茨の道 8万文字以上
鷹山トシキ
第1話 最悪な青春
彼の中学時代は、決して輝かしいものではなかった。生まれつき虚弱体質で、走ればすぐに息が切れ、冬になればすぐに風邪をひいた。ガリガリの体、引っ込み思案な性格、そして大きな丸メガネ――教室では“ヨボヨボ”とあだ名され、誰からも本名で呼ばれることはなかった。
1995年の冬の朝、小池は昇降口で立ち尽くしていた。靴箱にあるはずの上履きが、どこにも見当たらないのだ。
「またかよ……」
誰に聞いても知らんぷり。職員室に駆け込む勇気もない。仕方なく、裸足で教室まで歩いた。冷たい床の感触が、彼の胸の奥をさらに冷たく締めつける。
黒板に書かれた“月曜の当番”の欄には、彼の名前に「×」印が書き加えられていた。誰の仕業か、分かりきっている。だが、声を上げればまた何倍にもなって返ってくるだけだ。
彼の心の奥には、いつしか静かだが濃い怒りが芽生え始めていた。
> 「見てろよ……絶対に、見返してやる」
その言葉は、彼の心の中だけで何度も繰り返され、やがて静かな炎となって彼の胸に灯り続けることになる。
同じ頃、茨城県水戸市。
冬の始まりを告げる風が、旧市街のビル街を吹き抜けていた。
水戸駅南口に佇む男の瞳には、常陸の闇夜に消えたかつての「誠」の血が宿っている。
その男の名は――
表の顔は、イベント会社「RING Promotions」の代表取締役。
だが、その実態は――地下経済、政界、暴力団、そしてネット空間までを掌握する犯罪組織**RING《リング》**の
RINGの構成員は、特殊部隊崩れの殺し屋、情報屋、ブローカー、格闘家、占術師、果てはホワイトハッカーまで――
まるで“円環”のように、それぞれが独自の役割を担いながら組織を構成している。
> 「幕末の時代、誠は刃で斬った。
今の時代、俺たちはリングで“繋がる”。
この国の腐敗を――内側から食い破る。」
慎司の理想は“天誅”などという古臭い正義ではない。
破壊と再構築。
国家というシステムを内側から崩壊させ、裏社会の論理で新たな秩序を築くこと。
RINGのシンボルは、古の「水戸学」の思想を再構成した現代版・尊皇革命マニフェスト。
そこにはこう書かれている。
> 「我ら、表を棄て、裏に立つ。
言論なき正義を、暴力と情報で実行せしむ。」
水戸の夜に、再び血が流れる。
県庁の建て替えに絡んだ巨大な利権、地元ヤクザの排除命令、ネット掲示板での情報操作――
全てはRINGが仕掛けた“布石”だった。
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慎司のデスクには、黒漆塗りの箱が置かれていた。
蓋を開けると、中には――**芹沢鴨が暗殺された夜に使われたと伝わる
> 「鴨が果たせなかった維新を、俺がやる」
「平成の“壬生狼”は、茨城から始まるんだよ」
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