうしたの元気ないね」
星花の声は優しく、どこか心配そうだった。
彼女のその声に、新太は思わず胸の内を吐き出してしまう。
二人は近くのハンバーガーショップに移動し、彼女は店内でも新太の話をじっくり聞いてくれた。
そして――星花が、突然こう切り出したのである。
「新太、私……ずっと、好きだったよ」
突然の事で、新太の頭は真っ白になった。
幼馴染の星花。友達のような存在だった彼女が、まさか自分をそんな風に思っていたなんてと、驚きと混乱で胸がいっぱいになった。
星花の瞳は真剣で、どこか不安げだった。でも、そのまっすぐな眼差しに、新太は胸の奥で何かが弾けるのを感じたのだ。
莉愛に裏切られた痛みがまだ残っていたが、星花の言葉は不思議とその傷を癒してくれる。
返答するように、新太は自分の想いを告げると、星花の顔がパッと輝く。そして、二人は付き合うことになったのである。
現在、二人は屋上のベンチでパンを食べていた。
「ねえ、新太! このジャムパン美味しいよ! ちょっと食べてみて」
「いや、俺、自分のパンあるし……」
「えー、でも! ほら、食べてみて」
星花は少し強引にパンを差し出す。
新太は苦笑いしながら、仕方なく一口かじる。
普通に美味しかった。
ジャムパンはジャムパンでも、レモンカードと生クリームが入った新作のパンだ。
パンというより、ケーキを食べているかのような口触りに、新太は目を輝かせたのである。
「でしょ、美味しいでしょ!」
「うん、俺もそれを買えばよかったな」
星花と一緒にいるだけで、新太の心は少しずつ軽くなっていく。
莉愛の裏切りでできた傷はまだ疼くが、星花の笑顔がそれを優しく包み込んでくれるのだ。
「なあ、星花……昨日、急に告白してくるなんて思ってもみなかったよ。今でもちょっとドキドキして、信じられないんだ」
新太が照れくさそうに言うと、星花はパンを食べる手を止めて真剣な目で新太を見つめた。
「私もね……昨日、勢いで告白しちゃって、実は恥ずかしかったの」
「そ、そうだったのか……?」
「うん! 告白するの凄く緊張したんだからね。でも、こうやって一緒にいられるようになったんだし、新太もあんまり緊張しないで、自然体でいいんだからね」
その言葉に、新太の胸がじんわりと温かくなる。
「……ありがとな、星花。昨日、街中で星花と会わなかったら、俺、今よりもずっと辛かったかもしれないし」
星花は目を細め、満面の笑みを浮かべた。
「新太が元気になってくれるなら、私も嬉しいよ。これからいっぱい思い出作っていこうね。だって、恋人同士なんだから!」
「恋人か……なんか、星花とそういう関係になるの、初めてだからさ。まだ慣れないけど」
「実は私もまだ慣れてないんだよね。ちょっと、今でも緊張してるし、でも自然体でお願いね。私もそうするから」
屋上の風が二人の間を優しく通り抜ける。
新太は星花の笑顔を見て思う。
今が一番楽しいと。
莉愛のことはまだ完全に許せていない。
でも、星花と過ごすこれからの時間が、新しい学校生活を彩ってくれる――そんな予感がしたのだった。
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