付き合っていた元恋人がイケメンな生徒会長と浮気していたんだが、俺は新しく出来た彼女らと闇を暴くことにした!

譲羽唯月

第1話 目の前で恋人を寝取られた日

 鈴木新太すずき/あらた――一七歳。高校二年生の新太は、特別目立つ才能もなく、ごく普通の男子高校生だ。

 成績は中の上、部活には在籍しておらず、友達はそこそこ。

 そんな新太には一つだけ胸を張れることがあった。


 それは、クラスで一番の人気者の松本莉愛まつもと/りあと付き合っていること。

 明るい笑顔にサラサラの栗色の髪、誰からも愛される美少女。

 そんな彼女が、なぜ自分みたいな陰キャ男子と付き合ってくれていたのだ。


 新太自身、時折不思議に思うこともあった。

 が、幸せである事には変わりないと感じていた。少なくとも、そう信じていた――その日までは。




 その日の放課後の校舎は、静けさに包まれていた。

 廊下の窓から差し込む夕陽が、床にオレンジ色の光を投げかけ、どこか寂しげな雰囲気を漂わせている。

 新太は教室に忘れた課題のノートを取りに戻っていた。

 いつもの教室の前に到着するなり、ドアに手を振れた瞬間、異様な空気が新太を包んだ。


「――だからさ、いつまであんなパッとしない奴と付き合ってるんだよ?」


 ドアの隙間から聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

 低く自信に満ちたその声の主は、神崎俊哉かんざき/としや――本校の生徒会長だ。

 整った黒髪に鋭い目元、まるで王子様のような容姿。

 親が大企業の社長というバッググラウンドも相まって、学園中の女子が憧れる完璧なイケメンだ。


「そ、そうだよね。あんな奴、どうでもいいよね……」


 その声に、新太の心臓がドクンと跳ねた。

 聞き間違いであってほしいと願ったが、その声は紛れもなく、新太の恋人――松本莉愛のものだった。


 どうでもいい?

 え、もしかして、俺のこと……?


 頭が真っ白になる。

 新太は思わず教室の入り口付近に身を隠し、息を潜めて二人の会話を盗み聞きした。


「でしょ? 僕の方が学校での立場も上だし、世間的な信頼もあるし。比べるまでもないよね」


 神崎の声は、勝ち誇ったように響く。

 新太の胸が締め付けられる中、莉愛の小さな声が続いた。


「うん……」


 その一言がナイフのように新太の心を突き刺した。


「ていうか、そもそもどういう経緯であんな奴と付き合ったんだ?」


 神崎の質問に、莉愛は一瞬の沈黙の後、淡々と答えた。


「……罰ゲームみたいな感じで。クラスのノリで、なんとなく……」


 罰ゲーム?


 その言葉が、新太の心に深い亀裂を走らせた。


 二学年に進級してからの二ヶ月間、共に過ごした思い出が脳内を駆け巡る。

 放課後のデート、共に笑い合った瞬間、ぎこちなく繋いだ手――すべてが、ただの冗談だったとは、なかなか信じられずにいた。


「そういうことね。君みたいな子が、あんな奴と本気で付き合うわけないもんな。じゃあ、振っても問題ないんじゃないか?」

「うん……そうだね」


 莉愛の声は小さく、だがはっきりと頷く音が教室に響いた。


 新太は凍りついたまま、声を出せずにドアの隙間から、その光景を眺める事しか出来なかったのだ。

 刹那、ショックで足が震え、思わず小さな足音を立ててしまう。

 その瞬間、最悪のタイミングで、二人が扉の先にいる新太の存在に気づいたのである。


「ん? 誰かと思えば、鈴木か。悪いな、この子は今から僕のものだから」


 神崎がニヤリと笑い、新太を見下すように言った。

 完璧な顔に浮かぶ嘲笑が、新太の心をさらに抉る。


「罰ゲームで付き合ってたって聞いて、さすがに可哀想だと思ってね」

「……」


 声が出なかった。

 新太はゆっくりと莉愛に視線を向けた。が、彼女は目を逸らし、ただ一言、冷たく告げた。


「そういうことだから……」


 それだけ言うと、莉愛は神崎と一緒に、新太の目の前を横切るように教室を出て行ったのである。

 二人の足音が遠ざかる中、教室に取り残された新太は膝から崩れ落ちた。


「……そ、そうだよな、俺みたいな冴えない奴が莉愛みたいな子と付き合えるわけないしな……」


 絶望が胸を締め付ける。忘れ物を乱暴に通学用のリュックに詰めると、新太はフラフラと校舎を後にしたのだ。

 夕陽に染まる通学路すら、冷たく無情に感じられたのだった。




 新太は気分を変えようと帰り道に街に立ち寄る。

 いつもの本屋の前を通りかかると、ガラス扉から出てきた女の子と目が合った。


「あれ……新太?」


 柔らかな声に、俯きがちだった新太はハッと顔を上げた。


「え、星花……?」


 そこにいたのは、同じ学校に通う幼馴染の青葉星花あおば/せいかだった。

 長い黒髪に静かな瞳、大人しい性格でいつも本を読んでいるような子。

 高校に入ってからはクラスが別になり、最近はあまり話す機会がなかった。


 彼女には派手さはないものの、どこか安心感のある雰囲気が、幼馴染の魅力であった。


「久しぶりだね、新太。こんな時間に珍しいね」


 星花の声は懐かしく、どこか温かい。だが、新太の心はまだ冷え切っていた。


「う、うん。ちょっと色々あってね」


 誤魔化すように笑ったが、声が震えているのが自分でも分かった。


 星花は首を傾げ、じっと新太を見つめた。


「……なんか、元気ないね。どうかしたの? 私でいいなら話でも聞くけど」


 幼馴染の姿を見てからというもの、新太は自分でも驚くほど、今日の出来事をぽろぽろと話し始めたのだ。


 莉愛と別れたことや、付き合っていた経緯が罰ゲームだったこと、神崎のこと――すべてを吐き出したのである。


 それから二人は近くのハンバーガー店に入り、ハンバーガーやポテト、ジュースを注文し、席に着いてからも話を続けた。

 その間も、星花は黙って聞いてくれた。


 時折、それは酷いねと眉を寄せたり、生徒会長ってそんな人だったのと憤ったり。

 幼馴染の反応が、凍てついていた新太の心を少しずつ溶かしていった。


「そういう流れでフラれたってわけなんだよね」


 新太は自嘲気味に笑い、気分を落ち着かせるためにコーラを一気飲みしたのだ。


 星花は、ふっと目を伏せ、ポテトを手に持ったまま考え込むような仕草を見せた。

 そして、意を決したように顔を上げた。


「ねえ、新太……それなら、私と付き合ってみない?」

「え……?」


 新太はコーラを吹きそうになり、慌てて咳き込んだ。


「な、なに 急に?」


 星花の頬がほんのり赤くなり、彼女は大人しい声で、だがはっきりと続けた。


「私ね。新太のこと、本当はね、ずっと好きだったの。罰ゲームとか、そんなんじゃないよ。本気で新太と一緒にいたいなって……思ってるの」


 新太の頭がまたも真っ白になった。

 星花の真剣な瞳、控えめだけどまっすぐな言葉。

 心臓がドクドクと高鳴り、さっきまでの絶望が嘘のように薄れていく。


「お、俺でいいのか……? 星花なら他にも告白されることありそうなのに」

「私、そんなにモテる方じゃないよ。でも、新太に、私の気持ちを打ち明けるなら、今しかないかなって。新太の支えになりたいし」


 星花は小さくはにかみながら言った。その笑顔は夕陽よりも温かく、新太の心を包み込んだ。


「じゃ、じゃあ……その、よろしく、かな? 昔からの付き合いだけど、付き合うってのは初めてだし」


 新太は照れくさそうに頭をかき、ぎこちなく答えた。


「うん、そうだね。恋人としてよろしくね、新太!」


 星花は静かに、だが嬉しそうに微笑んだ。

 二人は夜の七時辺りまで、ハンバーガー店で食事をしつつも、久しぶりの会話に華を咲かせるのだった。

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