第3話評価

 ADは脚本を読んで一言だけ言った。

「なんとか形になったな。これなら次の会議で出しても大丈夫だろう」

 いつも見てくれるADは偉そうに感想を述べている。

「そうですか。締め切りに間に合って何よりです。その会議はいつになりそうですか?」

「君はだいぶ早く仕上げたからな。もう2,3日かかると思っていたよ。各所には3日後に会議をセッティングした。そこできっちりとプレゼンしてもらえればいいさ」

「では、少し仮眠をとらせてもらっても?」

「ああ。会議までは休みでいいさ。その顔ひどいぞ。きちんと睡眠とってうまいもん食べて身だしなみ整えてこい」


「はい」

 といっても帰りは車なわけで。

 横になって15分ほどしたが、仮眠と呼べるほどのものではない。会社には仮眠できるスペースはない。

「またコーヒーか」

 無糖の缶コーヒーをかう。

 いつも通り、自販機の4ケタの数字はそろわない。

「そう何度もそろわないよな」

 苦笑しながら、自分の車へ向かう。

 そこでまたあの時の美少女とすれ違う。

(相変わらず美人だ。香水か何かを付けているのかいい匂いだ)

「変態か。俺は」

 お気に入りの車に乗り込み、アクセルを吹かす。

「今日は晴れか。最近天気なんざ気にすることもなかったな」

 景色を綺麗だと思うのは心がきれいな証拠だという。

(俺にはそんな暇ないな) 

 ADに言われた通り、まずは睡眠だ。

 安全運転を心がけ、自宅に到着した。

 久しぶりに帰った自宅。3日ぶりだろうか。

 洗濯もの山積みの中、ベッドへとたどり着く。

 我ながら汚いなと思うけれど、今は企画を通さないと生きていけない状況だったから仕方ない。

 自分に言い聞かせて目を閉じた。

(自分は潔癖症だと思っていたのに、仕事が進まないと、ここまで汚くなるものなのか。だらしないな)

 日頃の行いに反省しながらも、仕事のことで頭がいっぱいだ。

「お休み」

 切り替えよう。今は仮眠することだ。

 この企画が通らなければこの物件も引き払い、もっと安い物件に移らないとやっていけない。

 正念場とはこのことだ。

「これで成功すればいいんだ」

 呟きは誰にも聞かれることなく消えていった。


 ☆☆☆

 スマホの目覚ましで目が覚めた。

 日曜の17時。

(あれから10時間以上寝ていたのか)

 今日は晴れなはずだったのに、日差しの変化にも気が付かないくらい爆睡していたらしい。

 昨日は徹夜だったから採算は合っているのかもしれない。

 腹は減ったが、冷蔵庫の中は空だ。

 洗濯ものを片付け、何か食品を買いに行く。

(キャッシュにしてから本当に大きな現金は持ち歩かないな)

 手元には自販機用の百円だましかない。

 まだ、職場の自販機はコイン対応しかしていないからだ。

 タバコを補充し、当面必要な食材を買いたし、きちんとした休日が始まる。

(ソロソロ洗濯物が仕上がっているかな)

 食材をシコタマ買って、再び自宅へと戻る。

 食材を冷蔵庫や収納ラックに放り込み、人間らしい部屋が完成していく。

「あとは、掃除機をかければ完璧なのだがなぁ」

 ぼやきながら、洗濯物を干し、大きなゴミを拾い、ベッドへと戻る。

 着信はない。

「あれで、企画成立していたならよかった」

 心配は尽きないが、今日は安心していいようだ。

(いつもならガンガン連絡が来るからな)

 久々に納得のいく仕事ができた。

 ハツラツとした気分だが、これから偉い人との会議が待っている。

「これも買い足しておかないとな」

 ネットでサプリメントを買った。

 最近の激務に耐えられているのはサプリメントのおかげといっていい。

 時刻は19時55分。

「もうひと眠りできそうだ」

 明日また考えればいいと床に就いた。

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